冨田勲シンセサイザー使用サウンドトラック紹介(再録)

『冨田勲 映画音楽の世界』

(松竹音楽出版)

70年代のシンセ創作の10年余を挟んで、それ以前/それ以降に冨田が手掛けた、映画作品の劇中曲をダイジェストしたもの。映画音楽作品集は77年に、伊福部昭、武満徹、佐藤勝らと並んで東宝レコードで一度企画されたが、米RCAの専属契約があって未遂となっていたもの。その縛りが解け、晩年の山田洋次監督作品など松竹作品を中心に、東宝ミュージックが管理する、東宝、大映、勝プロの音楽まで網羅されている。「モーグIII-P」使用第1作とおぼしきコント55号主演の『初笑いびっくり武士道』(72年)、メロトロンによる重層コーラスが聴ける『しなの川』(74年)など、主に時代劇の劇伴でシンセを使った音楽実験が行われていた。シンセ導入以前の『飢餓海峡』(64年)でも、管弦楽に御詠歌を組みあわせてコラージュするなど、音響的アプローチも。松竹配給作品で未リリースだった『夜叉ケ池』(79年)の収録が期待されたが、実現しなかった。

『御用牙 音楽全集』

(ディスクユニオン)

伊福部昭のテーマが有名な映画『座頭市』の続編『あばれ火祭り』(70年)に起用され、勝プロダクションの時代劇に初参加。「日本流のシンセサイザー音楽」を探求していた冨田の狙いと合致し、『鬼一法眼』(73年)、『座頭市物語』(74年)などのテレビ時代劇の主題歌、劇伴を一手に引き受けた。本作は劇場作品の人気シリーズ。過去にオムニバスに部分収録されたことはあったものの、冨田が担当した第2作『かみそり半蔵地獄責め』の劇伴全編がリリースされるのはこれが初めて。前作でGSのザ・モップスを起用するなど「ニュー時代劇」を狙ったもので、EL&P時代のキース・エマーソンを思わせる、過激なモーグ・サウンドが聴ける。三味線で演奏参加している勝新太郎はシンセ音楽にも造詣が深く、テレビシリーズでは冨田のソロアルバムや喜多郎『天界』などを使用。生前はエニグマなどを好んで愛聴していたという。続編『鬼の半蔵やわ肌小判』は、『新日本紀行』に打楽器で参加している桜井英顕が担当。

『ノストラダムスの大予言』

(ディスクユニオン)

『月の光』(74年)と同年にリリース。五島勉のベストセラーを映画化した東宝作品で、「モーグIII-P」を大胆にフィーチャーした最初の映画音楽となった。東宝撮影所で録音された、ストラヴィンスキー、オネゲルなどの影響色濃い弦楽パートのマルチテープを持ち帰り、個人スタジオでシンセを重ねて完成。映像編集中に先行して「スコア版」がステレオで作られ、東宝レコードから発売された。四人囃子担当の檜晋樹がディレクターを務めており、ファズギターやドラムサウンドなどロックに傾倒したアプローチも。同年の邦画興収2位のヒット作となったが、人種差別的描写が含まれたために上映中止騒動に。メーカーは商魂逞しく『月の光』ヒットに便乗して、作品名を伏せて『サウンドトラック・トミタ』として再発売されている。後にバップが商品化した劇伴(モノーラル)をカップリングして、2枚組として再発されたのがこれ。

『夜叉ヶ池』

(松竹/ブルーレイ、DVDのみ)

女形の坂東玉三郎が主演を務め、泉鏡花の原作をSF時代劇として篠田正浩が映像化した79年の松竹映画。同一モチーフによる『天守物語』という舞台があり、玉三郎はファンだった冨田勲に音楽を依頼。従来使われていた歌舞伎音楽の代わりに、フランス近代音楽を付けたサントラは話題を呼んで、2枚組の実況録音盤が、冨田が所属するRVCからリリースされた。映画はドビュッシー「沈める寺」、ムソルグスキー「古城」、「はげ山の一夜」などのシンセスコアが使われたが、半分はソロアルバムの転用で、サントラは未発売。ドビュッシー「雲」や、正式なリリース前の「ダフニスとクロエ」第2組曲は、『月の光』の時期に完成していた未発表音源。「沈める寺」は企画盤『冨田勲の世界』に収録された、日本ビクターのオーディオCM用にトラックダウンされたニューミックスのほうが使われた。一度テレビ放映されたのみだったが、2021にリマスターされた上映版で初ソフト化。

『千年の恋~ひかる源氏物語』

(日本コロムビア)

紫式部『源氏物語』執筆から1000年目に当たる1999年に、パイオニアが交響絵巻『千年文化・源氏物語』のコンサート曲を冨田に委嘱。リスムキー=コルサコフ「シェエラザード」など、RCA時代に作られた未発表音源も使われた。本作はその2年後、東映創立50周年を記念して作られた、吉永小百合主演のオールスター時代劇。予告フィルムに既発の『源氏物語交響絵巻』の音源が使われるなど、いわば兄弟のような作品。舞台版はオーケストラとの競演だったが、冨田のシンセサイザー創作30周年の節目の作品でもあり、映画のほうはシンセサイザー主体でリメイクされている。作曲活動50周年記念作品として、『座頭市あばれ火祭り』、『徳川家康』(83年)、『大モンゴル』(92年)などのテレビ用に書かれた劇中曲もリサイクルされて登場する。「チリリーン」という音は、晩年の冨田がご執心だった、明珍火箸という姫路で1000年の歴史を持つという一種の楽器。

『おかえり、はやぶさ』

(松竹音楽出版)

晩年の松竹映画では生のオーケストラが主役だったが、今世紀に入ってRCA時代のシンセサイザーアルバムのサラウンド化に着手。それを聴いた元木克英監督から、2010年に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」の開発を巡るJAXAをモデルとしたセミノンフィクション映画で、冨田のシンセサイザー音楽を使いたいと依頼を受けた。監督からのリクエストは『惑星』をメインとした構成だったが、「はやぶさ」帰還シーンには、冨田のアイデアでワーグナー「トリスタンとイゾルテ」が使われている。サントラ発売に際し、著作権使用料の問題で『惑星』は収録から外され、「トリスタンとイゾルテ」のほかは冨田のオリジナル曲が収録されている。冨田のシンセサイザー組曲を基軸に、常連のトランペット奏者・本間千也、尚美学園大学の教え子だった大嶋大輔がテクノビートで参加している。

(『FILTER04 シンセサイザーと映画音楽』より本文抜粋)

※編集後記/2016年に行われた冨田勲最後のコンサート用に作られた、コンサートパンフ「DrCoppelius」で34ページに及ぶ冨田勲関連アルバム紹介記事を執筆。そのうち、シンセサイザーが使用されたものを抜粋してレビューしたもの。

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