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医師を目指す児童・生徒に贈る、"理科"を学ぶ理由

はじめに

医師は、将来なりたい職業として、人気のものの1つだと思います。ただ、実際になるのはそんなに簡単ではなくて、まずは受験勉強という形で、たくさん努力しないといけない職業だと思います。その中で、「これ、医者になったときに役に立つの?」と迷いながら学習することも多いでしょう。このNoteでは、そんなお悩みを医師の立場から考えてみたいと思います。

本日の要点

1)医学の基礎としての理科

2)研究の基礎としての理科

1)医学の基礎としての理科

まあ、そうだよね、と思うと思います。多分、学校で学ぶ教科のうち、医者の仕事とのかかわりを最も感じられるのは理科でしょうから。なので、ここは説明不要な感が強いので、読み飛ばす人は読み飛ばして、次の章へGoしてください。読み飛ばさないでくださる方には、例を挙げて説明するとしましょう。

◇生物の場合

さらに、医学の基礎感が強いので説明不要感がありますが……。例えば皆さん、生物で最初に細胞のことを習うと思うんですよ。例えば、細胞も1個の生命ですよ!とか、人は60兆個(所説あり)の細胞でできてますよ、とか。さらには人の細胞も酸素を使って呼吸してますよ、とかね。高校まで進むと、細胞の呼吸には、①解糖系、②クエン酸回路(TCA回路/クレブス回路)、③電子伝達系の3つで呼吸してますよ!とかも習うのではないでしょうか。

じゃあ皆さん、教室から救急初療室に場面を映して考えてみましょう。目の前に、な~んかうまく呼吸できてなさそうな人がいたとします。または、な~んか血のめぐりが悪そうな人がいたとします。ここで医師が使う検査の1つ、血液ガス分析。これで、乳酸という値を調べたりします。あれですね、一般的には筋肉痛が出たときに、乳酸たまったわ、とかいうやつ。これ、「呼吸がうまくできないor血のめぐりが悪い」人でも乳酸たまるし、「筋肉使いすぎた」人でも乳酸溜まるんです。何を言いたいのかと言えば、前者は細胞に酸素が十分行かない場合、後者は細胞が必要な酸素量が上がった場合を指していて、要するに「細胞が必要とする酸素>細胞がもらえる酸素」な場合に乳酸って溜まるんです。筋肉痛はまあいいとして、「呼吸がうまくできないor血のめぐりが悪い」人は死にかけている場合もありえるので、これを知るために乳酸を測るわけです。さて、話を戻しますよ。

高校で生物を習った皆さん、①解糖系、②クエン酸回路(TCA回路/クレブス回路)、③電子伝達系のうち、酸素が必要な代謝経路ってどれって習いました?答えは②と③です。逆に言うと、酸素がたりね~よという場合は、①の経路だけで呼吸することになります。そして、①の経路だけで呼吸した場合に発生するゴミが乳酸なのです。現場の医師が使う検査の原理は、実は高校で既に学ぶ、細胞の呼吸にあったわけです。こう考えると、高校レベルまできた生物学は、そのまま医学の基礎ですよね。

◇化学の場合

化学領域において実際に最も使うのは、mol計算なんじゃないかと思います。例えば医師になると、「Na濃度が〇〇の液体が〇Lだけあります。ここに、Na濃度が△△の液体をどれだけいれると、Na濃度が☆☆になるでしょう?」みたいな計算問題を解く必要に迫られます。単位は最初からmol/Lの場合もあれば、質量パーセント濃度のこともあります(後者が多いかな)。

これ、どういう状態かというと、血液中のナトリウム濃度が低下している、低ナトリウム血症の患者さんがおられる場合に、どれだけNaを外から入れたら正常濃度に補正できるかという計算なんです。つまり、「血液量が〇Lの患者さんのNa濃度が〇〇に低下しています。Na濃度〇〇の注射をどれだけの量入れたら、正常値に戻るのさ?」ってことですね。まあぶっちゃけると、Naを入れるスピードをこれこれ以下にしなさい、みたいな決まりがあったり(早すぎると、脳にダメージが出るので)、カリウムみたいなこういう計算が無効なイオンもあったり(カリウムは、血管内に点滴したそばから、どんどん細胞内に吸収されるので。)なので、実際にはちょくちょく検査で値を確認しながら入れるんですけど、それでもどれくらいのペースで上がるか見通しをつけるために事前に計算を行います。化学の入試問題みたいでしょ。こういう計算は医師になっても必要なのですよ。

2)研究の基礎としての理科

さて、もう1つは結構意外かもしれないのですが、研究を行うにあたっての基礎も、学校教育における理科と密接に結びついています。多分みなさん、対照実験対照実験って何度も聞いてきたのではないでしょうか?

例えば、これまで使われていた薬Aと皆さんが新しく作った薬Bのどっちがよく効くかを調べたい場合、みなさんどうしますか?多分、患者さんを集めて2グループに分けて、それぞれに薬を投与する研究を準備すると思います。ただこれ、よく考えてやらないと、正しい結果が得られません。例えば、例え薬Bを投与したグループの患者さんのほうが治りがよかったとしても……

◇薬Aを投与されたグループの患者さんが、薬Bを投与されたグループの患者さんよりもともとの状態が悪かったら、薬Bを投与したから患者さんが治ったのか、もともとの状態が影響していたのか分かりません。

◇薬Aを投与されたグループを担当した医師と比較して、薬Bを投与されたグループを担当したドクターの腕がよければ、薬Bを投与したから患者さんが治ったのか、担当医の腕が影響していたのか分かりません。

◇薬Aを投与されたグループの患者さんが入った病棟に比較して、薬Bを投与されたグループの患者さんが入った病棟の環境がよければ、薬Bを投与したから患者さんが治ったのか、病棟の環境が影響していたのか分かりません。

◇薬Aを……(以下略)

このように、薬Aと薬Bをそれぞれ投与して、比較したらええやん!という発想は正しいのですが、実際に研究を行おうとすると、上に出した例に加えて患者さんの人種や、持っている遺伝子まで、いろんな要因が結果に影響を与えてしまいます。だから、研究をうまくデザインする必要があるのです。理科で口酸っぱく言われる「対照実験」という言葉は、こういう意味で”研究結果”を正しく得るための最初のステップです。だって、例えば発芽の実験だって、水をやるかやらないかを比較したいなら、日光や土や酸素の条件をそろえなさいって言われたでしょ?研究も一緒です。薬の効き目を比較したいなら、患者の条件も治療する医師も病棟の環境も、なにからなにまで揃えないといけないのです。規模は違えど、そういう意味では理科で行う実験と、医学における研究は似ていると言えますね。

本日の要点:Again

1)医学の基礎としての理科

2)研究の基礎としての理科

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