システムと人の関係
最近、会計学におけるエンフォースメントという話を調べています。
1. エンフォースメントとは?
FEE(Accountancy Europeの前身組織)は、2002年に公表した” Discussion Paper on Enforcement of IFRS within EUROPE”の中でエンフォースメントを次のように定義づけています。
“Enforcement is a system to whenever possible prevent, and thereafter identify and correct, material errors or omissions in the application of IFRS in financial information and other regulatory statements issued to the public.”
『エンフォースメントは、財務情報とその他の公的に発行された法的なステートメントにおいてIFRSの適用の実質的な誤りまたは遺漏を防止し、時に、認識し、訂正するシステムである。』
そもそも国際基準(これは会計に限らず全てそうでしょう)は、法律上の承認プロセスを経て、国内基準として使えるようになります。これをエンドースメント(endorsement)といいます。もちろん、一部の基準をカーブアウト(除外)することも可能なわけですが、基本的にはそれはしません。それをすると、ピュア国際基準を適用した事にはならないからですね。
*この辺りも参照してくだされば。
エンドースメントされている基準が、エンフォースメントされているか(適切に適用されているか)をみるのが、このエンフォースメント手続きになります。
エンフォースメントはコスト&ベネフィットの観点からみて実施される必要がありますから、最適点を見つけながら実施することになります。エンフォースメントの目的は当然、基準に準拠しているかどうか、になります。ただし、会計基準に関して言えば、エンフォースメントは「高い品質の財務情報」であることを担保するためのプロセスといえます。
その事を踏まえて、FEE(2002)があげている、エンフォースメントの主要な要素をみていくと以下の様な項目があげられています。
・企業が財務情報を作成するための内部の状況、内部監査、監督者(監査委員会、監督委員会)による適時のレビュー
・企業内における適切な財務報告を作成するためのプロセス。
・外部監査ならびに外部のレビュー、適切な質を保証するための効果的なエンフォースメント団体
・エンフォースメントを支援する上場規則を伴う証券市場
・高い財務報告の質にコミットする支援者、助言者、投資家
・明確な倫理観をもち、適切な財務報告の発行を支援する投資家、アナリスト、格付け会社。
2. エンフォースメントと人の関係
こうしたエンフォースメントを取り巻く環境をみると、感じることは結局「人」が重要であるということですね。財務諸表を作成する人が「どんな基準に基づいて作成しているか」ということを理解しない限り、よい財務情報になりようがないですし、監査をしたり、それを評価をする人も同じです。マニュアル通りにやっていたらOKという訳ではなく、基準から提供される情報が有用なものであるかどうか、ということを意識することが出来るかどうか、にかかっていると思います。
完璧を求めることは出来ないでしょうが、こうした内部、外部のプレイヤーが関わることを通じて、基準が正しく適用されているかどうかのプロセス、内容をチェックする仕組みといえますね。
システムと人の関係は、時に主客逆転します。というのも、私たちは一つのシステムに従って生きています。それは私たちが生きるために最適な行動を取るためのものであるはずです。ですが、時にシステムが暴走し、人を支配し、傷つけてしまいます。だからこそ、時にシステムをチェックし、そこから零れ落ちるような人がいないかどうかをウォッチしなければなりませんし、セーフティーネットも必要になります。昨今、システム・デザインということも重視されるのもそのためでしょうね。
常々感じることは、そこで従事している「人」を無視してシステムは構築できないということです。もちろん、システムが要らない、ということではなく、構築されたシステムに対して、そこに従事する人を考えた設計ということが求められているでしょう。時に、システムが形骸化するのは、そのためだと思います。システムは複雑化していく傾向にあります。その中で、「人」に焦点を当てたシステムの考え方が今、求められている気がしています。
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