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君はロックを聴かない

 頭の中に思い浮かんだことを文章にするっていうのが、noteというツールの本質だと思う。自分にはその機会がたくさんある。お金になるわけではなく、半分趣味みたいな感じ。誰かがふとした時に読んでくれればいい、って思って書いています。ちなみに、「ふと」は日本語に特徴的な表現です。場面を認識の現在に引き込むマジックワード。

 高2の現代文で木村敏さん「ものとこと」を扱っています。その中に、詩や芸術作品は、一種の「もの」である「ことば」を用いて、「こと」の世界を表すという記述があります。詩や歌詞で表現される「ことば」は全てこれに当てはまる。

 なかなか抽象的且つ身近なことを改めて説明し直すってムズカシイ。色んな例を示して、生徒に「もの」「こと」「ことば」の関係性を伝えたいなって思っていたんだけど、授業中急に頭に浮かんだのは、あいみょんの「君はロックを聴かない」でした。

 文章を情報伝達文(もの)として捉えたら?ただ、ロックを聴かない人がいましたっていう内容。でもそうじゃないでしょう。

 

 「私はロックを聴かないんだよね」

 「ふーん、そうなんだ」

 返事をしたけど、僕の声は震えて心臓はバクバクしてて辛い。とてもいつもの自分じゃなかった。BPMにしたら190くらいか。テンポが速いロック。前前前世?

 だいたい、「君がロックを聴く」可能性なんてほとんどなかったんだろう。それでも何故か聴いてみたくなった。「ロックなんて」なんて言ってしまうのは、多分教室でも目立つ方じゃない自分に対するコンプレックスなのかもしれない。

 机に座って一人でイヤホンをしている時、ふと周りを見渡してみた。楽しそうにお喋りしている人、ゲームをしている人、次の授業の予習をしている人。何の変哲もない、いつもの休み時間。日常の生活音が遮断されていると自分だけ取り残されているような、でも冷静に他人を観察できるような、それでいてぼんやりしているような不思議な感覚になる。耳も目も冴えてくる。

 君が教室に入ってきた。そして、僕の斜め前の自席に座るとイヤホンを取り出して何かを聴き出した。少しだけ目が合った気がする。何を聴いてるんだろうか。君のことが知りたくなった。

 多分「君はロックを聴かない」。頭でわかってても、少しだけ期待したくなる。でも、自分が好きなものはやっぱり好きで。その好きなことを好きな人に知ってほしかった。ただそれだけなんだ。僕がロックが好きで、そのことを今痛いほどに感じている。君にとっては何か別のものかもしれないとは知りながら。

 休み時間が終わるタイミングで、イヤホンを取ってノートを取りだそうとする君に思い切って声を掛けてみた。

 「君はロックを聴くの」

 答えは予想通りで、なんで自分が声を掛けたのか分からなくなった。何かとんでもないことをしたような気になって、恥ずかしくて何も言えない僕を君は不思議そうに見つめている。

 「・・・どうしてロックを聴くの?」

 聞き返されて、戸惑う。自分から聞いているのに、僕は随分身勝手な奴だ。

 「なんか聴いてると色んなこと忘れられたり、思い出したりするから?」

 捻りだした答えはよくわからないものだった。

 「ふーん。色んなこと忘れたり思い出したりするのか。なんかロックって面白いね。じゃあさ、今度教えてよ」

 笑って前を見た君を見て、本気なのかそうじゃないのかなんて、またごちゃごちゃと考えて、僕はロックを聴いた。君に合う歌はなんだろうか。今度また急に思い立ったとき、ちゃんと伝えられるように準備しておこう。 

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