[りゅうおうのおしごと] なぜ我々は夜叉神天衣は放っておけないのか

はじめに

涙なしでは読めないほど感動すると同時に、どこか懐かしい物語だった。「りゅうおうのおしごと」の9巻の率直な感動だ。

「りゅうおうのおしごと」について簡単に説明を。
16歳にして竜王のタイトルを持つ棋士、九頭竜八一。
そして、彼にあこがれて内弟子となる9歳の天才少女棋士、雛鶴あい。
この二人を中心にして、棋士たちの命がけの戦いを描いた、笑いあり涙ありのライトノベルシリーズだ。

以上の二人のほかにも、応援せずにはいられない魅力的なキャラクターが多数登場する。その一人が夜叉神天衣だ。

「神戸のシンデレラ」こと夜叉神天衣

彼女も雛鶴あいと同様に、将棋に愛された天才少女。年も同じ9歳。
大手実業家の家に生まれたお嬢様。ただ、幼いころに両親と死別している。
アマチュア名人の父親の影響で将棋を始める。
棋風は相手の攻めを完璧に受けきる、堅実な受け将棋が持ち味。

お嬢様らしく、高飛車で物怖じのしない性格。
タイトル持ちの女流棋士相手にも怯まず、挑発する余裕すら持ち合わせる。

もともとの素質もあり、八一の二番弟子になったことで、才能が開花。
あれよあれよという間に連勝を重ね、将棋界から注目を浴びる存在に。

この娘がたまらなく可愛い。同情ではなく、応援せずにはいられない。
放っておけない。ずっと見守っていたいという気になる。

正直そこまで登場回数が多いキャラではない。
にもかかわらず、「このライトノベルがすごい!女性キャラランキング」で
TOP10に入るなど、絶大な人気を誇る。

なぜ、これほどまでに愛されるのか。
その鍵は彼女に付けられた異名にあるのではないかと考える。

夜叉神天衣。人呼んで「神戸のシンデレラ」。

シンデレラストーリーとは

シンデレラストーリーを辞書で引くと

無名な状態から何かのきっかけで有名になるという話。
サクセスストーリー。

とある。

もちろん、童話の「シンデレラ」から生まれた言葉だ。

継母や義理の姉にいじめられている娘が、魔法の力できれいなドレスを身にまとい、舞踏会に参加する。
そこで王子様と出会い、結婚し幸せに暮らすというというおなじみのストーリー。

しかし、この「シンデレラ」は地域によって細部が異なる。
というより、世界中のいたるところで似たような童話や民話が生み出されてきたのだ。

そんな各国や地域の「シンデレラストーリー」を集めたのがこの本。

全部で20の「シンデレラストーリー」が収録されている。
フランスや韓国、スペイン、ベトナム、中国というように世界の至るところで、「シンデレラ」が愛されていることがわかる。

我々がよく知る、カボチャの馬車に乗って舞踏会に向かう話は、シャルル・ペローの作品であるらしい。
また、ガラスの靴が入らないからと、足の指を切り落とすという少し過激なエッセンスはグリム童話で生まれたようだ。

中には義理の姉を殺し、ソースにして継母に送り付けるという残虐極まりないストーリーもあった。
かと思えば、義理の姉妹が協力して継母の企みを阻止するといった心温まる作品もあり、割と自由度は高い。

もちろん、日本にも似たような民話がある。ここでは「紅皿欠皿」を例に挙げる。

紅皿は、継母とその娘の欠皿と共に住んでいた。
継母は紅皿に対し、わざと穴の開いた袋で栗拾いに行かせるなどの意地悪を行っていた。
ある日参加した村の祭りで、紅皿は殿様に見初められる。
そして、迎えにきた殿様の前で見事な歌を詠み、結婚することになるというお話。

だが、今回伝えたいのは地域による細かい違いなどではない。
むしろ「シンデレラ」のようなストーリーが世界中のいたるところで生まれ、今もなお愛され続けているということだ。地域を問わず、普遍的に人間の心を揺さぶる物語なのである。

話を戻そう。
だからこそ「神戸のシンデレラ」こと夜叉神天衣にも、我々は感情移入せずにはいられないのだ。

夜叉神天衣がシンデレラたる由縁

シンデレラストーリーに概ね共通している要素は以下の4つだ。

①両親を亡くしている。
②継母達のいじめに苦しむ。
③生まれながらの美しい心と容姿。
④身分の高いものに見初められる。

ものによっては当てはまらない場合もあるが、多くの場合、上の4つが登場する。

この4つを夜叉神天衣は見事に満たしている。

①両親を亡くしている。

これは言わずもがな。
熱心に将棋を教えてくれた父親。二人を優しく見守ってくれた母親。
そんな大好きな両親を交通事故で失ってしまう。
家族3人の思い出を忘れてしまう前にタイトルを取りたい。
その一心で強さを追い求めるようになる。

②継母達のいじめに苦しむ。

継母とは少し違うが、ライバルとなる女流棋士の面々がこれにあたるのではないか。
月夜見坂 燎供御飯 万智といったタイトルホルダー。
さらに、実力者の清滝桂香、才能の片鱗を見せる雛鶴あい

そして、叔母弟子にあたる、「浪速の白雪姫」こと空銀子
この人が一番、継母っぽいかもしれない。
続柄としても、性格の悪さからしても。

勝負の世界なので仕方ないが、天衣の夢の前に立ちふさがる女流棋士たちと
シンデレラの意地悪な継母が、どうしてもリンクしてしまう。

③生まれながらの美しい心と容姿

これも特に説明するまでもない。
綺麗な黒髪。幼いながらも、知性と自信にあふれた顔つき。
そして生意気な態度に隠れた、思いやり、素直に将棋を学ぶ心。

この世のものとは思えず、あるがままが一番美しい。
まさに「天衣無縫」という言葉がよく似合う。

④身分の高いものに見初められる。

これは、将棋界最高のタイトル「竜王」を持つ九頭竜八一のこと。
父親が生前に八一と少しだけ交流があり、天衣は彼に弟子入りすることを目標にしていた。
天衣にとって、八一が王子様にあたるのではないかと考えられる。
そして無事に才能を認められ、八一の二番弟子となることとなった。

これが2巻までの内容である。もちろん、これでハッピーエンドというわけではない。
天衣の最大の夢は弟子になることではなく、あくまでタイトル奪取であるからだ。さらに、八一への恋心にも気づき、彼を振り向かせることも大きな目標になっている。

そういった意味では、「王子様といつまでも幸せに暮らしましたとさ」というようなストーリーからは少し外れてしまっている。

タイトル戦を描いた9巻で、「挑戦者」というシンデレラの魔法が解けてしまったという描写があった。
しかし、天衣は気高く、立ち止まることなく前に進みつづける。
魔法が解けたあともシンデレラは美しかったように。

終わりに

どんなシンデレラと比べても見劣りしないほど、夜叉神天衣は最高に美しいヒロインである。何としてでもタイトルを取ってほしい。そして、恋のライバルもはねのけて幸せになってほしい。

下手くそな文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。
原作の2巻と9巻が天衣ちゃんのメイン回なので、ぜひ読んで見てください。

追記

シンデレラにおなじみの「ガラスの靴」、すなわち、運命の相手であるという証明。夜叉神天衣にとっての「ガラスの靴」は、彼女の棋風そのものではないでしょうか。

初めて天衣の将棋を見たとき、八一は既視感を覚えます。
受けを主体としつつも、王を囲うのではなくバランスをとって戦う棋風。
それもそのはず、それは他ならぬ八一自身の棋風だからです。

幼いころから父と共に八一の棋譜を並べていたことから、自然とスタイルが似通っていたのでした。

、、、みたいなことを絡めて上手く書きたかったのですが、いかんせん話がとっちらかってしまい、どう書けばいいのかわかりませんでした。
自分の筆力の無さを恨むしかないですね。。。

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