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レジェンド問題から考える財務諸表を取り巻く環境の変化:基準重視から、情報作成のプロセス重視へ

レジェンド(legend)問題

もう昔のことのように思えますが、1999年、日本の企業が作成する英文のアニュアルリポートに添付される監査報告書に

「日本の会計基準および監査基準に基づいて作成されている」旨を記載することが求められていたことをご存知でしょうか。

レジェンド問題はその後、日本国内の会計基準及び監査基準の改訂により解消されました(2004年3月期に消されたようです)。

会計基準、監査基準の質が低いという扱いをされることは日本の企業会計・監査制度にとってあってはならない話で、その早急な解消が求められました。

会計基準の質の高さが担保されなければ、たとえ、公認会計士が公正妥当な会計処理基準に沿って財務諸表が作成されている認めたとしても、それは「信頼のない」情報である、とみなされます。

また監査基準も同様です。監査プロセスにまだリスク・アプローチが導入されておらず、お手盛りで監査をしているのではないか?という疑問符が投げかけられた形になりました。

当時のこと(私は高校生・大学生でしたが)を振り返ってみると、企業は当時、生き残るのに必死であり、財務諸表の数値を何とかよく見せかけよう、とする動機づけが高かったと思います。

バブル崩壊以降、多くの企業が業績に苦しみました。日本基準は取得原価主義をベースに行い評価替えを行う、つまり時価を反映させるという仕組みを積極的に採用していませんでした。また連結の範囲も厳格化されておらず、連結外しも横行し、いわゆる子会社への損失の飛ばしという手段をとっていたケースもありました。

もちろん、こうした企業の姿勢に対して監査人はより強い姿勢で臨まなければならなかったはずですが、監査基準が整備されておらず、公認会計士の個々の対応に頼らざるを得ず、厳しい意見表明を出来る環境ではなかなったというのが現状だったのではないでしょうか。

レジェンド問題は、日本の企業会計・監査実務に大きなショックを与えるものでした。同時に改革が遅れている、その現実を日本企業に突き付けるものでもありました。

2000年から始まった会計ビッグバンは、まさに会計基準の質を高めるための苦闘の歴史であったともいえます。また時を同じくして2002年の監査基準も見直され、リスク・アプローチに基づく監査の仕組みが明確にされました。

こうした会計基準・監査基準の改訂、それに対応する実務の形成により財務諸表の質、信頼性を取り戻すことが出来たといえるでしょう。

最近ではいくつか不祥事が起きているとはいえ、日本の企業会計制度・監査実務の問題があると、国際的に指摘されることは少なくなったように思います。

日本の基準対応が完璧である、とは思いませんが、ある程度の質は担保されるだけの枠組みを形成することが出来ている、とみなしてよいのかもしれません。

会計基準、監査基準が質が低いと暗に指摘した警句(レジェンド)は、何を指摘していたのでしょうか?

会計基準・監査基準自体の質が低かった、と捉えるべきなのでしょうか?それとも、会計基準に基づいて作成する会計担当者(経営者)、監査を行う監査人(公認会計士)の質に問題があったのか。それとも両方なのでしょうか。

やや繰り返しになりますが、当時の基準を振り返ってみると、当時は連結の範囲も実質基準ではなく、金融商品には時価も導入されておらず、退職給付会計もなく、減損もありませんでした。会計的な裁量行動が行いやすい環境であったと思います。認められた範囲で裁量行動が行える、ということはそれだけ利益の幅は大きくなります。監査人(公認会計士)が指摘できる余地も少なかったと推測されます。

経営者から「認められた範囲で行っている」と主張されれば監査人はそれ以上はいえないでしょう。またリスク・アプローチが導入されていなかったことも影響しています。

会計裁量の余地が縮まる一方で、経済的な実態を表すアプローチを採用する基準が増えてきました。最近適用された基準でいえば、収益認識がその代表格といえるでしょう。基準の大枠の部分は定まっていても、細部に関することは、現場(実務)で判断しなければなりません。

会計基準、監査基準だけでなく、有用な情報を作成するための内部統制の構築、会計実務に携わる人に対するインストラクション(指示書)の構築、または外部の専門家の利用など、基準の枠組みにはないプロセスが重視される時代になってきた、と感じています。

つまり、基準重視から、情報作成のプロセス重視へ。

ではないでしょうか。

収益認識など、契約の実態に合わせて収益の計上、タイミングを判断しなければならない基準が適用されることでそうした傾向はより強まってくる、かもしれません。

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