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医師を目指す児童・生徒に贈る、”家庭科”を学ぶ理由

はじめに

医師は、将来なりたい職業として、人気のものの1つだと思います。ただ、実際になるのはそんなに簡単ではなくて、まずは受験勉強という形で、たくさん努力しないといけない職業だと思います。その中で、「これ、医者になったときに役に立つの?」と迷いながら学習することも多いでしょう。このNoteでは、そんなお悩みを医師の立場から考えてみたいと思います。

本日の要点

1)栄養管理を行う基礎としての家庭科

2)退院支援を行う基礎としての家庭科

3)なによりも、あなたのコンディションを保つための家庭科

1)栄養管理を行う基礎としての家庭科

さて、はじめにでは、受験勉強で勉強しないといけないけどさ、とお伝えしましたが、家庭科に関しては、恐らく受験ですら必要ないサブ科目という認識が強いのではないでしょうか。まあ、正直昔の私もそうだったんですけどね。僕が医師として働き始めて、もっとも「あ~もっとちゃんとやっとけばよかったな」と思う科目の第一位家庭科であることを、当時の私は知らなかったというやつです。

まず、「患者さんが治る」ということを考えたとき、医師がなにかをしただけで治るということはほぼほぼありません。全くないと言ってもいいでしょう。医療は基本的に、患者さんの回復を支援しているだけです。「いやいや、悪いところを切る手術は違うでしょう!」というご意見もあると思いますが、これも似たようなもんです。手術というのは、皮膚をはじめとするいろんなものを切って、開いて、ようやく目的地にたどり着きます。そこでやっと、例えば悪いところを切るわけです。言い換えてしまえば、悪いところを切るために、それ以外の体にたくさんメスを入れ、臓器をかき回す操作が手術であると言えます(本当にそういうと外科医に怒られるんですが)。だから、言い換えると、体の回復力ではどうにもならない「悪いところを切る」という負担を、「体中を切ったりかき混ぜたりする」という体の回復力に預けられる負担に変換しているだけなのです。やっぱり患者さん自身の回復力がないと、どうにもならないわけです。

患者さんの回復力を考えるとき、モノをいうのが”栄養”です。まあ、僕らが普通に口から食べるように食べられない患者さんもいますから、点滴を使ったり胃管を使ったりと、別のルートで体に栄養をお届けすることもありますが……。それでも届ける栄養の量やバランスは、家庭科で学ぶものとかなり近いと言えるでしょう。例えば、炭水化物、タンパク質、脂質を3台栄養素と考えて栄養を組み立てるのは、家庭科でも医療でも同じですからね。だから、家庭科をしっかり学ぶことは、患者さんの栄養管理に関する基礎を学ぶことに他ならないと思うのです。多分、もう少し僕が家庭科をきちんと学んでいれば、栄養管理が今より上手だっただろうなと少し残念に思ったりする今日この頃です。

2)退院支援を行う基礎としての家庭科

では、栄養管理がうまくいって、患者さんが退院できるようになったとしましょう。ただ……退院できるようになったといっても、病気が重ければ、またはケガの程度がひどければ、入院治療を全力で行っても完全に元に戻るわけではありません。体に動かしにくい部分がのこったり、体力自体が落ちてしまったりしている、なんてことはザラにあります。では、目の前の患者さんは、家に帰ったときに、自分で今まで通り生活することができるでしょうか?

D-Dressing(着る)
E-Eating(食べる)
A-Ambulating(歩く)
T-Toileting(トイレ)
H-Hygiene(衛生(入浴))

S-Shopping(買い物)
H-Housekeeping(そうじ)
A-Accounting(お金の管理)
F-Food preparation(調理)
T-Transport (乗り物に乗れる)

せっかくなので語呂合わせも一緒にご紹介(でも、基本的に日本語だけ見てもらえたらOKです)。これらは、日常生活動作(Activity of Daily Living)と呼ばれるものです。患者さんの退院を考えるにあたっては、日常生活動作の10項目が自分でできそうかを常に念頭に置きます。皆さんが自分の生活を想像しても、確かにこれらのうちどれかができないと、日常生活が大変になるな、と思いませんか?

繰り返しますが、退院支援を行うときは、目の前の患者さんが家に帰ったときに、この10項目ができるかどうかを考えます。もし難しそうであれば、リハビリを追加で行ったり、ヘルパーさんに援助に入ってもらうことを考えたりします。場合によっては、つまり、自宅ではどうにもならん!という場合には、施設入所も選択肢になったりしますね。

さて、この10項目、ほぼほぼ家庭科の守備範囲だと思いませんか?もっともこんなこと、そもそも学ぶことなのか?と思うほど皆さんは自然にやってのけているのだと思います。でもそんな皆さんでも、例えば知的障害のある人にお金の管理を教えようとすると、多分「はて……」となってしまうと思います。この「はて……」の正体はきっと、みなさんが”なんとなく自然に”できてしまっているがために、人に教えるために必要な理論や方針がないからではないかと思うのです。だから、せっかく家庭科を学ぶのであれば、皆さんが家で自然に行っている”日常生活動作”を学問的な側面からも見直す機会として、「なんとなくできる」を人に伝えたり、具体的に教えたりできるようにしてみてはどうでしょうか。家庭科の学習が、患者さんの退院支援を行うための基礎作りであり、トレーニングになるでしょう。

3)なによりも、あなたのコンディションを保つための家庭科

ただ、そんな患者さんの栄養管理や退院支援よりももっと重要な点があります。それは、将来の医師であるあなた自身のコンディションを保つことです。医師という仕事は、恐らく最もストレスフルな仕事の一つです。勤務時間は長い、仕事内容は多いし難しい、仕事が直接人の生死に影響する場合がある、エトセトラ、エトセトラ。このように、医師の仕事は困難の連続です。そのような環境において、適度にリラックスしたり、家でゆっくり安心して過ごしたりすることは、意外にもすごく重要だったりします。ずっと頑張れる人ってほぼほぼいませんからね。逆に、適度にリラックスしたり、家でゆっくりしたりできなくなってくる、つまり生活が崩れてくると、医師としてのパフォーマンスも低下するという悪循環が生まれてしまいます。

でも、恐らく、医学部に入るために必死に勉強している生徒の多くは、家庭科が苦手ではないでしょうか?または、「あんたは家の手伝いなんかしなくていいから、勉強なさい」と言われたり言われなかったりで、家事の経験値が低い人もいるのではないでしょうか?もしこの2つがあてはまるなら、将来医師として余裕のない日常を送り始めると、生活が崩れだすリスクが決して低くないと思うのです(というか私はあっさり崩れました)。このように受験勉強に邁進するあまり、自分のコンディションを保つ能力が身につかないままに医師になってしまうと、大変です。

なので、家庭科です。または、家の手伝いでもいいのですが……。将来、あなたが医師としてストレスフルな職場で働くにあたって、リラックスして過ごせる住みよい家”家庭”を持てるようにするために、是非とも家庭科も、馬鹿にせずに勉強してみてほしいなと思うのです。

本日の要点:Again

1)栄養管理を行う基礎としての家庭科

2)退院支援を行う基礎としての家庭科

3)なによりも、あなたのコンディションを保つための家庭科

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