嫌わせてあげる優しさの話

以前、「嫌われる勇気」という本が流行ったと思う。私はその本は読んでいないが。養老孟司さんだったかと思ったら、そちらはバカの壁だった。

私の知り合いにAさんがいる。このAさんは、周りの人全員にうっすら嫌われてる人なのだが、Bさんには特別嫌われている。蛇蝎の如くだ。挨拶もしない、目も合わせない、話しかけられても無視だ。徹底している。
なぜBさんがここまでAさんを嫌っているのかは、私は直接聞いたことはない。

Aさんは、決して悪い人ではないのだが、恐ろしく空気が読めない。忙しそうな人にどうでもいい話をしたり、他の人同士の会話に割り込んで自分語りを始めたり。
Aさんは悪意の人ではない、善意の人だ。あくまで、善意で余計なことを言ったりしたりする。
おそらく、Aさんはそういうことをずっとしてきて、みんなに嫌われてしまったのだろう。

だが、Aさんは孤立しているわけではない。話しかけてくれる人もいるし、表面上付き合ってくれている人もいる。なのに、AさんはなぜかBさんに固執するのだ。Bさんが一人でランチを食べている時、他の人の席ではなくBさんと同じテーブルに着こうとする。そして無視される。Bさんがどこかに行こうとするとついていく。そして無視される。

Aさんを完全無視するBさんをさすがに酷い、と言う人もいる。もし、AさんがBさんに無視されたと訴えたら、倫理や道義はAさんに軍配を上げるだろう。
だけど、徹底的に無視をされても懲りずに話しかけるAさんを見ていると、私はBさんの肩を持ちたくなってしまう。そういうとこだよ、と言いたくなってしまうなのだ。

Bさんは、他の人には無視をしないである程度の距離を保って接することができる人だ。おそらく、Bさんも苦手だと感じ始めた時は、Aさんから距離を取ろうとしたのではないか。
やんわりそれを伝え続けて、それでも伝わらなくて、Bさんは耐えられなくなったのではないかと思う。

なぜ、AさんがBさんに固執するのか、私はわからない。私もうっすらAさんが嫌いで、話したくないからだ。Aさんは鈍感なところはあるが、そこまで徹底して無視されれば、さすがに嫌われていることには気づいているだろう。
嫌われているのが嫌で、仲良くなりたいのか。誤解されていると思って、誤解を解きたいのか。理由はわからない。

私は、人の好意にも敵意にも悪意にも鈍感だ。直接、好きや嫌いと言ってもらえないと、伝わらない人間だ。ナットを渡されても、それを指にはめてあげることはできない人間だ。
だから、Aさんを反面教師にしようと思う。友人であれば繋がりを断てるが、そうはいかない場合の方が多い。
私から距離を取ろうとする人がいたら、その距離を踏み越えないように気をつけよう。他者に自分を嫌わせてあげる優しさを持とう、と思った。



若い人には、ナットの指輪って伝わらないだろうな。私もリアルタイムで見ていた世代ではないが、101回目のプロポーズです。

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