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漫画とうごめき#11

漫画家・有波(アルパ)さんの作品『デス鮭ハンター』を独自の視点で読み解きながら、連想される事柄や文化、思考を綴っていきます。

※このnoteは全力でネタバレをします。漫画『デス鮭ハンター』をまだ読まれていない方は、まず先に『デス鮭ハンター』を読まれてから、本エピソードをお楽しみください。

デス鮭ハンター - 有波 - 少年ジャンプ+


漫画の紹介

まずどんな漫画かというと 「デス鮭」という、超巨大化した鮭を倒す ハンターのお話ですね。
このデス鮭自体は、巨大化しただけの鮭なんですけど、 あまりにもデカいから建物を破壊したりして、 人類にとって危険な存在になってるんですよね。 なので、デス鮭を人類から守るためにハンター達が戦う、ていう感じのストーリーですね。
まあ、聞くからにB級ホラー感というか、特撮物的というか、 かなりぶっ飛んだ設定ですよね。
この漫画、すごい不思議で 話のストーリーはあるし話の筋も理解できるんですけど、 なんかよく分かんないですよね。
ただ、なぜかめっちゃおもろい。
なんなんですかね。

あらすじ

人類に甚大な被害を与えるデス鮭。
こいつらは鮭なんで、産卵のために川上へ遡上するんですね。
で、川上にあるダムとかを破壊しちゃうんで、 ハンター達はダムの前に集められて戦うわけです。
ただ、このハンター達も屈強な戦士とかじゃなくて、 国が高額で雇っている民間の普通のにいちゃん達なんですよね。 フリーターとか、パチプロとかのですね。
なので全然デス鮭の勢いを止められないんですよね。

そんな中で一人めっちゃ強いハンターが出てくるわけです。
それが金髪ツインテールの女の子、なんですよね。 格好もなぜか水着で、海外のゾンビ映画とかに出てきそうな、つっても伝わるか分かんないですけど、「なんかこういうノリあるなー」ていう感じのキャラなんですよね。

でもって、クレーンの先っちょみたいなのを武器にして デス鮭を倒しまくるわけです。

ちなみに、この女の子の正体はヒーローとかじゃなくて、 本業は普通の会社員なんですよね。
デス鮭を食うのが好きで、小さい時からデス鮭を食ってたら超人的に強くなったと。
そいで、会社員の生活にも満足してるから、 ハンターの報酬はデス鮭一匹だけ受け取って本業にはしない。と、そんな感じなんですよね。

で、この漫画のラストでは、この女の子の従兄弟が デス鮭を捌いて、デス鮭フライにして終わるんですね。
まあ言葉に並べてもよく分からない、かもしれないですがそんなお話です。

ゲルハルト・リヒターのオーバー・ペインテッド・フォト


僕が気になるのは、 「このストーリーはあるのになんかよく分かんない。 けど面白い」ていう意味不明性の魅力なんですよね。

そこで、まず思い出したのがドイツ現代美術のレジェンド、ゲルハルト・リヒターですね。
どの記事かは忘れちゃったんですけど、ゲルハルト・リヒターの作品シリーズで「オーバー・ペインテッド・フォト」というのがあるんですね。
これは、スナップ写真の上に油絵具やエナメルをベタって重ねた作品で、 写真の上に絵の具が塗られてるんですよね。 そいでこれが写真と絵の具が混ざって、調和してるとかじゃなくて、明らかに違和感がある感じで一つの画面に並んで置かれてるって感じなんですよね。
これによって、具体を表すはずの写真がもつ意味に、抽象的な絵画の意味をぶつけられて、どっちともつかない「意味が分からない状態」になるわけですね。
そうすることで、この作品の純粋なビジュアルの美しさだけが 画面上に現れてくる。と、分析されている記事があって「なるほどー」て思ったんですよね。

意味の無意味化

これはデス鮭ハンターのおもしろさともつながるんじゃないかと。
僕はこのように、本来ある意味がどっかに置いてかれちゃって、 意味がよく分からなくなることを「意味の無意味化」って呼んでるんですけど、
リヒターのオーバーペインテッドフォトも、デス鮭ハンターも、意味の無意味化がおきていてると思うんですよね。

デス鮭ハンターでいうなら、漫画の中でエヴァンゲリオンのゲンドウみたいな町長が出てきたり、 特撮物のオープニングっぽい描写があったり、 ハンターハンターのハンター試験(?)みたいな感じとか、 ダムの貯水量がバーンっ!て出てきたり、 ちょいちょい謎にエクストリームな表現が置かれてるんですよね。

多分このエクストリームによって意味の無意味化がおきて、 純粋なそのビジュアルやノリを楽しめるようになってるんじゃないかなと思うんですよね。

ジャッカス

またこれは、シュールではないんですよね。
不条理な笑いとかじゃなくてエクストリーム。 ぶっ飛んでることが重要というか。

ここらへんで思い出すのは、2000年代にMTVで流行った「jackass」とかですね。
ジャッカスというのは、おバカ映画って呼ばれてたんですけど、当時の西海岸的なノリの若者達が、街中でゲリラ的に悪戯したりめちゃくちゃ変なことをしたりする映像作品なんですよね。
特殊メイクでおじいさんになりすましてひたすら万引きしたり、 お年寄り用の車(?)をXスポーツ的な感じで乗り回したりとか、
ワサビでラリるつって、鼻からワサビ吸って吐いたり、 お尻にロケット花火刺して飛ばしたりとか、 まあ他にももっと酷い事ばっかりしてるんですけど。
これとかも、エクストリームで完全に意味不明じゃないですか。
当時の若者は「これなんかおもしろい。笑える。こいつらヤバい」ってなるわけですね。
まあもちろんみていて、不快な人って言うのも、多くいるわけなんですけど。

エクストリームの系譜

こういうエクストリームの系譜っていうのは、70年代とかの初期パンクの流れだったり、60年代のアクティビズムだったり、もっと遡るならダダとか前衛芸術とかになると思うんですね。
ただ、ジャッカスは彼らのカウンター的な思想というよりも、エクストリームな活動の部分とスケーターとかバンド文化がぶつかって、 純粋なエクストリームだけが意味もなくスパークした、みたいなそんな感じがするんですよね。
なので思想というのは、 時代背景によって変化はするにしても 表現としてのエクストリームさというのは、若者のもつ初期衝動とかエネルギーによって形を変えながら続いていくと思うんですよね。

そう考えるなら、デス鮭ハンターも漫画文化のエクストリームな部分を、 ストーリーにぶつけて、純粋なおもしろさがスパークしていた。とも捉えられますね。
エクストリーム万歳!

はい。ということで今回は「デス鮭ハンター」についてお話しました。

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