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ぼくのBL 第四十回

 去年までのぼくには想像もできないと思う。一年後のぼくが、こんなことになっていようとは。
 ヘッダに載せた写真のことだ。
 これまでも散々に書き散らしたので繰り返しを避けるけれど、今年の4月にほんのちょっとしたきっかけで、ぼくはドルオタになった。
 それまでは平凡な、ただの本好きだった(まあ、ただの本好きと言ってしまうのも躊躇するくらいの書痴なわけですが)。

 いや、いきなりドルオタになったわけではない。
 最初は地元のイベントに来ていた仮面女子に夢中になった。
 そこから派生して、今はなきスチームガールズやスリジエといった関連アイドルへと興味が移った。
 しかし、そこに留まっていられた期間は短い。とても充実していたけれど、次のステップは必ず訪れる。
 それが対バンライブだった。

 10月末のことだ。仮面女子が出る大規模な対バンライブ「アイコレ」に参加したことが、ドルオタになる決定打となった。
 それまでは1つの事務所のアイドルだけを追いかけていた「狭く深く」の状態だったのが、アイコレ参加以降は「広く浅く」という方向性に変わったのだ。
 浮気性、と人は言うかもしれない。
 しかしぼくはそれを恥じていない。
 多くのアイドルに触れることで、音楽の多様性、表現の多彩さ、個性の幅広さ、運営の方針の差、そういった世界の広さを実感できるようになったのだ。

 チェキ会、という文化がある。
 アイドルライブには、「特典会」という名前で、終演後もしくは開演前、あるいは平行物販、とにかくライブをしていない時間帯にアイドルと接触できる機会が用意されている。
 その時間に何をするかというと、CDやチケット、グッズの販売はもちろんだが、メインになるのはチェキ会である。
 観客はお金を払って、目当てのアイドルと写真を撮ることができる。一緒に写る「2ショット」のほかにも、恥ずかしい御仁には「ピンチェキ」(アイドルのみの写真)という選択肢もある。
 恥ずかしいという理由以外にも、「自分という穢れた存在が写真に入っていてはもったいない」という意識が働くこともある。

 ぼくはチェキ会が好きだ。
 可愛いと思ったアイドルの写真を手元に置いておきたいという理由も、まあなくはない。
 それよりも大きな理由は、ライブの感想を直接アイドルに伝えられるということだ。
 ぼくがアイドル(と所属するグループ)に求めるものは、何をおいても「音楽性」だ。
 いくら可愛い子がいたとしても、曲が好みじゃないグループには興味が持てないし、そこで散財する気にはならない。
 逆にいえば、顔が好みではなくても曲やパフォーマンスが好きになれば、どれだけでも時間とお金を使ってもいいという気持ちになる。
 今までの経験上、曲の良さを伝えると、アイドルはとても喜んでくれる。
 これに関しては、忘れられない思い出がある。
 あるチェキ会に行ったとき、相手に曲と顔の良さを同時に伝えたことがあった。そのアイドルは「顔がいいアイドルなんて星の数ほどもいる。それよりも私はグループの他のメンバーの足りない部分を補っていきたい。パフォーマンスで評価されたい」。意訳するとこんな風なことを言っていた。
 ぼくは頭に水を掛けられたような気がした。
 言われてみれば、そりゃそうだ。
 天性のものを持ち上げられるよりも、努力の結果を認められたいと思うのは万人に共通しているだろう。
 だから、たくさんのアイドルが出演する対バンライブでは、ぼくは極力予習をしていく。MVを見て最初にランク付けをする。見る価値のあるグループか否か。
 見たいと思ったグループのライブは真剣に見る。
 それぞれの個性はどうか。歌の上手さ、ダンスの上手さ、チームワークはどうか。誰が実質的な主導権を持っているのか。トラブルの対処力はどうか。
 こんな偉そうなことを書いているけれど、時に例外もある。
 一人のアイドルに目が釘付けになってしまう場合だ。
 想像もしていなかったものを見せられると、他のことには目が届かなくなる。傑出した歌唱力だったりダンスだったり稀に見る美貌だったり。
 一人だけ悪目立ちしている場合もあるけれど、それがグループに馴染んでいる場合はとても高評価になる。
 そして終演後のチェキ会で、思ったままの感想を伝える。もちろん良い評価のときだけだ。直接ダメ出しをすることは絶対にしたくない。
 真剣に見て感じたことを伝えると、相手は喜んでくれることが多い(と思いたい)し、そこから派生してもっと深い情報が聞けたりもする。チェキ会に魅力を感じる理由のひとつだ。

 ここで少し脱線する。
 オタ芸というものがある。代表的なのは「MIX」だろう。大声で「タイガー・フィヤー・サイバー・ファイバー・ダイバー・バイバー・ジャージャー」と叫ぶものだ。
 現に、今もライブの現場では日常茶飯事のように叫ばれている。
 ぼくはMIXには否定的だ。
 飽くまで「ぼくはやらない」というだけで、他人には干渉しないけれど。でも近くにいたら迷惑だな、とは思う。
 熱いコールを入れている人は、アイドルを見ていないことが多い。
 もったいない、と思うのだ。
 ぼくは好きなアイドルのことなら、瞬きも惜しんで1秒でも長く見ていたいから。そして汚い大声でアイドルの歌声を打ち消すことなどしたくないから。

 本線に戻ろう。
 広く浅くアイドルを知ろうと思ってから、何度か大規模な対バンライブに参加している。行く前には予習をして、現場では本気で鑑賞して、それを相手に伝える。
 これを続けることで、ぼく自身の世界がどんどん広がっていくのを実感している。
 これからも無数のアイドルを見るだろう。そして、その中からぼくの手のひらに残ったものを無心に愛していくだろう。
 アイドルは流れ星のようなもの。人生の長さには比べるべくもないくらいにアイドル生命は短い。
 ぼくたちドルオタは、彼女たちの人生のいちばん輝いている瞬間を目の当たりにすることができるのだ。まるで流星群を見ている時のように。なんという贅沢だろう。
 それらの輝きを自分の力に変えて、ぼくはこれからも生きていく。
 ドルオタ8か月目、初心者なりの今の気持ちを書いてみました。

 これまでに出会ってくれたアイドルたちに最大限の敬意を表します。

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