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知識は教えればいい。じゃあ、考え方や態度は?

〇”考え方”を教える難しさ〇

 これも、よく聞かれるテーマであり、悩みの種ですよね。

知識は最悪詰め込めばいい。

でも、「教員は・医師はどうあるべきか?」、または、「こういう学級・患者に対して、どのように考えて対応すべきか?」という知識以外の事項はどう教えていいか分からない。

これが、今回の割り切れないお悩みです。

この問題に答えるには、①教育の本質、②2つの教育目的、そして③”講義”の作り方に少々踏み込む必要があるのが少々面倒ですが、いってみましょう。

 〇教育の本質〇

教育の本質は、「講義等(WSでも実習でもです)を受ける前と後で、学習者に変化を起こさせること」です。

その変化は、

ある知識がない状態からある状態になることでも、

ある問題がとけない状態からとける状態になることでも、

ある態度がない状態からある状態になることでも

なんでも該当します。

この視点で考えると、今回のお悩みは、「変化が知識に関わるものなら既存の講義でも対応できるが、変化が知識以外の場合にどうしていいか分からない」と言い換えることができます。

〇2つの教育目的〇

では、知識と態度や思考力が同質かと言えば、この2つは異なる教育目的の”階層”に所属していると言えます。

この差が態度や思考力を教えることを困難にしているので、少々難しくなりますが、この点を説明させてください。

 皆さん、目の前に小学生がいると思ってください。

小学生に数学的思考力を身につけさせようと思ったら、どうしますか?

文章題だったり、図形の問題だったりをいろいろさせるのではないでしょうか?

さて、この教育を終えた時、小学生が身につける能力は2階層に分類されます。

①特定の文章題を解く能力。特定の図形の問題を解く能力。

②立式能力や空間把握・解析能力(いずれも数学的思考力の一部と考えられる)。

-一息-

①は、直接育成可能な具体・個別性の高い能力

(便宜的に一層目の能力と言いましょう)

②は、直接育成することが不可能な、一般・抽象性の高い能力

(便宜的に二層目の能力と言いましょう)

と言えます(だって、数学的思考力って、実際に何かすることを通して身につくでしょ?)。

詳しく知りたい方は、「形式陶冶と実質陶冶」で調べてみてください。

直接上で説明した内容とは違いますが、考え方の土台になります。

これを、今回の問題に適用すると、知識は一層目の能力なのに、態度や思考力は二層目の能力であると言えます。ここまで説明すると、まったく同じ方法では教育できないことがぼんやりとでも伝わるのではないでしょうか?

この視点を加えると、今回のお悩みは、「変化が一層目(知識)に関わるものなら既存の講義でも対応できるが、変化が二層目(知識以外)の場合にどうしていいか分からない」と言い換えることができます。

では、それをどう教えるかについて次に考えましょう。

〇”講義”の作り方〇

教育の本質は、「講義等(WSでも実習でもです)を受ける前と後で、学習者に変化を起こさせること」であると述べました。

これは、学習者が学ぶのが知識でも態度でも思考方法でも変わりません。

だから、ここからスタートします。


Step.1:変化前(A)と変化後(B)を決める

変化前の状態(仮にA)から変化後の状態(仮にB)に変化させるのが教育です。

従って、今回の教育で起こす変化を明確にするために、AとBを明確化させます。

AとBは、一層目のものでも二層目のものでもOKです。


Step.2:AとBの測定方法を決める

AとBが決まったら、教育内容を!と進むと、ドツボにはまります。

内容に進む前に、落ち着いてAとBをどう評価するのかを考える必要があります。

方法は、試験でもレポートでもなんでもありです。

学習前の状態がAであることを確認するために事前に一度評価する。

学習後の状態がBであることを確認するために事後に一度評価する。

これで、きちんと変化が起きたかどうか判断できます。

(本当は、学習中にも評価が必要なのですが、それはまたの記事で)

この評価法は忘れがちなのですが、忘れると教育方針もぶれぶれになるので注意です。

※AとBが二層目の場合は、現実的には後述のA'とB'の評価で対応することになります。


Step.3:教育目的に合わせて他の層を補う

AとBが一層目に関してのものなら、その学習で得られる二層目のA'とB'を検討します。

これは、例えば知識を学習目的にしたところで、それは活用されて初めて意味を成すからです(つまり、このステップに従えば、一層目の学習も改善されます)。

逆に、AとBが二層目に関してのものなら、その変化を実現するに最適な一層目の題材を考え、A'とB'とします。

(例えばAとBが数学的思考力に関する変化なら、A'とB'には、文章題や図形問題など、AとBに関連する、具体的な変化が対応することになります。)

 

Step.4:教える流れを作る

ここまで明確化できれば、後はAをBに、A'をB'に変化させる授業を作るだけです。

(と言い切るには少し難しいですが……)

〇じゃあ、思考方法・態度をどう教えるか〇 

では、最後に具体的な話をします。

おそらくここまで読んで頂くと、「枠組みは分かったけど、どうすんだよ?」と思われていると思うので……。

二層目の、思考方法や態度の変化(AとB)を目的とする場合、最も使いやすい一層目(A'とB')は、ある概念や枠組みの適用です。

例えば、「こういう場面で教員・医者はどういう態度でふるまうべきか?」といきなりディスカッションを指示すると、学習者は薄っぺらい議論に終始するか、土台のない空中戦を呈します。

しかし、倫理学や哲学の概念を持ち出して、「こういう場面に直面したとき、この概念を適用して考えるなら、教員・医者はどういう態度でふるまうべきか?」という、概念や原則をいかに適用するのかという問いかけであれば、足場のがっしりとした議論になります。

思考方法の場合も同様ですね。「この問題をどう考えますか?」ではなく、「この問題にこの思考プロセスを当てはめるとどうなって、そこから導かれる解決策はどうなるか?」と問えばよいのです。

繰り返しますが、二層目の能力は直接養うことができません。だから、一層目の能力(今回は、原則や概念、思考プロセスの適用)と抱き合わせる必要があるのです。

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