【小説】夜の歩調を合わせて。一話 小林夏美ノ章

私の名前は小林夏美、私が産まれた日は空が抜けるような青さで病室の窓から見える木々の緑が光を反射して、キラキラと宝石のように輝いていた、そんな映画のワンシーンを切り抜いたみたいに美しい夏の日に産まれたから貴女の名前は夏美なのよ、お父さんとお母さんは昔を懐かしむような優しい顔で私に教えてくれた、今年17歳になる私は両親と兄に大切にされ何不自由無く育ってきた、ただ兄は私の一度気になった事は満足行くまで探究しないと納得しない性格を知っているので

「元気なのは良い事なんだけど、夏美は少し好奇心が旺盛すぎる、父さんも母さんも何事も経験だから夏美のやりたい事をさせてあげなさいって言うけど俺は少し心配だよ。」

兄は少し困った顔でそう言ったけど私は知ってる、兄が誰よりも優しくて誰よりも頼りになるって事を、傘を忘れて外出した時、突然の豪雨に唖然としながら雨宿りをしてると何時でも直ぐに携帯にメッセージが入る

[雨降ってきたな、今朝傘を持ってくの忘れただろ?少し待ってろ仕事切り上げて車で迎えに行くから。]

そんな優しい兄なのだ

そんな優しい兄が困った顔で私の心配をする、その切っ掛けは一冊のノートから始まった、部屋の大掃除をした時に見つけた古ぼけたアルバム、どうやら両親が私ぐらいの年頃の時代に撮られた思い出のアルバムみたいで、若い頃のお母さんは確かにお母さんだなって面影は有るけど、今はストレートに伸ばしてるロングヘアを一本のみつ編みに纏めて普段強気な口元に幸せそうな微笑みを浮かべて、どこか儚い文学少女って感じがする、お父さんはそんな儚げなお母さんに惚れたんだろうかと勝手に想像して少し笑ってしまう、写真のお父さんは昔も今と変わらず憎たらしいぐらいに良い笑顔を浮かべるイタズラ小僧そのまんまだ、お母さんが良く口にする

「あの人は私が見てないとダメなのよ、少しでも目を離すと好奇心のなすがまま飛び出しちゃって、行く先で必ずトラブルに巻き込まれるの、まるで良く有るお話の探偵さんみたいにね、夏美は少しお父さんに似てる所が有るから気をつけなさいよ、」

我が家は私と兄が少し引く程には夫婦仲が良く、私達兄妹は産まれた瞬間から夫婦のラブラブっぷりを見せつけられる宿命のもとに産まれたのだった、そしてお父さんの事を一通り惚気たお母さんは決まって私の方を見ると、貴女はお父さんの好奇心旺盛な所を引き継いでるから、余りトラブルに巻き込まれないよう気をつけなさいと言葉を締めるのだった、そんなお母さんの言葉を今迄の惚気のオマケと聞き流していたが、この古ぼけたアルバムから出てきた高校生ぐらいのお父さんの写真を見て納得してしまった、キラキラしてギラギラした心の底から楽しそうな、今にも飛び出してしまいそうなその笑顔は、私が何か不思議を見つけた時の表情と瓜二つなのだから、そんな新鮮で何処か懐かしいような写真をアルバムを捲りながら眺めていると、ページとページの間に隠れる様に挟まった一冊の大学ノートが顔を出した

[〘都市伝説ノート〙手延街の不思議と伝承❳

このノートを手にした瞬間から、謎と不思議に満ちた冒険が始まったと確信した私はノートを片手にキッチンに向かった、まず手始めにこれが誰のノートなのか確認しないと、キッチンからはカレーの匂いがただよってきて、あぁ今日のお昼はカレーなんだなって少し嬉しくてなりながら私はお父さん譲りの笑顔でお母さんに話しかけた

「お母さん、部屋の大掃除してたら古いアルバムから、ちょっと不思議なノートが出てきたんだけど何か知ってる?」

まだお昼なのに、少し澄んだ夜の風が私の頬を撫でた気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?