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シビュラ社会の移民問題をめぐるあれこれ②(マシュマロ返信)

※ふせったーより格納
初出:2019/12/22

以下の3期感想へマシュマロが来たので回答します。

マシュマロ:
サイコパスの開国政策に関して、劇場版一作目(SSではない方です)はご覧になりましたか?数人が空リプで同じ指摘をしていた為こちらへ送りました


もちろん劇場版は見ました。1期、2期、劇場版、Sinner of the system三作、スピンオフ小説は押さえています。少し時間が経っているのと今手元に資料がありませんので、記憶があやふやなところがあるのはお許しください。
学術論文でなし、趣味で書く感想だから出典のチェックはいいやと思って手を抜きました。ごめんなさい。
(これは論文でも評論でもありません。個人の感想です。わたしには思想・言論の自由があり、あなたにも同じ自由があります。解釈違いと感じるのはあなたの自由です。わたしにそれを否定する権利はありません)

シビュラの開国政策について「全く明かされていない」は言い過ぎでした。すみません。感情的になりすぎて過剰な表現をしてしまいました。
しかしながら、わたしが最も重視しているのは「なぜ移民は排斥されるのか」であり、これに関する十分な説明は作中で得られていないと感じています。

マシュマロ返信①開国政策について

開国と言っても、海外進出と移民は別問題です。これは現在の日本でも同じです。
海外進出はSEAUnへのシビュラシステムの輸出です。中から外へ出て行くことを指します。これについては劇場版が語っています。最終的に、輸出先の市民はシビュラシステムの導入を選択しました。朱はそれが市民の意思ならば、と否定はしません。同じ結末をたどるとしても、その手続き(=民主主義的な投票)を重視する、それが朱のスタンスです。
(ところで最近見たニュースで、中国は社会信用システムというシビュラシステムと見まごうような監視体制を着々と進めていますが、今度は輸出するらしいですね。SEAUnかよと思いました)

しかしながら、移民は「外から中へ」です。
現在の日本も海外進出は普通に行っています。江戸時代の鎖国だって、完全に海外との繋がりを絶っていたわけではなく、幕府の管理の下、出島で交易は行われ、海外の情報もある程度入手していました(専門ではないのでこのへんでやめます)。
海外拠点のある日本企業はまったくもって珍しくありません。トヨタの車は世界中を走っています。それに伴い、海外から人が来ることもあります。しかし、これは作中で差別される移民とは全く性質が異なります。
仕事で来る外国人(や留学生)は基本的に高学歴であったり、日本のことが好きであったりするでしょう。人数が少ないというのもあります。家族を呼び寄せ、自分たちだけのコミュニティを作り上げ、現地人と大きな軋轢を生むなんてことはまず考えられません(ないとは言いませんが)。

しかし、出稼ぎであったり、難民として逃げてくる移民は違います。日本に同化する意思/動機付けも低いでしょう。
(余談ですが、帰化申請する際にはこのあたりが露骨に出ます。高学歴で社会的信用度の高い職に就いていると非常にスムーズに帰化が認められます。差別ではなく、治安維持のためにはそうするのがごく普通だからです。国民国家は国民を守るのが大前提ですから、外から人を受け入れるのには慎重になります。移民国家は別ですが)

この「現地人と移民の軋轢」の詳しい内容が全くもって欠如していることを、わたしは問題視しています。
移民と現地人が小競り合いをしているから治安が悪い、では不十分です。説明になっていません。どうして小競り合いをするのか、それについてよくわからないのです。
何らかの理由があるから、移民と揉めるのです。些細な生活習慣だったり(家事のオートメーション化が進んでいるので、ゴミ出しで揉めることはないでしょうけど)、働き口を奪われたり。ろくに働いてもいない移民へ手厚い保護があることを不公平に思うドイツ人の話をNHKクローズアップ現代で見たことがあります。
あるいは、単に違う風貌の人間がいることへの漠然とした忌避感もあるでしょう。人間は集団を形成する生き物ですから、多かれ少なかれ、よそ者を排除する心理はごく自然です。

しかし、これらは、シビュラ社会で問題になっているようには到底見えません。

マシュマロをいただいてから気づきましたが、おそらく制作側とわたしで、移民問題の捉え方が違うのでしょう。
制作側は「差別される移民がいかにして社会に受け入れられるのか」を描きたかったようにも見えます。一方、わたしは「なぜ移民が差別されるのか」の説明を欲しているのです。
「日本人と移民を同じ街に住まわせたら、自動的に軋轢が生まれる」、そんなわけはありません。必ず理由があります。

現在の日本は排他的と言われることがありますし、実際、人口に占める外国人の割合を見るとそのように捉えていいと思います(確かせいぜい2%だったはずです。欧州とは比べものにならないほど低いです)。
だからといって、同じ職場で普通に働いている外国人に対して「外国人だから」と露骨に差別しますか?

作中の市民たちは、いずれわたしたちがたどり着くであろう、可能性のひとつです。わたしたちは、生活も文化も言語も脅かされていないのに、移民を露骨に差別するほど愚昧なのでしょうか。
まして、シビュラの同化政策の下、徹底的に教育された準日本人に対して、一体何の問題が生じるのでしょうか。同じように日本語を話し、(家庭内はさておき少なくとも外では)日本の風習に馴染み、シビュラに従う存在を、嫌悪していい理由とは何なのでしょう。

外見が問題にならないことは既に述べました。残るは内面ですが、潜在犯ではない人間を、どうして差別して許されるのでしょうか。シビュラシステムはなぜ公然と理由のない差別を認めるのでしょうか。

シビュラは多様性からほど遠い存在です。
同性愛は公に認められました。しかし、これはサイコパス以外の属性すべてを無に帰したからです。多様性を認めるのではなく、多様であることに価値を見いださないがゆえの公平性です。
「黒い肌も素敵ね」ではなくて、「肌の色? それサイコパスと何か関係があるの?」という社会です。
その点、現実とは異なりますが、超監視社会のディストピアな世界観としては納得です。

もちろんこれは建前で、作中の現実として、サイコパスが思わしくないために希望する職につけない、クリアな色相をうらやむ、なんて人もいます。
表だってシビュラを批判することは許されません。建前上は幸福な社会、それこそが楽園の虚飾をまとったディストピアです。

イギリスがEUを脱退するかどうかで3年も揉めたのは、海外(イギリスも島国ですし、栄光ある孤立なんかをやっていたあたりがとても日本と似ていますね)との繋がりにはデメリットがあり、もちろんメリットもあるからです。
そのメリットは何だったのか。3期最終話まで来ても、納得できるだけの描写はされませんでした。実は再び少子化が進行して労働力が不足していたのでしょうか? わたしにはわかりません。

わたしが承服しかねるのは、これにつきます。一体何のために移民を入れたのでしょうか。
いたずらに日本人と入国者の軋轢を生んだだけなら、シビュラの政策が間違っていたことになります。けれども、話の方向としては移民と日本人の融和を目指しているようです(それが悪いとは言いません)。

なぜ軋轢が生まれるのかを解き明かすことなくして、真の融和は得られません。制作側は、あまりにも移民問題を軽視しているのではないでしょうか。

言語教育についての補足

劇場版については、個人的には、英語教育をいつからやっていたのかは大変気になるところでした。言語教育には非常に時間がかかりますが、歴史の授業が消滅した世の中で、鎖国しているのに市民に外国語教育をしていたのでしょうか。まあ、シビュラの考えることは常人にはわかりませんので、あらゆる可能性を視野に入れて、そのように計らっていたのでしょう。

小説版によると、100年後の日本には公用語が制定されているようです。ノベライズで炯が「公用語である日本語と英語の他に母語のロシア語もできる」とありましたから、少なくとも日本語は公用語のようです。
(ただ、この文章だと公用語がどこにかかるのか少し気になるところではあります。英語は公用語に入るのでしょうか。英語が入るとなると、世界観の崩壊が更に進みます)

そもそも鎖国体制下で公用語が制定されたことに驚きしかありません。特に意図はないのかもしれないけど(それはそれでちょっと……)。
わざわざ公用語を制定するのはその言語の地位が脅かされているからです。合衆国があまりにもヒスパニックが多くて、連邦の公用語を英語にしようかどうしようかと悩んでいる話があるくらいです(州ごとの公用語はあります)。

現在の日本は、実は公用語は決まっていません。日本語の地位が圧倒的すぎて、わざわざ法律で定める必要がないからです。長年鎖国していて、入国者に同化政策を行うなら、なおさら公用語の制定は不要です。
たった数年でネイティブ並みに日本語を習得できるわけもありませんが、そこはアニメだし、と思って突っ込まないでいたのですが、さすがに公用語の制定ともなると、気になってしまいます。
スタッフに言語学を熟知した人間がいなかったというならそれまでですが、社会というのは非常に複雑で(わたしも自分の詳しい分野しかわかりません)、完全に虚構ではなく現実と地続きな感じを出したいなら、やっぱり言及は欲しかったですね。

長崎の出島には入国者間でピジン日本語が生まれているような気もします。それが出島生まれの子どもの母語となって、クレオールとなるのを警戒した文科省による徹底した日本語教育が行われているなんて設定もありそうですね。
まあ、わたしがシビュラの構成員なら、移民の親を隔離して、子どもだけ施設に放り込んで徹底的に帰化教育を受けさせますけどね。

マシュマロ②移民を入れた理由について

3期の移民問題についてのふせったーに以下のマシュマロをいただきました。

2期で大量に免罪体質者を処分してしまったため、シビュラの補充要員を探す目的で移民を入れた、という説ですね。

この発想、わたしには全然なかったので、目から鱗でした。
たしかにこれなら、人手不足を補うための移民政策として、現在の状況ともマッチします。
現在ならば不足しているのは純粋な労働力ですが、サイコパスの世界観ならば、不足するのは免罪体質者です。

免罪体質者は完璧なシステムの例外。きわめて貴重な属性です。
作中の日本は安定していて、安定しているがゆえに人口は一定を保っているはずです。生まれてくる免罪体質者の数も一定の割合から変化しないでしょう。増やそうと思えば、外から人を入れるしかありません。
そう考えると、現在を未来に再来させた脚本としては上々のように思えます。

ただ、マシュマロの仰るとおり、本編中に特にそれらしき描写がないので、推測の域を出ないのですけど。
シビュラの変遷についてはじっくり語ってほしかったですね。

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