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IFRS17に基づく財務報告では、アクチュアリーと会計プロフェッショナルのコラボが重要となる

IFRS17保険契約の論文を書いていてのこぼれ話です。

感じることは、こうした複雑な基準に基づいて質の高い財務報告を行うためには、企業内部の財務・会計担当者、その結果をチェックする公認会計士だけでなく、外部の専門家を利用するのが不可欠になってきた、ということですね。

IFRS17においてはアクチュアリーですね。

こうしたサイトを見て分かるように数理計算を実際に行うのはアクチュアリーです。同基準の規定に沿った形で数理計算を行うために実務上の指針が整備されています。

IFRS17は原則基準ですから、細かな判断は自分たちで行わなければなりません。では、裁量が大きい基準なのか?といえばそうではありません。それぞれの『原則』の拘束性は強いものです。

たとえば、保険契約においては契約の集約レベルを決めなければなりません。

その際には、当初認識において不利な契約グループ、そうでない契約グループ、残りの契約グループに分ける必要があります。

集約にあたっては、年単位で決められ、1年以上期間の離れた契約のグループを作ることは出来ません。

契約ごとに細分化するのがIFRS17の特徴で、その原則は厳しいものがあり、どういった集約レベルを設定するかは容易ではありません。

さらにIFRS17で、細分化された集約レベルで見積もられた保険契約の負債は将来収益部分(契約上のサービスマージン)と履行キャッシュフローに分解され、履行キャッシュフローの変動は、契約上のサービスマージンで調整されます。

簡単にいえば、諸仮定の変化により当初前提としていた保険契約から得られる利得(収益)は変化する訳です。これは当然ありうることで、販売していた保険契約から得られる収益が当初見込んでいたようになるとは限りません。

有利と思えた契約が不利に転じることもあります。日本では逆ザヤが記憶に新しいでしょうか。

となるとここの部分についても毎期、履行キャッシュフローと契約上のサービスマージンの変更が必要になっていきます。

こうした見積りの変更においてもアクチュアリーの出番です。

このように概観してみると、IFRS17における会計処理の多くは保険数理によって計算しなければならない箇所が異常に多く、アクチュアリーなくして基準を成立させることはできないでしょう。

一方で、会計士の出番はないのか?といえばそうではありません。

社内の会計担当者の役割としては、アクチュアリーの数理計算上の出してきた数値を財務報告向けに修正しなければなりません。監査においても同様です。監査上の視点からその数値の妥当性を見なければなりません。

アクチュアリーは数理計算のプロフェショナルであって、会計については本来専門外です。

具体的にはどういった考え方の違いが生じると考えられるでしょうか?

たとえば、諸仮定の見積りにおいては、従来の規制ベースの見積りでは、「保険契約者の保護」が前提となっており、見積もりの諸仮定に一定の保守性が好まれるケースがあったかもしれません。

例えば、日本の保険業法においては、各諸仮定について一定の安全割増を加味して責任準備金を見積もることが定められていて、そうした計算方法に慣れているアクチュアリーにとっては企業会計の中立的な見積りの考え方には戸惑いを感じるかもしれません。

実務基準があるとはいえ、IFRS17の原則lに応じた計算がされているかどうかについてチェックするのも会計のプロフェショナルの役割でしょう。

もちろん、両方に精通している専門家がいればそれに越したことはありませんが、現実にはそうした人はほぼいないでしょう。

そう考えると、IFRS17においてアクチュアリーと会計のプロフェショナル(会計士)の両者がコラボレーションして行うことは多くなりそうです。

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