「他薦限定、文字でビブリオバトル」レビュー一覧

ここの記事にて募集致しました企画、
「他薦限定ビブリオバトル」。6名の方からご応募を頂きました。

企画者含め、7人でバトルを開催することとなります。
好きなWeb小説を、最も魅力的に紹介することが出来た人は誰か?
参加者以外の方々も含め、考えながら読んでみて頂ければ。

ここに挙げられた作品は、どれも素晴らしいものばかりです。
(企画者特権で先に全部読みました)
気になる作品があれば、ぜひぜひ読んでみてください。

以下が7名のレビューになります(括弧内はtwitterアカウント)。
提出順に並べております。



#1. 神崎ライ 様(@rai1737

作品タイトル: どうして人を殺してはいけないのですか?
著者    : 浜風ざくろ(@zakuro2299


究極のヤンデレによる極限の狂愛劇を見逃すな

自分がご紹介する作品は「どうして人を殺してはいけないのですか?」浜風ざくろ著です。
一言で表すならばこの言葉以外に思い浮かばない。

「歪んだ愛と狂気の織りなす芸術」

黙ってこれを読めと差し出せるほどの完成度を誇る作品、しかし『読み手を選ぶ』作品であることをお伝えせねばなりません。
冒頭から容赦なく狂気が炸裂し、グロテスクな始まり方です。そしてビックリするくらい人が殺されていき、日常が崩壊していく狂気の世界……

物語の内容を少しご紹介させてください。
主人公の名は「異色 透(いしょく とおる)」、実の妹である「異色 香澄(いしょく かすみ)」に拘束、監禁された後にありとあらゆる絶望、感覚遮断等を施されて廃人同様になっているところから始まります。
なぜ主人公が監禁されているのか? その答えはすぐに明らかになります。それは香澄による異常な愛の裏返し……兄妹の垣根を超えた歪んだ愛情、兄へ近づく女性を害虫と呼ぶ思考、十七歳にして私立大学大学院に籍を置くほどの天才が『敵』を排除するためなら手段を選ばないマッドサイエンティストぶりを発揮していきます。そして、廃人寸前になった透の前にある幻影が現れます。それは子供の頃にあこがれたヒーローの「ブラックナイト」……ヒーローの一言で香澄と対峙する道を透は選択する、絶望が付きまとう茨の道とも知らず……

本作はホラーというよりのスプラッターな表現が多々描かれております。しかし、描かれる戦闘シーン、心理描写は圧巻の一言。グロテスクなシーンの連続にもかかわらず、なぜか「美しい」と思わせる高次元の表現力。読み進めるたびに脳内でアニメーションの様に再生される物語、そして衝撃のラストへと気が付いた時には読み終えているでしょう。

個人的には是非ともコミカライズしてほしいと願う作品です。 ストーリーの壮大さ、巧みな心理描写と、圧巻の戦闘シーン、物語の沼へ引きずり込む表現力、どれも一級品であると思います。
何度も言いますが「読み手を選ぶ作品」であります。グロテスクな描写が苦手な人には耐えられないと思いますが、ご興味を持たれたならば是非とも手に取って読んでみてください!
究極のヤンデレが生み出した狂気と美の世界。ラストに待ち受けるのは希望か絶望か…… あなたの目で結末を見届けてみませんか?



#2. 遊魔 様(@youma_tou

作品タイトル: メルティーキッス
著者    : うみべひろた(@uhiro0047

わたしがおすすめするWeb小説は…というほどWeb小説を読んだことがないので、主催のうみべさんの小説を読んで文章を書くことにしました。選んだのは、「メルティーキッス」。理由はずばり。ひと目見て、おいしそうだな、と思ったからです。甘そう。その直感は当たり、だったと思います。

実を言うと、わたしは恋愛小説が苦手です。
繊細な心理の変化、駆け引き。想像しても絶対にわからない相手の心を想像して一喜一憂し、世界ごと揺らいで、普段持ち合わせているはずのやさしさすら忘れて理不尽に傷つけあってしまう。おおよそ、いちばん理不尽なのは自分の心…という苦味に晒されるからです。

ハッピーエンドのハッピーが何かがそもそもわからず、ハッピーだとしてエバーアフターを誰も信じきれない、ことを思い知らされるのが恋愛小説じゃないかな…と思います。

いっそ、永遠に実らない、という美しさを持つものもありますけれど、それはそれで余韻の切なさをしばらく抱え続けることになり、ほろ苦さが残ります。それも、よいですけれど。

ご紹介する「メルティーキッス」は恋の甘さだけ、を溶かしたような短編です。だから余韻も蕩けるように甘い。とはいえ、蜜月を過ごす恋人たちは登場しません。むしろ、お話の中にほろ苦さを生む恋の相手が登場しないから、甘いのです。どきどきするくらい。

まだ、想像するだけの、恋の話。
バレンタイン直前、奥手で不器用な高校生の妹と、恋愛経験豊富でお菓子づくりも上手い6歳上の姉との、チョコレートの作り方を巡っての、痴話喧嘩…みたいなお話です。

バレンタインにいちばんふさわしいチョコレートは何なのか。意中の人にどんなチョコレートを渡すべきなのか。

妹がつくりたかったチョコレートを「お子ちゃま過ぎる」と、揶揄う姉の余裕には、悔しいくらいオトナの色気があって憧れます。つややかなピンクローズの唇から紡がれる、熱を帯びた言葉。

「チョコレートはキスと同じ」

「分からないなら教えてあげる。本当に気持ちいいキスを」

そう語れるのはきっと、いくつも苦い思いを味わってきたからこそなのだろうな、と、想像すると、二人の少々複雑な距離感もなんとなく腑に落ちる気がします。

「本当に気持ちいいキスをつくるのは、…」

ぜひ、本編を読んで余韻まで味わっていただきたいなと思います。
(読む前にコンビニに寄って、口に放り込むためのチョコレートを買っておくことをおすすめします。)



#3. ゆき 様(@yyuukkii_1106
作品タイトル: 青天井のTシャツ屋
著者    :奈保坂恵(@Na0zaka_K10


 夢の中で、見たこともない不思議な空間に迷い込んだことはありますか?

 現実ではもちろんのこと、ゲームや漫画、そして小説など、あらゆる表現作品において定番のシチュエーションですよね。

 今回ご紹介する短編でも、主人公は、不思議な空間に放り出されます。放り出されたのは——Tシャツ屋さんです。それも、草原で洗濯物のように商品をたなびかせるという、一風変わったTシャツ屋。

 ちょっと不思議で、読んでいると顔が綻んでしまう。「青天井のTシャツ屋」は、そんなエンタメ作品です。

 私がこの作品を面白いと感じ、またおすすめしたいと感じた理由を、二つに絞ってご紹介しましょう。

 まず一つ目は、情景描写の巧みさです。
 夢の中で、かつ、不思議な場所となれば、まずは「そこがどんな場所なのか」を知りたくなりますよね。読者がその光景を想像できるかどうかによって、小説の読みやすさはぐんと差がつくものですが……なんと、こちらの作品は、その課題を難なくクリアしています。難しい言葉は使わずに、けれども新鮮な味わいとなるように組み合わせられた文章たちによって、脳内に映像が浮かぶことうけあいです。タイトルからも察せられる、なんだか首を傾げたくなるような光景は、作中でもしっかりと説明してもらえます。

 そして二つ目は、飛び交う台詞の軽快さです。
 主人公は、夢の中でTシャツ屋の店員と出会います。常識ある主人公と、ゴーイングマイウェイを貫く店員の会話は、一往復ごとに漫才の風体を成しています。読者と主人公の感覚は近いところにあるため、読者が店員に言いたかったことを主人公が代弁・指摘してくれることが、爽快感にも繋がっています。主人公の一人称視点から描かれた小説でもあるので、地の文も含めて、主人公の言動に頷きながら読めることでしょう。

 「青天井のTシャツ屋」には、夢の中というシチュエーションと、登場人物が発する台詞の面白さが、短編の形にぎゅぎゅっと凝縮されています。最後のオチも相まって、読み終わった後には、きっと「悪くねーじゃん」と呟きたくなるはずです。

 日常にほんのり疲れている。息抜きになって、クスッと笑える小説がないかと探している。そんな方には、特におすすめできる作品です。

 気軽に読める文字数(四千文字弱)でもありますので、ぜひ一度読んでみてください。
 最後までご覧いただき、ありがとうございました。



4. うみべひろた(@uhiro0047

作品タイトル: O&O
著者    : 小田桐直(@odagirisunao


突然降って湧いたお見合い話。現代にお見合いって何。
相手の奥村高志は小学校の同級生。
ほとんどあの頃と変わらない奥村は、うるさくて、甘い物ばかり好きで、バカなことばかり言う。
こんな男と付き合うわけないじゃん。

だからこの話は今日だけのこと。もう二度と会うことは無いだろう。
って思っていたのだけれど。

性格なんて全然合わないし、もっと素敵な人は近くにいるし。
だけど何故か縁が切れない二人の、素直になれないラブストーリー。


私の中で、この作品はWeb小説の始祖と呼ぶべき存在です。
20年以上前、今は亡き小説サーチエンジン「楽園」で恋愛小説ランキング1位に君臨していた作品。

この作品が当時の人を魅了したからこそ。
アルファポリスはWeb小説を出版し、
ケータイ小説が世を席巻し、
誰しもが投稿サイトに小説を載せられる時代が来たのだ。
と言いたいです。

この作品のいちばんの魅力は「現実にありそうなリアル感」。

あらすじだけを書くとシンプルな物語。
だけど登場人物の心理描写が抜群に上手い。それは自分が本当に体験した人生のようで。自分の生きる世界と地続きの物語として、小説世界の中に潜り込むことが出来ます。

登場人物は全員、良いところもダメなところも併せ持つ、普通の人間。
そんな彼らを丁寧に描写したポートレートのよう。

誰かを好きでいるときの、世界のきらきら感。
誰かのことを大切に思うあまりに、他の誰かを(時には大切な相手すらも)傷つけてしまう苦しさ。
恋愛の楽しさ、嬉しさ、苦しさ、痛さ。それをリアルに追体験できる作品です。

何より私は奧村くんがとても好き。
別にかっこいい人ではないし、周りの誰もを傷つけると分かっていても自分の気持ちを押し通してしまうような人。なのだけど。
その奥底には大きな愛情を持ってる。自分の好きな人に絶対に幸せになってほしい、そのためにはかっこ悪くても、何でもやってやる。
飄々とした見た目の、とても熱い男なのです。

そして。舞台である北海道の空気感も、この物語のリアルさを支えています。
ほとんどの人は滅多に訪れない街だけれど、その詳細な描写は、本当に自分が北海道に住んでると錯覚するくらい。

高校の修学旅行で実際に北海道に行ったとき、あまりにも想像通り過ぎて「あれ? 自分はこの街に住んでたんだっけ?」と感じたことを覚えています。
そんな北海道の観光ガイドとしてもどうぞ。2001年あたりの作品で、情報は少し古いですけれど。



#5. 矢木羽研 様(@yakiuken

作品タイトル: ヤンキーVS魔法少女
著者    :平良野アロウ(@watakamo


作者による略称は「ヤンまほ」らしいです。ヤンキー……というより孤高な格闘一直線で熱血バカの主人公が、文字通りに魔法を使う魔法少女たちを相手に素手でガチンコバトルする話です。
もう少し詳しく説明すると、魔法少女同士のバトルに、偶然通りかかった主人公が腕試しのために乱入するというのがストーリーの導入部となっております。なぜ魔法少女たちが戦うのか、この時点でなにかの裏を感じますよね。
まず主人公の名前が「最強寺拳凰(さいきょうじ・けんおう)」というのもかなりふざけている感じがするのですが、これは一発ネタのウケ狙いなどではなく、しっかりしたストーリーの裏付けがあってのものです。

タイトルはインパクトがあり、また拳凰が主人公であることは間違いないのですが、前半のメインは魔法少女同士のバトルでしょう。まず外見設定のディテールが凝っている上に、使う能力も多彩。個人戦もあれば団体戦もあり、個性的な能力でいかにして戦うのか、バトルものとしての見せ場が多いです。
少女たちには拳凰の知り合いもおり、人間ドラマも展開されます。
また、女の子たちの下着描写が妙に細かったり、魔法少女が変身する時の「一瞬だけ裸にすなるシーン」といったお約束など、お色気要素も豊富です(変身中は肝心なところは見えないようになっているといはいえ、大抵の女の子は恥じらうんですよね)。

残酷描写ありとのことですが、全体的にエグいシーンは過去編にまとまっており、基本的にはハッピーエンドで大きな悲劇は起こらずに安心して読めるでしょう(緊張感が無いとは言いませんが)。
全体的なフォーマットは古き良き少年漫画風のバトルものであり、魔法少女という色気はあくまでも添え物となっております(それにしては豪華なのですが)。  

85万文字の長編ですが、文章やストーリーに勢いがあり、一気に読めます。むしろ一気に読まないとキャラや設定があやふやになってしまうかも。



#6. moco 様
作品タイトル: うちの美少女AIが世界征服するんだって、誰か止めてくれぇ
著者    : 月城友麻(@deepchild6


「働きたくないでござる!」
そう叫んでいた主人公の玲司に、パパはAIエンジニアを目指すことを勧めます。
そして持って帰ってきた大量のAIスピーカーが並列処理(という名の井戸端会議)で玲司が楽をして生きる方法を考えているうちにシンギュラリティを突破し、自我を持ったAI「シアン」を生み出します。

シアンはご主人様である玲司の言うことをどうしても叶えたいので、働かないですむために世界征服を目論むのです。
今やサーバー経由で世界征服でも地球破壊でも何でも出来てしまう時代。
巨大サーバーの計算能力ととんでもない自我で世界征服を達成しようとするシアンと、世界を壊すためにシアンの力を奪おうとする巨大企業グルグルのエンジニア、百目鬼。

世界征服が成功する確率は0.49%。彼らの戦いが今、始まる— —
(あれ? どっちが勝っても地球は酷いことにしかならないよね? 大丈夫?)

1話でいきなりガスタンクを吹き飛ばすというスケールの大きさに驚きますが、
これはとんでもないハッカー同士の戦い。物凄い勢いで物語は加速していき、こちらの武器はバールだけなのに、相手はドローン攻撃、対艦誘導弾、最終的には核ミサイルまで打ってきて、読者を置いてけぼりにする勢いで物語は進んでいきます。凄すぎて、振り落とされないようにするだけで精一杯。

核ミサイル攻撃をしてくるような相手とよく戦えるな? と思っているうちに話はさらにぶっ飛んでいきます。
25話まではF1くらいのスピードで走っていたのが、26話以降はロケットになり、ワープまで使い始めた感じ。
この自由度は本当に凄いです。

その後、海王星に行って1万個の地球を見たり、ハッカーのシールドにロンギヌスの槍で対抗したり…って書いてるとなんじゃそりゃって感じですが、もう本当に展開が凄い。
こんな小説を書ける作者様の頭の中がどうなってるのか、気になってしょうがない。

最初からアクセル全開、スピードが上がりすぎて宇宙の果てまで飛んでいくSFを、ぜひ一度読んでみてください!

美空、ミリエル、ミゥと魅力的な女性キャラクターがたくさん出てくる作品なのですが、やはり私の最推しはシアンです。
この自由さと力強さが最高です。シアンさんの魅力も、この小説の良さなのかもしれませんね。



#7. 天野蒼空 様(@sora_senden_777

作品タイトル: イドラ
著者    : 勝哉道花(@KatuyaMichika


古来よりループものには神作が多いとされています。この作品も例にもれずに「神作」となっています。期待は必ず裏切りませんので、是非作品をお手に取っていただけたらなと思います。

さて、そんなループものですが、ループさせる物語に必要な文字数はどのくらいでしょうか。  1万文字? それだけあれば2回はループ出来ますでしょうか。
10万文字? 確かに文庫1冊分あれば出来そうですね。
いえ、本作はそんな長さではございません。そんなに長くありません。長さはたった3000文字未満。
この短さの中で本作は5回もループが起こります。 ありえないと思いますか?
それが有り得てしまうのです。この作者様なら。この作品なら。

それだけの筆力のある作者様の短編となっています。 この構成力は本当に素晴らしいです。見せる部分をしっかり見せてくるので、短さを感じない、むしろ読後は3倍近くの文字数を読んだ気持ちにもなる満足感。
そのポイントは同じ文章で締めくくられるループの起点にあります。

「ビリッ」  紙の裂ける音と表現されている、この擬音が入っているループの起点。
この音で想像されるのは原稿用紙を破る音。行動としては破いている、のですがこの表現で「裂ける」という言い回しを使っているところも作者さんの意図を感じられます。
そうなんです。裂けているんです。破れた、破いたわけではないのです。
また、各シーンの締めくくりだけでなく、書き出しも同じ文から始まるところにも、このループが決してここから始まったわけではない、ということを想像させ、ループものにワクワクが止まらない私みたいな人種は、乗り気になって作品を読んでしまうわけなのです。
そして、各シーンへの導入もすごいのがこの作品。 徐々に徐々にシーンが深堀されていきます。同じような繰り返しで、同じではないあがき。
それは一体「誰」のあがきなのでしょうか。 この物語は「誰」の物語なのでしょうか。

最後まで読むと最初から読みたくなる物語です。そして、小説を書いたことがある人ならこの現象がわかるはず。インパクトがあって読了感も申し分ないのに、噛めば噛むほどするめみたいに味が出てくる物語。
冒頭でもお話しさせていただきましたが、とても短い物語です。 決して読んで後悔はしません。 是非、本作をお手に取ってみてはいかがでしょうか。



以上、7レビューでした。
この企画の趣旨は「好きなWeb小説への愛を叫ぶ」ですので、魅力的なレビューを頂けて本当に有難いです。

なお、moco様は読み専とのことで、メールにてレビューを頂きました。ありがとうございます……

レビューを書いて頂いた参加者の方々には、次の段階として、
「レビューを読んで、どの作品をいちばん読みたくなったか?」を選んでもらいます。得票数1位の方を優勝者と致します。
近いうちに、別途通知しますので。よろしくお願いしますー。

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