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医師を目指す児童・生徒に贈る、"社会科"を学ぶ理由

はじめに

医師は、将来なりたい職業として、人気のものの1つだと思います。ただ、実際になるのはそんなに簡単ではなくて、まずは受験勉強という形で、たくさん努力しないといけない職業だと思います。その中で、「これ、医者になったときに役に立つの?」と迷いながら学習することも多いでしょう。このNoteでは、そんなお悩みを医師の立場から考えてみたいと思います。

本日の要点

1)社会科の視点1:水から考える私たちの健康

2)社会科の視点2:交通と街づくりから考える私たちの健康

3)社会科の視点3:産業から考える私たちの健康

まとめ:社会科は医師にとっての必須科目である!

1)社会科の視点1:水から考える私たちの健康

早速ですが、皆さんに質問です。ある国の健康状態を改善しようと思ったら、なにをしますか?きっと皆さんが政治家なら、医療にたくさんの予算をつける、医療の研究をすすめる、医療機器を開発する、など、病院での治療が充実するような政策を考えるでしょう。でも、これは皆さんが日本という豊かな国で生まれ育ったからだと思います。

学生時代、私はいくつかの発展途上国に足を運び、どのような医療、そしてどのような生活が営まれているのかを学んだ経験があります。そしてある国で考えさせられました。その国のとある村では、飲み水は川(というかほぼ湖)から汲んできた水をそのまま使っています。その村では、尿や便を含む下水も同じ湖に捨てているので、もし顕微鏡で覗くことができれば、その水の中には病原微生物がうよいよいることがわかるでしょう。結果としてその村の子供たちは微生物だらけの水を飲むしかないため、いつもおなかを壊していました。結果として下痢になり、体もやせ細っていました。もし、私がこの国の政治家であれば、まず考えるのは医療機関の強化ではなく、きれいな水を飲めるような”上下水道”の整備です。そもそも、汚染された水を飲まなくてすむのなら、お腹を壊す子どもたちはいないからです。

さて、私たちの生活に視点を戻してみましょう。きっと皆さんは水道から出てきた水に対して、「この水飲んだらお腹壊しちゃうかな?」と思うことはあまりないと思います(まあ、先ほど例に挙げた村の子どもたちは、そもそも汚れた水を飲むとお腹が壊れることを知らないので、彼ら彼女らも疑問に思わないと思われるのですが)。ですが、私たちも、汚れた水を飲めば、お腹を壊します。このように考えてみると、私たちが「健康のためには医療」と考えることができるのは、綺麗な水をはじめとする社会インフラが整っているからなのです。今回は水を取り上げましたが、実は健康を支えている社会的なモノ・コトというのはたくさんあります。皆さんがもし医療職を目指すなら、社会科で学ぶこんなことがなかったら、僕たち私たちの健康ってどうなってしまうのだろう?と考えながら授業を楽しむとよいかもしれません。

2)社会科の視点2:交通と街づくりから考える私たちの健康

お次は、交通から私たちの健康を考えてみましょう。ここで扱うのは、日本のお話ですので安心してくださいね。今回想像してもらいたいのは、田舎(まあ、へき地医療をイメージしてもらってもOK)です。みなさんは、そこに暮らしていて、定期的に医療機関にかからなくてはいけないおじいちゃん、おばあちゃんだとします。ただし、みなさんは足腰が弱ってきて、杖があったらなんとか歩けるけれど、遠くまで行くのはとてもとてもという状態です。

さて、このような状態のとき、どのようなサービスがあれば医療機関に通院しやすいでしょうか?

恐らく一番いいのはこれでしょう。

①村に小さくても通いやすい診療所がある。

でも、村の人口が減って、診療所の経営が立ち行かなくなるとこうなります。

②診療所がなくなったので、近くの市の病院まで行かないといけないけれど、バスがあるからなんとかなる。

さらに村の人口が減って、バスの路線も廃止になると……

③近くの市の病院に行くしかないけれど、通院手段がない。

このようになっていくと思います。(現実には、道路を新しく作って交通の便を改善するとか、集団で移住するという、今回示さなかった選択肢もありえますけどね。)

みなさんが医師になったときにサービスを提供する患者さんは、必ずしも病院の近くに住んでいるわけではありません。それどころか、病院に通うことも大変だという方が少なくないでしょう。さらに言えば、いそいで病院にかからないといけない救急疾患が発生した場合には、この”医療機関へのアクセス”という問題は、より重要度を増します。

だからこそ、社会科なのです。きっと皆さんは、社会科で”コミュニティー”という概念を学ぶと思います。コミュニティーとは、人が集まって集団で暮らしていくまとまりのようなものですね。このまとまりをどのように作り上げるのか、そこに、どのように医療を入れ込むのかによって、患者さんにとっての”医療の利用しやすさ”は大きく変わります。今回の例であれば、診療所の中だけでなく、住民が医療機関まで移動できるようにするためにどうすればよいのかという交通の問題を、街づくりの段階で考えることですね。診療所に来る患者さんだけでなく、診療所に来れなくなってしまった患者さんの健康も守るために、社会科で学ぶ”街単位で考える”という視点は、医師にとって不可欠だと思うのです。

3)社会科の視点3:産業から考える私たちの健康

3つめの産業で考えるのは、タバコです。皆さん、学校で、タバコは健康によくないからやめましょうと口酸っぱく言われるのではないでしょうか?確かにタバコって、健康に悪いのですが、だったら、と皆さんこう思ったことはないですか?

「法律でタバコを禁止してしまったらいいんじゃね?大麻とか、禁止されてるし……。」

まあ、私もそう思いますよ。でも、これができない事情があるんです。それが、産業です。もし、皆さんがタバコを作っている会社の社長さんだとしましょう。従業員がたくさんいて、お給料を払わないといけません。工場やたばこ栽培を維持するためにもお金は必要です。この状態で「政府の方針で明日からタバコを禁止します」と言われると、「ふざけるな!」ってなりませんか?

そうなのです。健康のことだけを考えるのであれば、タバコを禁止したらそれで済みます。だけど、経済(お金のこと)など、その他の事情を考えると、簡単に中止することができないのです(ちなみに、それでもタバコ禁止を強行したら次は、「じゃあお酒もダメだろ。アルコール依存症になるし。」「いやいや、じゃあポテトチップスもだめだろ、生活習慣病の原因だぞあれ」と、どれもこれもダメ、となっていくでしょう)。

みなさんが将来医師になったら、この問題をどう考えますか?答えのない問題ですが、それでも何らかの答えを出さなければいけません(現在の日本は、タバコを禁止しないものの、健康に害があるよ!とアピールし、税金もたくさんかけて購入しにくくするという中間的な対応をしています)。最後の3つ目のテーマを”産業”としたのは、こういうことなのです。私たちの健康は、社会の在り方と切っては切れないのです。最初の下水道から始まり、交通と街づくり、さらにはタバコ産業に至るまで、私たちの健康と社会システムは密接なかかわりを持っています。このような視点を持つと、社会科は医師にとっての必須科目と感じて頂けるのではないでしょうか?

本日の要点:Again

1)社会科の視点1:水から考える私たちの健康

2)社会科の視点2:交通と街づくりから考える私たちの健康

3)社会科の視点3:産業から考える私たちの健康

まとめ:社会科は医師にとっての必須科目である!

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