千と千尋を見ると

思い出す人がいる。

その人は、ぼくが高校三年生の時に(正確には2年生からだが)同じクラスだった女の子である。

その子には彼氏がいたのだが、まあ結論から言うとぼくはその子のことが好きだった。

ただ、そりゃ彼氏もいるし、その彼氏と比較してもすべてにおいて劣っていると自覚はあったため、ぼくはその女の子とは「あくまでも友達」というスタンスで接していた。というか、完全にその子との間に「俺たち友達です、それ以上でも以下でもありません」という線を自分から無理矢理引いていた。

もちろんその子もぼくとは一友達として仲良くしてくれて、頻繁にLINEで話したりもしていた。なんなら受験生なのに勉強している時間よりもその子とLINEしている時間の方が長かったと思う。マジで。

彼氏の愚痴とか、友達関係の話とか、もちろん自分の愚痴含め色んな話を聞いてもらったし、少なからず向こうはぼくのことを仲のいい友達とは思ってくれているようで、結構な量のやり取りをしていた。

そんなある日、千と千尋の神隠しがテレビ放送されるとあって、その子は一緒に見ようよ(LINEで実況しながら見ようの意)と誘ってきた。もうカップルやんとか思いながら、千と千尋をその子とLINEでここ○○だよねとか実況しながら見た。冗談抜きでこれまでの人生で一番楽しい時間であった。

向こうはぼくのことは何とも思っていなかっただろう。いや、1%くらいは好意があったと思いたい。そうじゃないと彼氏でもない男とリアルタイムで千と千尋見ながらLINEで実況したりするだろうか。いや、自意識過剰かもしれないけど、でも向こうには彼氏がいるし、と悶々とはしていた。

その後高校を卒業してからもしばらくやり取りが続いていた。彼氏は他県の大学に進学したらしかった。続いてるのか別れたのかは分からない。

でも、ぼくはあくまでも友達という体でやり取りしているため、よく通っているスーパーの店員さんが可愛くてさー何とか話したいんだよねーとかしょうもない話をしていた。本当はいまやり取りしているその子のことが好きなのに。自分で自分に嘘をついて、友達というレッテルを貼り付け、別にあなたのことは恋愛対象として見てはいないですよ、という態度でずっと続けてきた。もう我ながらダサすぎる。こんなダサい人いますか。いないでしょ。たぶんその子にはバレてただろうし。それも含めて極めてダサい。

男女の友情は成立するか?という永遠のテーマみたいなものがある。もちろん、本当に友達としてしか見てない人もいるし、生理的に無理な人もいるから、「恋人にもなりうるし、友達にもなりうる異性」という条件は付くと思うが、その条件を付けた上でぼくなりの回答を申し上げるならば、「男女の友情は成立する。と思い込んでいる」となる。

勝手に友達と決めつけ、そこに恋愛感情は入りませんよ、と自分で線を引いてしまうため、まあ言うなれば自分で自分を苦しめていることとなる。俺たち友達だよな?と言った手前(実際に言った訳ではないけど、そういう空気を醸し出していた)、もうそこから恋愛関係へと発展させていくのは至難の業。ましてやぼくのようなモテた経験がゼロの人間には到底無理、である。

男女の友情は成立すると思い込んで、友達だと言い聞かせてはいるものの、自分の気持ちに正直になれば結局その子のことは好きなので、まあそうなると結局男女の友情は成立しないという結論に至るのかもしれない。

千と千尋から始まって男女の友情の話にまで広がってしまったが、千と千尋がテレビで放送されるたびにその子のことを思い出す。
その子との実況が楽しかったことと、勝手にその子との間に不要な線を引いてしまった自分の立ち振る舞いへの後悔とが入り交じって複雑な感情になってしまうのである。

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