嫌われ者が嫌われる理由の話

私は社会人になってからいろんな職場でいろんな仕事を経験した。そして、どの職場にも共通して、仕事ができない人がいた。

仕事ができない人と同じくらい「嫌われ者」もいた。個人的に嫌い、苦手という話ではなく、ほぼ全員から嫌われている人。
大抵の場合、嫌われ者たちは仕事ができないということにプラスして、性格的な問題があった。そして、嫌われてることに気づいていない人も多かった。

ある職場にいた時に出会った嫌われ者。
私は、その職場に入ってすぐに、彼女が嫌われていることに気づいた。周りの人が彼女の悪口を懇切丁寧に教えてくれるのだ。いくら私が鈍くても気づく。
悪口を言いふらす方も大概だが。

彼女と一緒に仕事をしていて、あまりに仕事ができないことに心底驚いた。
新卒で就職してから20年近く同じ部署で仕事をしているのに、あまりにも仕事の内容を理解していなかったのだ。仕事を理解できなければ、仕事をこなせるはずもない。
なんだかんだで周りがフォローさぜるを得ない状況を経験して、彼女が嫌われる理由を理解した。

彼女の嫌われる理由は、仕事ができないことに加えて、他人のミスをものすごく細かいレベルで指摘してくるのだ。なるほどな、と思った。
あまりにも仕事を理解していないから、何かの障害があるんじゃないかとすら思った。そう思わないとこちらのメンタルがやられてしまうのではないかと思った。

私は、彼女の嫌われる理由を極度の無能さだと思った。例えば、彼女はものすごく細かくミスを指摘するのだが、そこに相手を責める気持ちは私は感じられなかった。
純粋に間違いを見つけた。だから教えてあげた。ただあまりにも無能すぎて、指摘する必要のあるミスなのかそうでないのかの区別がついていないのだと、私は解釈した。

事実、彼女は報連相が下手だった。
報告しなくていいことまで、逐一報告してくる。だからみんながウンザリして話を聞かなくなってしまう。私も随分困ったものだが、言っても理解できないと決めつけてしまった。
そもそも、上司が匙を投げているのだから、私が面倒を見てあげる必要もない。そうして彼女は誰にも相手にされなくなったんだろうと思った。
彼女には悪気はない。ただ、頭が極端に悪すぎるだけなのだろう。私はそう結論づけた。

だが、休憩室で彼女の話題が出た時のことだ。
私以外の人は、彼女の中に明確な悪意を感じ取っていた。
「意地悪だよね」「わざとやってるよね」「本当に性格悪いよね」
他人のミスを細かく指摘することについても、意地悪する意思を持ってわざわざ嫌な思いをさせるために指摘している、とみんなが判断していた。

私は驚いた。私には感じられなかった悪意をみんなは感じていたのだ。
彼女はおそらく自分が嫌われていることには気づいている。それだけみんな露骨に態度に出していた。それでも彼女はせっせと雑談しにみんなに話しかけていた。なんとかみんなと仲良くなりたいのだろう、と私は思っていたのだ。
話しかけるせいで余計嫌われることになっていたのだが。

なぜ、こんな認識の違いが生まれたのだろう。
なぜ、私だけが彼女の悪意を感じ取れなかったのだろう。私もみんなと同じで彼女を嫌っていた。決して好意的に解釈しようと努めていたわけではない。
悪意があると言っていた人たちは、私よりはるかに彼女との付き合いが長い人ばかりだった。だから、当時は私の知らない彼女をたくさん見ているからだろうと思った。

その後、しばらくして私はその職場を離れた。
彼女たちが今何をしているのか知らないし、知る気もないが、年齢的にはまだ定年にはなっていない。彼女は今でも嫌われているのだろう。
離れたからこそ、なぜ私だけが悪意を感じなかったかについて、考えるのも楽しいかもしれない。

なぜ、人は人を嫌うのか。人は人のどこに悪意を感じるのか。面白いテーマになりそうだ。

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