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なぜTOB(株式公開買い付け)でプレミアムを乗せるんですか?学生からの素朴な質問に答える

ちょっと番外編で学生からの質問に答えるコーナーです。

現在担当している会計学総論においては色々な質問がありますが、その中でも特に答えておいた方がいいという質問(もしくは私が答えておきたい、という質問)にお答えします。

授業の中では親子上場の問題点、上場の意義について触れたのですが、一番素朴な質問は、

TOB(株式公開買い付け)でなぜプレミアムをのせるんですか?

という素朴な質問です。

プレミアム、つまり元の価格に上乗せする形で株式を買い取る、ということです。100円であれば150円というように。

新型コロナ下、国内を舞台にまたもや超大型のM&Aが持ち上がった。NTTは29日、4兆2544億円を投じて、携帯電話事業を手がける上場子会社のNTTドコモにTOB(株式公開買付け)を実施すると発表した。コーポレート・ガバナンス(企業統治)上、問題点が指摘される親子上場の解消が眼目だが、国内企業へのTOBとして過去最大規模だ。ドコモ、1998年以来の上場に決別
NTTは現在66%強を保有するドコモ株式を追加取得し、完全子会社化を目指す。買付価格は1株3900円で40%あまりのプレミアムを加えた。買付期間は9月30日~11月16日。TOBが成立すれば、ドコモは1998年以来の上場から外れる。TOBとしては今年4月に成立した日立化成に対する昭和電工の案件がこれまでの最大だった。買付代金は8445億円(所有割合で約88%。完全子会社化による最終的な買収金額は約9600億円)に達したが、これをはるかに上回るのが今回のNTT案件だ。

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株式公開買い付けの目的には、大きく分けて二つあるでしょう。一つは他社の買収のために行う、もう一つは子会社の株式取得のために行う、です。


最近の事例では大戸屋へのTOBをコロワイドが仕掛けたものがありますね。相手の同意なしに公開買い付けを行うことも出来ます。これをいわゆる敵対的買収(TOB)というやつです。

コロワイドは大戸屋HDの株主をピンポイントで攻めた。そのために用意した「ごちそう」はプレミアム。TOB価格は開始直前の株価に46%も上乗せした1株3081円だった。このごちそうは確実に大戸屋HDの株主だけを射抜くものだった。

こちらは既存の大戸屋の株主に株式の買い取りに応じてもらうために46%もの上乗せを行いました。結果TOBは成立しました。ただ、TOBを達成したからコロワイドは安泰か!といえばそうではなさそうです。

コロワイドの業績は悪化しているからです。

コロワイド1

コロワイド2

コロワイド・・・こんな業績だけど大戸屋HDを子会社化してもつんでしょうか。営業CFマイナス、現金・現金同等物の残高も大幅減少、もちろん、この四半期は大幅赤字、極め付きは自己資本比率8.3%・・・・です。

また機会を改めて分析しますが、TOBの支払い分も発生するでしょうから、財務内容はさらに悪化するでしょう。債務超過寸前までいくのではないかと思います。

買収した大戸屋の資産を売却する、ということも視野に入れているかもしれません。つまり買収先の資産を担保に入れるというやり方です。

そんな馬鹿なーーーと言われそうですが、時に行われる手段だったと思います。この辺り、また調べていきたいです。

最近ではファミマのTOBもありましたね。

伊藤忠商事は、傘下のファミリーマートに対し株式の非公開化を目的にTOB(株式公開買い付け)を実施することを決めた。買収目的会社のリテールインベストメントカンパニー(東京都港区)を通じて全株式の取得を目指す。買付総額は最大5808億8100万円。伊藤忠は現在、間接保有分も含めてファミリーマート株の50.1%を所有している。ファミリーマートはTOBに賛同しており、TOB成立後に上場廃止となる見通し。

実はこちらのTOBではファミマの株のプレミアムが安いのではないか?という話が上がっています。

伊藤忠はファミリーマートを上場廃止にする意向。業界の厳しい競争を理由に挙げている。7月8日のファミマ株終値に31%上乗せした1株2300円を提示しているが、これは3月時点のファミマ株の水準に過ぎない。提示価格は特別委員会の財務アドバイザーの評価額をも下回る。適正とされた評価額はシナジー効果を除くベースで2472―3040円だった。伊藤忠が2018年にファミマ株を購入した際の支払額をも下回る提示だ。

さて、このプレミアムをいくら乗せるか問題。結構難しいです。30%は安いけど、40%はどう?ということでドコモのケースです。

買付価格は1株3900円で40%あまりのプレミアムを加えた。

とあります。

 今回はある種、NTTドコモの株主(携帯の契約者ではないです)から強制的に買い取ることになります。

このような行為は、「強制的」にやっているわけなので、ドコモの株主にメリットがなければ、ドコモの株主は異議申し立てをするでしょう。となると、ドコモの株主に「株を売っていただく」ために元の値段に上乗せした形で支払う必要があります。では、どのあたりが価格の適正ラインか?となるわけですが、ここが面白いところです。

 多くのせれば、それだけ出ていくお金が多くなりますので、安く買いたい、というのが買い手の本音です。ですが、プレミアム額を低くすると、ドコモの株主から集団訴訟をおこされかねません(実際そうした事例はあります)。そこで、ある程度良い塩梅に価格設定をして、かつ価格算定根拠も設けた上で価格を設定するわけです。これは1日、2日にで出来ることではなく相当、準備をしていないといけません。こちらの資料はNTTの出している公式のものです。こちらをみると、TOBを相当準備して(菅政権発足前から)いたことが分かります。


どうでしょうか?会計の世界はまさに網をかけるように企業の事象をみていくのが醍醐味です。

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『企業のすべての活動を網羅する。』

それが会計の醍醐味、ともいえるでしょう。最初は分からなくても徐々に分かってくるとワクワクしてきませんか?

なお、私は経済学、経営学の雑誌、本もよく読みます。学問に優劣なし。すべてをバランスよく勉強する。それが私のモットーです。

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