学校の休校がもたらすもの(2)新型コロナのリスクをどう評価し、管理するのか?

リスクマネジメントにおいて、まず必要なのはリスク評価と管理になります。リスクを適切に評価し、その上で管理しなければ始まりません。

今回の新型コロナウィルスにおいては、初動における誤りがあった、つまりリスク評価と管理に誤りがあったかもしれません(そうだとは思っています)。とはいえ、現在、当事者として懸命に取り組んでくれている方々がいるので、ここで過去のことを詳細に振り返るのはやめておきます。

1. 新型コロナウィルスのリスクをどのように捉えるのか?

今回の学校の突然の休校における評価は分かれていると前回のnoteで指摘しました。その意見の相違は各所で見られます。これはそもそもリスクをどの程度のものと評価するのか?という事で分かれます。

代表的なツイートは以下のものでしょうか。二人とも専門家ではないので、その点をどう考えるかは置いておきます。

専門家でも分かれています。

一律休校「地域ごとが有効」 政府専門家会議の岡部氏
社会 神奈川新聞  2020年02月28日 21:31

 新型コロナウイルスを巡る政府専門家会議のメンバーで、川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長が28日、神奈川新聞社の取材に応じ、全国の学校に一律の休校を要請した政府の対応について「国民への負担が大きく、現時点では取るべきではないと思う」と話した。現時点では地域によって感染状況に差があることから、「地域ごとの対策が有効」との見解を示した。


Forbes JAPAN 浦島充佳 , OFFICIAL COLUMNIST 東京慈恵会医科大学教授

政治経済 2020/02/29 10:30 休校は本当に有効?新型コロナ対策を最新症例データから分析

最後に、ここまでデータを分析してきたなかで私が抱く意見を述べたい。日本政府による学校の休校要請は、ここまで論じてきた”social distancing”に当てはまるだろう。安倍首相は「何よりも、子どもたちの健康・安全を第一に考え、多くの子どもたちや教員が日常的に長時間集まることによる大規模な感染リスクにあらかじめ備える」と発言した。社会的な影響が大きいこともあり批判の声も多くあがるが、私はこの判断は英断だと考える。


2.なぜこうまで意見が分かれるのか?

政策に対する意見が分かれる理由をどのように考えればよいのでしょうか?

それは、『今回のリスクをどのように評価すべきか?』によって変わってきます。

リスク評価と管理は分けて考えなければなりません。意識しているかしていないかは置いておいて、

『評価はして、どうするかという行動を意思決定』という事になります。

今回の休校措置については、今後、新型コロナウィルスの発症者が増える可能性が高いということを予想しての処置です。

安倍総理が繰り返し発言している「この1~2週間が山場」の発言は、爆発的に新型コロナウィルスの発症者が増加することを恐れてのことです。安倍さんが言い出したこと、ではなく、

新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解
2020年2月24日 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

での発言から引用されたものでしょう。

 この専門家会議は、新型コロナウイルス感染症の対策について、医学的な見地から助言等を行うため、適宜、政府に助言をしてきました。
 我々は、現在、感染の完全な防御が極めて難しいウイルスと闘っています。このウイルスの特徴上、一人一人の感染を完全に防止することは不可能です。
 ただし、感染の拡大のスピードを抑制することは可能だと考えられます。そのためには、これから1-2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となります。仮に感染の拡大が急速に進むと、患者数の爆発的な増加、医療従事者への感染リスクの増大、医療提供体制の破綻が起こりかねず、社会・経済活動の混乱なども深刻化する恐れがあります。

ポイントは、

「感染を防止することは不可能」

「感染の拡大のスピードは抑制可能」

「感染が拡大すれば、医療提供体制の破綻につながる可能性もある」

というところです。

「新型コロナウィルス」による混乱がもたらすリスクは、社会制度を破綻させるリスクともいえますね。

もうすでに、「トイレットペーパー」「その他の紙類」「備蓄用品の買い占め」などその兆候がみられています。

仮に、今日静岡で新型コロナウィルスの発症者が100人出たと想定するとどうでしょう?おそらく大混乱に陥るのではないでしょうか?

これがインフルエンザ100人ならどうでしょうか?そうでもない、と思うかもしれません。

今のところ、対応方法が確立されていない、未知の部分が多い、ということはまさにその通りで、最大限、過大にリスクを評価して対応する、

ということは必ずしも間違えとはいえない可能性もあります。

また首相から強いメッセージが発せられたことで、より強い自粛ムードが高まる効果が合ったことは間違いないです。

2/26 多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等については、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請

2/27の 小中校に対する休校要請

2/29 首相による記者会見

のあと、多くのイベントが中止になりました。特に2/26の時点においては、予防対策をして実施と検討していたケースが多かったと思います。その発表の以前は、予防策を実施して開催が、中止、延期となったのは2/27と29に発せられたメッセージがもたらしたものといっていって良いでしょう。

新型コロナウィルスに対する予防対策の徹底ということが多くの国民に浸透したのは間違いないでしょう。

そうした行動を促すきっかけになった、という点では一定の評価(行動が遅かったですが・・)はできると思います。

3.休校対応がもたらす新しいリスク

ただし、今回の休校措置が、新型コロナウィルスの発症者を減らすために有効な政策かどうか、はもっと精査され、検討されるべきだったでしょう。

さらに、社会的混乱を起こしたことも問題でしょう。トイレットペーパーなどの買い占めが起こっているのも2/27の首相による休校要請以後です。全国の小中高に対する休校要請はコロナに対する予防行動だけでなく、多くの国民に対して与えた影響が大きいことが分かります。

さらに今回の休校措置が、私も含め家庭、学校関係者に大きな負担を強いていることは間違いありません。負担は、金銭的なものだけでなく人的な負担も含めて。

また別のリスクが発現する恐れもあります。留守番中の子どもが事故を起こすリスク、心理的な負担を強いる、などなど。

静岡市を含めた地方自治体では働いている親に対する対応がされているところもあります(私はその対象から外れています)。大体が、

・低学年に限定した対応

・児童クラブに通っている児童対象

などといったところでしょうか。

問題は、新型コロナでリスクにさらされている状況でも児童を預かることに、児童クラブも学校側も「もし発症者が出たら・・・」ということを考えずにはいれないということです。

さらに預ける親の心理的な負担も心配です。というのも、

こうした状況でも仕事を休めず預ける、ということに罪悪感を感じてしまう保護者が少なからずいるということです。

また、小学校の中・高学年のお子さんでも、もしくは中学校のお子さんであっても長い期間、子どもたちだけで長時間在宅させるということに罪悪感を感じる保護者もいるでしょう。

また児童クラブに通っていない(静岡市などは4年生以上の児童は預けられることは少ない)お子さんをお持ちの場合は、自宅で過ごすことになりそうです。

パート勤務などをしている方はどうするのでしょうか?収入減は避けられません(政府は保障するとはいってますが、実際に給付が行われるまでのタイムラグが発生することになります)。

小学校だけでなく中学校、高校にまで休校対応を求めたことによって、学力の低下のリスクもあります。大事な時期に勉強できない、ことが、もたらあす影響は計り知れません。

さらに、休校の分は個別の学習で補うという事になりますが、個別の家庭での差が生じることになりますので、学力格差が広がる可能性があります。

こうした様々なリスクについて十分に検討された上で行われた要請なのでしょうか?

既に国会の答弁でも明らかにされているように、今回の要請については、専門家の意見は聞かなかった、ということが言われています。

「緊急事態宣言」の法整備推進 安倍首相、休校「専門家に聞かず」―新型肺炎対策(https://www.jiji.com/jc/article?k=2020030200138&g=pol)

参院予算委員会は2日午前、安倍晋三首相らが出席して2020年度予算案に関する基本的質疑を行った。首相は新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するため、「緊急事態宣言」の実施を可能とする法整備を進める考えを表明。与野党に協力を要請した。全国の小中学校・高校などの一斉休校については「専門家の意見を伺ったものではない」と述べ、自身の政治決断を強調した。

え、専門家の意見聞かずに判断って?ということは誰でも疑問に思ってしまいます。

今のところ対応が上手いっているところとしては台湾があげられます。

台湾の特徴としては専門家がリスクを適切に判断、素早い政治対応、情報公開の徹底という3点セットで行っている点にあります。

台湾の対応が称賛されていますが、どこでそれが崩れるかは分からないことはあります。初期の対応としては韓国も評価されていましたが、今は感染が拡大してしまいました。

明日には、一気に感染者が増える可能性もある・・・これが新型コロナウィルスの恐ろしいところでしょう。

4.私たちができることは?

今、私たちが出来ることは、

あまり情報に対して過敏になり過ぎず、

一次情報に基づいて判断する、

ということが重要だと思います。

SNSをフォローしすぎるのも禁物でしょう。追いかければ追いかけれるほど、不安になる。こうしたツボにはまってしまうとしんどくなってしまうかもしれません。

毎日更新されている国内感染の状況もしっかりとウォッチしていくことが大事になってくるでしょう。こちらの東洋経済のまとめは厚生労働省の発表データをグラフィカルにまとめたもので、参考になります。

どの年齢層に発症者が多いのか、検査の結果、陽性となった人の割合等々、よく分かります。

今、一番よくないのは、エビデンスもないのに、じつは潜在的に新型コロナの発症者はたくさんいる(いるかどうかも分からない訳ですが)と思うことや、やたら目ったら恐れた行動をとる、ということでしょう。





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