【小説】夜の歩調を合わせて。2話 小林夏美ノ章

独白

こちらは元気です、貴女は元気ですか?もう一度会いたい、会って話したい、有り触れた日常の会話を涼しくて静かな少し古いあの喫茶店で、また貴女と語り合いたい、もうすぐ夏ですね、貴方もこの青い空を何処かで見上げてるのかしら?ときたま吹く夜風が、火照った身体を冷ましてくれる心地よい季節がまた巡って来るのね、貴女が大好きだった夏の夜が、夏の夜の夢でも構わない、私は私達は貴女に会いたい。


夜の歩調を合わせて。2話 小林夏美の章

若い頃の両親が映る少し古びたアルバムに、隠れる様に挟まっていたノートを片手にお母さんがお昼ご飯を作ってるキッチンへと降りて行く、自分の部屋を出てキッチンに向かうとドンドン強くなってくるスパイスの香り、あぁ今日のお昼はカレーなのか嬉しいな、カレーは私と兄の大好物なのだ、今日は何時頃に帰ってくるのかな?今日も仕事を頑張ってる兄のために、このカレーは少し多めに残しといてあげよう、そんな事を考えながら今もお昼の準備をしているお母さんに声を掛け、件のノートを見せると、一瞬だけカレーが焦げない様にかき混ぜてるお玉の手を止めた、そして懐かしいような悲しいような嬉しいような、まるで年頃の少女が泣くのを我慢して、優しく微笑んでいるような表情で私を見つめた

「随分と懐かしい物が出てきたわね、そっか、そのノートはアルバムに挟んだままだったのね、それはねお母さんとお父さんにとって大切な思い出のノートなの、見つけてくれてありがとうね夏美、そろそろお昼ご飯だからもう少し待ってて、お昼食べ終わったら折角だし話してあげる、そのノートの事とそれを書いた私達の大切な大切な友人の事、それを聞いたら夏美はきっと、いても立ってもいられなくなって、きっと今年の夏休みは冒険に出てしまうわね。」

私の性格から、この先の行動を想像したのか、仕方無いわねって感じで笑いながらカレーをかき混ぜるお母さん、私は食器の準備をして、いつカレーが出来上がっても良いように炊きたてのご飯をお皿に盛り付ける。

美味しいお昼ご飯を食べ終わって、午後のニュース番組から響くコメンテイターの、毒にも薬にもなら無い、いっそ清々しいまでに心に響かない皮肉混じりの社会風刺をBGMにして、一冊のノートを眺めながらお母さんと一緒にお茶を飲む

軽く目を瞑って少しだけ深い深呼吸をした後に、お母さんが口を開いた

「このノートはお母さんとお父さんの大切なお友達、松河鈴音さんが高校生の時に書いたノートなの、内容は夏美達にとってのお爺ちゃんととお婆ちゃんが住んでる手延街で、今でも噂されてる不思議な出来事とか、昔起こった伝説とかを纏めたノートなのよ、このノートを私に託して鈴音さんは御両親の都合で東京に引っ越して行ってしまったの、そしてね…


そうして午後の気怠げで緩やかな時間

初夏の眠気を誘う、暖かな空気が充満した部屋の中

物語の幕が上がった




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