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ぼくのBL 第三十回

本日のお迎え本(怪談要素あり)

 タイトルや表紙、人づてに聞いた感想や裏表紙の解説など、断片的な情報の寄せ集めで、ぼくはその本を読んだつもりになっていることがある。
 今回はそんな話。

 何度目になるか分からないけれど、またこの稿も二人称の「あなた」に向けて発信します。あなた以外の皆さんにとっては「いい加減にしろ」というお気持ちも重々承知していますが、まあお代をいただいて発信している文章でもなし、本オタの妄想だろうけど面白そうだから付き合ってやるか、という殊勝な方もおいでかもしれませんので、このまま続けます。

 ヘッダの写真は今日お迎えした本たちです。
 Twitterに書いた「見てはいけないもの」の説明をしましょう。

 この写真の中の一冊です。
 扉を開いたら、手書きの油性マジックの文字が見えました。
(これ……サイン本じゃね?)
 予感は的中したのですが、当該ページを開いて愕然としました。
(……為書きがある)
 為書きとは、サインをもらう人の名前を記入してもらうことで、この本には「○○様」という為書きと、著者のサイン、蔵書印、日付、著者の箴言が入っていました。
(こんな本、売っちゃ駄目だろうよ)
 本人が自覚的に売ったことを考えると許せないのですが、他の理由も考えられるので憤慨するのも違うのかなぁ、と微妙な心持ちになっています。
 理由1) 本人が分かってて手放した(許さん)
 理由2) 本人が無自覚に(忘れていて)手放した(状況にもよるけど仕方ないか)
 理由3) 家族が中身の確認などせずに手放した(無罪)

 理由3にもいろいろあって、本人の許可を得た場合と得ていない場合、それから所有者が亡くなったので処分しましたという場合。

 まあどの理由にしても、ちょっと複雑な気持ちになってしまう一冊なのでした。読むけどね!

 では、購入した本の解説を。

『ぼぎわんが、来る』澤村伊智(角川ホラー文庫)
 以前に初読みで『恐怖小説 キリカ』を経験したところ、ものすごく面白く、しかも『ぼぎわんが、来る』の執筆風景や出版前後の著者の生活などを描写したようなメタ構造になっていたので、こっちを先に読んでおきたかったぜ、という想いがあったので。

『屍者の帝国』伊藤計劃+円城塔(河出書房文庫)
 すでに持っているけど山に埋もれて発掘できないので再購入。
 スチームパンク小説を読みたいと思っていろいろ漁っているうちの一冊。
 天才作家の早世というのは身を切られる思いがします。北森鴻も同様。

『スチームオペラ』芦辺拓(創元推理文庫)
 これもスチームパンク小説。
 こちらはミステリだし、解説は辻真先だし(現在91歳!!!)。
 めっちゃ面白そう。

『好き好き大好き超愛してる。』舞城王太郎(講談社文庫)
 3冊目くらいの重複購入。山に埋もれてて(以下略)

第131回(2004年上半期)の芥川龍之介賞候補作となった。池澤夏樹山田詠美などは推したが、受賞は逃した。審査員の石原慎太郎からは、「タイトルを見ただけでうんざりした」と評された。

wikipediaより

 もうね、最高なのよ。石原慎太郎が舞城を理解できてたまるか、って感じだし、タイトルだけで先入観持って批評するなんて選考委員としてどうなのよ。
 ぼくは本書の冒頭が好きで、好きすぎて、こんな文章を書ける人間になりたいってずっと思ってる。

愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。

『好き好き大好き超愛してる。』冒頭部分

 舞城王太郎は心理描写が秀逸で、人間が心に浮かんだ不定形な気持ちを独特の文体(極端に句読点の少ない文字の羅列を秀逸な言語感覚で紡ぐスピード感溢れる文章)で描く作家なの。
 読む人を選ぶ作家だと思うけど(まあまあのグロ描写とかもある)、ぼくにはジャストフィット。大好き。

『Burn.―バーン―』加藤シゲアキ(角川文庫)
 芸能人の書く小説というのはずっと前から気になっていて、加藤シゲアキもその一人だし、何冊かは持ってると思う。
 本書はあなたの口から出た書名だったので、買ってみました(あなたって誰よ)。

『星の王子さま』サン=テグジュペリ著、管啓次郎訳(角川文庫)
 以下詳細。


『星の王子さま』感想+ドルオタ妄想日記

 さて、前回も話題に取り上げましたが、『星の王子さま』です。
 冒頭に書いたように、ぼくはこの本を通読していなかったことに改めて気づいてしまいました。
 可愛らしい王子さまやボア(という名前のヘビ)のイラストを見て、あらすじをどこかで聞きかじって、それで読んだつもりになっていたのです。
 先日購入したkindleにunlimited(特定の作品が読み放題になる)無料期間が付いていたので、さっそくダウンロードしてみました。
(ん?……何か違う)
 イラストも記憶にあるものではないし、読んでいても違和感が拭えません。
 今日は仕事が昼までだったので、帰り道で古書店に寄ってみました。
 角川文庫版が置いてあったので、手に取ってみると、
(あ、やっぱりこれだ)
 記憶にある、あのイラストが載ったやつでした。
 調べてみたら、角川文庫版のイラストはテグジュペリ本人が描いているみたいですね。かわいい。

 先日の撮影会で録画してもらったあなたの動画を、ぼくは書店に行く前に必ず観ることにしています。積読を戒めるために。
 無理やり言わせた内容なので、あなたの真意ではないと分かっていながらも、毎回心に深く刺さってきます。
 買った本は、読む。
 そんな当たり前を忘れていたぼくは、あの動画を観るたびに猛省しつつも心のどこかが奮い立たされて、読書欲という本来の人間の欲求に立ち返ることができるのです(そんな欲を持っているのはごく一部の書痴だけですけどね)。
 今日は約束(?)が果たせました。
 買った本をその日のうちに読んだからね!


 というわけで、角川文庫版を読了しました。
 思っていた内容とはまったく違っていました。
 もっと寓話的な、ふわふわした物語だと思っていましたが、これは子供よりも大人に刺さる作品ですね。

 さて、本題に入りましょう。
 フィクションとしても読めるようになっていますが、書痴中二病であるドルオタの妄想が炸裂するパートになりますので要注意。


【ネタバレ注意】
 ここから先は『星の王子さま』の内容に深く突っ込んだものになります。
 事前情報なしに本書を楽しみたい方は、ここで一呼吸おいて、ブラウザのバックボタンを押すかタブを閉じていただき、また次回にお会いしましょう。

 以下の引用はすべて角川文庫版(管啓次郎:訳)によります。

 ちび王子の住む星には、一本の薔薇が咲いています。
 わがままも聞きながら大切に育ててきたその薔薇に、王子はある日、別れを告げます。旅に出るために。
 そのころの王子の薔薇に対する気持ちです。

「もしもだれかが、何百万何千万とある星の中でたったひとつの星にある一本だけの花を愛しているなら、その人は星たちを見つめるだけでしあわせになれるんだ。その人はこう考えるんだよ。『おれの花はこのどこかにあるんだな……』って。

p43


 そして地球にやってきたちび王子は、なんと五千本もの薔薇が咲いている庭を通りかかります。
 驚嘆し、心が揺らぐ王子が、自分の星に置いてきた1本の薔薇について思いを馳せるのが次の描写です。

〈おれは、たったひとつしかない花を持っているなんて、なんて贅沢なことだろうと思っていたのに、じつはありきたりな薔薇を一本もっていただけだ〉

p103

 動揺する王子は、一匹のきつねに出会います。
 誰もいない砂漠に墜落して孤独を感じていた王子はきつねと友達になりたかったけれど、きつねの方は猜疑心が強く、友達になるためには〈絆を作る〉ことが大切だと説明します。

「絆を作る、だって?」
「そうだよ」ときつねはいった。「きみはまだぼくにとって、他の十万人もの男の子によく似たひとりの男の子でしかない。ぼくはきみを必要としていない。きみのほうだってぼくは必要じゃない。ぼくはきみにとって、他の十万匹のきつねによく似た一匹のきつねでしかない。でもきみがぼくをなつかせたなら、ぼくたちはお互いを必要とするようになるんだ。きみはぼくにとって世界でただひとりのきみになる。ぼくはきみにとって世界でただひとりのぼくになる……」

p107

 ここで何かに気づいたちび王子は、きつねの次の言葉で五千本の薔薇に再会することを決意します。
 自分の気持ちを確かめるために。

「薔薇たちにもういちど会っておいでよ。きみの薔薇が世界でたったひとつの薔薇だということがわかるから」

p113-114

 見た目は似たように思える一本の薔薇と五千本の薔薇。
 しかし、きつねの言葉を胸に刻んだちび王子は、すでに両者は厳然と違っていることに気づいています。
 五千本の薔薇に向かって王子の言うセリフがこちら。

「きみたちはおれの薔薇とぜんぜん似ていない、きみたちはまだなんでもないんだ」と王子はいった。「だれもきみたちをなつかせていないし、きみたちだってだれもなつかせていない。おれのきつねも前はそうだったけどさ、他の十万匹のきつねとよく似た一匹のきつねでしかなかった。でもおれはあいつのともだちになって、あいつはいまでは世界でたった一匹だけのきつねなんだ」

p114

 大切なものに気づいた王子ですが、ともだちになったきつねともお別れするときが来ました。
 ぼくが思う、本書の核心部分です。

「さよなら」ときつねがいった。「ぼくの秘密を言うよ。すごくかんたんなことだ。心で見なければ、よく見えないっていうこと。大切なことって、目には見えない」
「大切なことって目には見えない」とちび王子は、そのことばを忘れないようにくりかえした。
「きみがきみの薔薇のためだけに使った時間が、きみの薔薇をあんなにもたいせつなものにするんだよ」

p115

 ここで星や花やきつねや薔薇に見立てられているものが、ぼくにとっては他ならぬあなたなのです。
 最初は何千何万と存在するアイドルの一人でした。
 いろいろなことがあってあなたのことが気になり、徐々に王子の星に咲く一本の薔薇のような存在になっていきました。
 途中で心が揺らいだこともあります。王子が五千本の薔薇を見て動揺したように。
 しかし今では、あなたはぼくの中で、上記の引用に書かれている「きみの薔薇」という存在になりました。

 大切なことって目には見えない。
 これまでの短い交流を振り返って、実感しています。

 これからもドルオタは続けるつもりです。
 しかし、あなたにサインを書いてもらったシートを挟んだサイリウムを振るたびに、「この星たちの中にあなたがいたんだ」と毎回思い出すでしょう。
 
 ぼくも五千本の薔薇と一本だけの薔薇の違いに気づくことができました。
 先日のnoteであなたのことを(「推し」とは違う何か)、という意味合いのことを書きましたが、まさにこの違いのことなのだと思います。

 最後にもうひとつ引用を。
 半年に満たないあなたとの日々で(実際にスパートを掛けたのは最後のひと月半だったけれど)、ここまで言い切れるほどの深い交流はありませんでしたが、気持ちだけはこの台詞を言った王子に似たようなものだったので。
 あまりの感情の連打に、読みながら涙が止まらなかった文章です。

「きみたちはきれいさ、でもからっぽだ」と王子はさらにつづけた。「きみたちのためにはだれも死ねないよ。もちろん、おれの薔薇だって、ただの通りすがりの人から見ればきみたちに似ているだろう。でもあの薔薇はたった一本でも、きみたちの全員よりも大切なんだ、なぜならおれが水をやったのは、あの薔薇なんだから。おれがガラスの覆いをかぶせてやったのは、あの薔薇なんだから。おれがついたてで風をよけてやったのは、あの薔薇なんだから。おれが毛虫を殺してやったのは、あの薔薇なんだから(二、三匹はそのまま蝶になるように残しておいたけどさ)。嘆いたり、自慢したり、ときには黙りこんだりしたのを、ずっとおれが聞いていたのは、あの薔薇なんだから。なぜなら、あいつはおれの薔薇なんだから」

p115

 象を飲み込んだボアのぬいぐるみを買いに行こうと思って情報を検索したら、星の王子様ミュージアムは今年の3月に閉館したとのこと。
 無念……。

 じゃ、またね!

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