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財務報告とKPIの関係を考える

収益認識基準に関連する本をみることが多くなりました。収益認識基準とは、収益(売上)の認識に関する基準ですが、これは業種によっては相当程度影響のあります。

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IFRS、USGAAP適用企業はすでに適用済みですね。収益認識基準では業界間の収益認識のフレームワークのコンバージェンス(収斂)というべき基準です。収益を5つのステップで認識し、計上します。

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収益認識基準の5つのステップに違和感を感じる人はそれほど多くないかもしれませんが、商品販売に含まれる保守サービスを分解して認識する、など契約ごとに収益を認識しなければならず、会計処理手続きは複雑化することも予想されます。また個別の商品・サービスの契約締結時に、収益認識を意識して行うことも必要になってくるでしょう。

こうした収益認識の基準で収益の認識のタイミングが変わりますので、収益の計上額にも影響することになります。となると自社のKPI、Key Performance Indicator の見直し、というところにも踏み込んで考える企業もあるかもしれません(それほど影響ない、かもしれませんが)。

ここで気になるのが外部報告の数値のどれを経営者が重要視しているのか?という点です。ご存知の通り、会計上の利益≒キャッシュ、なので、利益を指標としない、という考え方もあるかもしれません。また財務報告はGAAP上でやむを得ず報告する義務が課せられている、と考え独自の指標を用いているかもしれません。

Graham et al.(2005)は401人への米国経営者への調査で外部への重要な報告指標について、利益51%、収益12%、営業CF12%、freeCF10%がとしての順位付けになっています。

ただ、当時とは経営環境が異なっていますので、15年たった今どのような指標で行われているかは気になるところです。

企業のIR戦略としてこれが当社のKPIである、と明言しないケースもあるでしょう。目標台数であったり、利益、売上など自社の経営管理で用いる様々なKPIはあり得ます。必ずしも外部報告の数値がベースになっていないこともありえます。

一方で、経営者が自社のKPIをPRしたい、というインセンティブ、動機づけが強い場合、IR資料の中に織り込まれています。例えば、武田薬品工業は2019年のシャイヤ―の統合にあたって、2019年度のKPIを公表しています。

当社は、 本日、当社の2019年度賞与および長期インセンティブプランにかかる業績評価指標(KPI)ならびにシャイアー社の統合完了に向けた特別統合プランについて、取締役会にて承認されましたのでお知らせします。本KPIは、CEO、他のタケダ・エグゼクティブ・チームや主要リーダーおよび従業員に対する報酬を、シャイアー社との統合の成功を含むビジネス上の優先事項にフォーカスした成功の重要な尺度に合わせたものです。本KPIのフレームワークは、シャイアー社買収完了後最初の6ヶ月間で行った株主の皆様との広範なディスカッションにおいて得られたフィードバックを反映しており、また、2019年度初頭に当社が公表したマネジメントガイダンスのフレームワークとも整合しています。当社の賞与および長期インセンティブプランに かかる本KPIは、本年7月31日の取締役会での承認に先立ち、マネジメント・チームならびに報酬委員会において慎重に検討されたものです。当社は、本KPIにより、全社を挙げてさらなる成長や収益性の向上、パイプラインの進展、支出管理、株主価値の創出に注力できるものと確信しています。当社の賞与プランは、タケダ・エグゼクティブ・チームに加え全世界で21,000名を超える従業員が対象となっており、タケダ・エグゼクティブ・チームならびに制度対象者は、患者さんに必要な治療薬をお届けし、株主の皆様にバリューをもたらすという共通のビジョンのもと、一丸となって邁進しています。また、 当社の 報酬委員会は、取締役会から、CEOおよび他のタケダ・エグゼクティブ・チームのメンバー に対する報酬の変動について、却下の判断を下す権限を付与されています。

指標には、企業会計上の収益とそれをベースに調整した営業利益、EPSなどが用いられています。

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武田薬品工業は、GAAP上の指標をそのままKPIに使うのではなく、調整した指標を使っています。さらに賞与プランもKPIと結びつく形になっていることも分かります。

何をKPIにして経営を行っているか、ということは投資情報を読み取る上でかなり重要な指標の一つ、です。

例えば、KPIとは直接的に表現していませんが、ネットフリックスも目標とする収益性について次のように明言しています。

2017年の年間GAAP営業利益率は7%、2018年は10%、2019年は13%でしたが、2020年通期では16%程度を目標にしています。

ただし、このKPIはIR指標だけでなく、投資家サイドでも独自のKPIを設けてみるべきでしょう。というのも企業のKPIは自社にとって有利な指標を使っている可能性もありますので、多角的な視点で見る場合、企業のIR資料に依拠しない指標も使いこなす必要があるでしょう。



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