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ウクライナ戦争に関する私見 烏賀陽弘道

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2022年2月24日の開戦以来、ウクライナ戦争について分析した論考を書き続けいています。無料で読めます。価値があると思われたらカンパ・サポートしてください。
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#戦争

旧ソ連国の視点から見たウクライナ戦争を     ジョージア人国際政治学者に聞いた   「ロシアは旧ソ連の『近い外国』を      対等の主権国家と考えていない」

2022年2月24日に始まる(第二次)ウクライナ戦争について、ひとつの論点を読者に提供するため、かつてソ連の一国だった国の人々に同戦争をどう見るかインタビューすることを思い立った。 ●ジョージアとウクライナの共通点 私が注目したのはジョージアである。ロシアとの関係において、ジョージアはウクライナと非常によく似た立場にあると考えた。 ①モスクワやサンクトペテルブルグを中心とする「ロシア」に軍事的に征服され、ロシア帝国→ソ連の一部として併合された。 ②1991年後のソ連崩壊

射殺されたリトアニア人監督が遺した  ウクライナ激戦下の市民の生活の記録  「7日間の取材記録に命を吹き込む」   フクシマやツナミと同じ人間の気高さ  この映画には人間への愛がある     ウクライナ戦争に関する論考     2023年3月1日現在

本稿は話題を少し変えて、第二次ウクライナ戦争(2022年〜)下の市民の暮らしを記録したドキュメンタリー映画「マリウポリ 7日間の記録」の話をする。 この映画は2023年4月15日の東京を皮切りに、全国の主要都市で公開される。世界でも初めての劇場公開である。 私がこの映画を知ったのは偶然だ。映画の配給宣伝会社から試写の案内が来たのだ。オンラインで試写を見た。 冒頭写真:殺害されたマンタス・クヴェダラヴィチウス(Mantas Kvedaravičius)監督。特記のない限り

ウクライナ戦争を理解する歴史知識7  ウクライナ・ロシア32年間の負のループ  政治・経済・国際関係とも抜け出せず     最後は武力侵攻という暴挙に         ウクライナ戦争に関する私見 分析編 2023年2月1日現在

前回、前々回本欄で、ソ連崩壊・ウクライナ独立後32年の歴史をたどってみた。たいへん複雑である。自分で書いていても、平易にまとめるのに四苦八苦した。 そこで、さらに本編で「分析と解説」を加えることにした。 ロシア・ウクライナの過去32年の歴史を調べていくうちに、いくつかの「パターン」が繰り返されていると私は考えるようになった。そのうち、特徴的な次の3点を抽出してみた。 (1)「経済」「政治」「国際関係」3つの負のループに2国間関係がはまり込み、抜け出せなくなった。 (2)

ウクライナ戦争を理解する歴史知識5  軍事侵攻以前から続くロシアとの紛争     政治混乱と汚職・寡頭支配で不安定   ウ経済はソ連時代の6割に縮小     32年間政治・経済体制の移行に失敗  ウクライナ戦争に関する私見18/概観  2023年1月20日現在

今回は1991年にソビエト連邦が崩壊、ウクライナが主権国家として独立してから、2022年2月にロシアが軍事侵攻するまでの話をする。 日本人の大半は、2022年2月24日にロシアの軍事侵攻が始まって初めて、ウクライナという国に注意を向けるようになった。「戦争が始まるまで、ウクライナはどんな国だったのか」を深くは知らない。その空白を埋めようというのが本稿の狙いだ。 前編では、まず独立後ウクライナのOverall View=全体像を俯瞰していく。いわば「概観」「概論」である。後

ウクライナ戦争を理解する歴史知識4      なぜプーチンはウクライナを      「ナチ」「ファシスト」と呼ぶのか     第二次世界大戦、ドイツ・ソ連戦争期     被害と加害の記憶をめぐり今も止まぬ論争          ウクライナ戦争に関する私見17   2022年12月6日現在

今回は第二次世界大戦時代のウクライナの話をする。 1941年6月22日、ナチス・ドイツがソ連に攻め込んだ。ドイツ側では「バルバロッサ作戦」という。 1939年にナチスがポーランドに侵攻して英仏が宣戦布告、第二次世界大戦が始まって2年が経っていた。 当時、ウクライナはソ連の「一地方自治体」になっていた。1922年にウクライナをソ連に併合する内戦は終結し「ソビエト・ウクライナ」になっていた。そこにナチス・ドイツが攻め込んできたのである(下の地図の赤いエリアがソ連。ポーランド

ウクライナ戦争を理解する歴史知識2  第一次大戦で近隣強国すべて瓦解      ウクライナ初の独立国家樹立するも         ボルシェビキ・ポーランド・ドイツに潰され              ソ連統治下で死者500万人の大飢饉  ウクライナ戦争に関する私見15   2022年8月4日現在

第二回目の本稿は、20世紀に入ってからのウクライナの歴史を述べる。 まずは20世紀前半、第一次世界大戦とロシア革命から。 20世紀になってからのウクライナ史はテンポが早くなり、そして陰惨な出来事が連続で起きる。血なまぐさい。第一次世界大戦が始まった1914年から、第二次世界大戦が終わる1945年の31年間のウクライナは、数百万単位で人が死ぬ戦争、殺戮、破壊、飢餓の連続である。悲惨としか言いようがない。 (冒頭写真はロシア10月革命100周年を祝うモスクワの集会。2017

ウクライナ戦争を理解する歴史知識1  異民族支配と抵抗の歴史       大陸ど真ん中「ウクライナ」の歴史は     朝鮮・インドシナ・バルカン半島に似る  ウクライナ戦争に関する私見14   2022年7月29日現在

<前置き ウクライナの民族問題を理解するヒント> 2022年2月に始まった「第二次ウクライナ戦争」は、ロシア軍の侵攻以来5ヶ月が経過した。ウクライナは軍事大国ロシアに抵抗を続けている。彼の国の国民がかくも頑強にロシアに抵抗する姿を見て、その背景を知りたいと思った。そこにはウクライナ人が共有する「民族の記憶」があるはずだ。その歴史を知らずに現在の「ウクライナ」を理解することはできない。そう考えた。 そう思ってウクライナや東ヨーロッパの歴史に関する文献を集め、読み込んで、頭を

「ウクライナ」という国の文化的多様性 国内東部と西部はほとんど別の国   ロシアが攻め込んだ東部「ドンバス」に    親欧米キエフとは正反対の親露住民   ウクライナ戦争に関する私見13    2022年7月8日現在 

現在の「ウクライナ」という国は、現代日本のような民族的あるいは文化的な均質性が高い国ではない。その多様性は日本人の想像を超えている。 いま私たちが「日本人」と呼ぶような、文化的あるいは民族的に均一な「ウクライナ人」が存在すると誤解すると、この国の歴史と文化、多様性は理解できない。ゆえにウクライナ戦争の原因も理解できない。 なぜそれほどの文化的多様性がウクライナにあるのか。それを日本人読者に説明するにはどうしたらいいのか。頭を悩ませた。 まず、国家として現在存在する「ウク

ロシアが考える「勢力圏」はどこまでなのか 旧ソ連構成国は主権国家とみなさず   繰り返される軍事介入        独特の「主権国家」観は欧米とは異文化     ウクライナ戦争に関する私見12    2022年6月11日現在

「ロシアがウクライナに侵攻した。きっとすぐに隣国のフィンランドや日本に攻め込んでくるに違いない」。そんな恐怖が日本や国際世論に流れている。今回の論考は、その可能性を検討してみる。 2022年2月24日にロシアが隣国ウクライナに軍事侵攻したとき、国際社会の反応は「驚愕」を通り越して「パニック」に近いものだった。その反応のひとつが「ウクライナに攻め込むなら、わが国にもロシアは攻め込んでくるのではないか」である。  特にロシアと国境を接する国は、ウクライナの連想で我が身を案じず

ウクライナ戦争で世論はパニック   「非核三原則」「国連中心主義」「専守防衛」  すべて捨てよのショック・ドクトリン      ウクライナ戦争に関する私見11   2022年5月19日現在 

(注)今回は「核シェアリング」はじめウクライナ戦争を契機に出てきた「日本の安全保障政策を転換せよ論」について検証してみた。本来はまったく別の原稿「ロシアが考える勢力圏とは何か」の「まえがき」として書き始めた。ところが、書いているうちにどんどん内容が膨らんだ。あまりに長いので、独立させることにした。本文に入る前にお断りしておく。 (冒頭の写真:NATOで核シェアリングされている米軍のB61-12核爆弾。2015年7月21日’USA Military Channel ’より)

ガス輸出で「戦争経済」が回転     ロシアに経済制裁効かず       戦争は「月」「年」単位に長期化     ウクライナ戦争に関する私見9    2022年4月21日段階 

前回の投稿から約20日が過ぎた。本稿では、その間に起きた出来事と流れを概観してみようと思う。 2022年3月29日にイスタンブールで開かれたロシアとウクライナ代表による対面の第4回停戦協議で、両者が合意の道筋に乗ったかと私は思った。開戦後約1ヶ月を経て、ウクライナ戦争が終結する光明が差したかと思いきや、戦闘はかえって激化した。 ロシアは懸念された国債デフォルトに陥らなかった。ドイツ、イタリアなど欧州は天然ガスをロシアから買い続け、代金を払い続けている。つまり欧米日の経済制

ウクライナがロシアの要求を受諾    両国は戦争終結のコースに入った    ロシア国債の返済期限は4月4日    欧米日vsロシアはチキンゲーム大詰め  ウクライナ戦争に関する私見7     2022年3月31日時点

2022年3月27日、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアの独立系(ロシア政府の報道規制を受け入れない)メディアの記者4人とZOOMで会見して質疑応答した。交戦当事国の元首が相手国のメディア(しかも記者たちはラトビア、グルジアなどバラバラの遠隔地にいる)の取材に応じる、それを全世界に流すというのも、ネット情報環境時代の戦争として誠に興味深い。 (巻頭写真:1916年の帝政ロシア発行国債) ●ゼレンスキー大統領が初めて「ロシアの要求をのむ」と発言 しかし、私がびっくりした

ウクライナは欧米の軍事介入を諦め   ロシア経済の息切れを待つ      ロシアは世界経済を人質に瀬戸際戦略 ウクライナ戦争に関する私見6     2022年3月27日時点

巻頭写真:2017年、ロシア債権への投資を勧誘する楽天証券ウエブサイトより。 ゼレンスキーの国会演説(2022年3月23日)の文面を精査したついでに、その各国での演説の内容をインターネットで見て回った。各国議会にどういう言葉を話したのかが東京にいながら全部わかるのだから、これもネット時代の戦争の興味深いところである。 すると、あることに気がついた。イタリア、フランス(同22〜24日)など欧州各国はもちろん、アメリカ連邦議会でのリモート演説(2022年3月18日)でも「軍事

ウクライナ戦争の今後         キエフ包囲戦はあるのか?       2022年3月4日時点での私見メモ  Twitterへの投稿まとめ

2022年2月24日、ロシア軍が国境を越えて隣国ウクライナへの侵攻を開始した。以下の本文は、それから1週間が過ぎた同年3月2日〜3日にかけて、個人的な備忘録として書いたものだ。一部をTwitterで公開した。 僭越ながら、私はコロンビア大学の国際公共政策大学で修士課程を終了していて、国際安全保障論の心得が多少ある。昨年12月に「世界標準の戦争と平和」(悠人書院)という初心者向けの国際安全保障の本を復刊したばかりだ。自己紹介代わりにアマゾンの著者ページをリンクしておく。 こ