あの時間が大好きだったと、ようやく素直に言えるようになった。
アラサーになって突然はじめたベース。突然はじめたバンド活動。あのころ、私はどうしても楽器を弾けるようになりたかったし、バンドをやりたかった。理由はなんてことない、昔好きだった男を思い出したからだ。なんとなく、バンドをやることで、昔、理解できなかったその男の世界を垣間見たかったんだと思う。
最初はトランペットをやっていたころの仲間とJ-POPのコピバンをやった。バンド内外恋愛がいろいろあって、人生最後のカラフルに色めいた気配を感じた時代だった。その頃同時に、インストのオリジナルバンドにはいった。当時はポストロックやエモがマイブーム。メンバーは、好みを同じくしながらも、実験的で刺激にあふれてた。エロ小説の朗読演奏とか、なかなか面白いことをしていると思う。でも終わった。
最後に加わったバンドは、女子ボーカルのバンド。毎週毎週、仕事帰りにきゃいきゃいリハ。曲の構成を考え、歌詞を考え、ライブの曲順を考え。今思えば、最高に贅沢な青春を、30歳過ぎという時期に過ごしていた。引っ越し、出産、病気……いろんな理由でバンドが消えた。数年たって、アルバムまで出た。当然、売れてないけど。
みんなと一緒にあわなくなって、何年が過ぎただろう。もう5年は超えているのではないだろうか。
そんなある日、初めて会ったと思っていた人から「わたし、UEさんと会ったことありますよ」と言われた。
「昔、UEさんのバンドのライブを見に行きました。一緒にご飯、たべたんですよ」。
言われて24時間、一生懸命記憶をほじくり起こす。ああ、確かにいたかもしれない。それだけじゃない。楽器を背負って歩いた道。隣にメンバーがいるという気配。ステージでの視線。いろんな失敗と笑い。埋もれていた記憶まで蘇ってきた。
そうか。私はあのバンドも、メンバーも、メンバーといた時間も大好きだったんだな。昔のように、一緒にテーマ曲を演奏することはないだろうけど、この思い出があるだけで幸せなのかもしれない。
この出会いの1ヵ月前に、ベースを質屋に売っていた。
あのベースにつけていたストラップ。あれだけでも、残しておけばよかったかも。小さく後悔した。
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