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好業績でも株価はダウントレンド:島忠買収による不確実性が嫌われた?ニトリの決算発表を読み解く


決算発表のシーズンです。

さて、そんなシーズンですが、2月期の決算ということで、少し前に発表されたこちら、ニトリホールディングス(以下、ニトリ)の決算をみていこうと思います。

決算発表においては、昨年度、目標としていた数値を達成できたのかを①全体の業績推移(収益、利益、資本(純資産)は要チェック!)に着目しつつ、②今年度以降の事業計画の実現可能性を検証し、決算発表後の③株価(市場)の反応をみて、市場がミスリーディングしているか否かを考えてみる、ということが大切。


ということで、この順でみていこうと思います。

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①全体の業績推移

ですが、とても好調です。コロナ禍で売上高11.6%、営業利益28.1%、当期純利益29.0%の前年同期比増!と驚異的な好決算だったと思います。

特に売上高の上昇よりも利益の上昇が上回っています。

特に収益性が向上していることが分かります。

一商品・サービス辺りの利幅が大きくなるということはアドバンテージが増えるといってもよいでしょう。というのも、その分だけ効率的に利益を得られる可能性が高まるからです。もちろん、その分、売り上げが落ちることが多いのですが(高付加価値経営においては売上は落ちる傾向にあります)、このケースでは売り上げも伸びています。

売上も伸びて、収益性も伸びるという最高の結果となっています。当然、売上高営業利益率も16.7%→19.2%と2.5%も増加しています。

ニトリは、自社の目標を明確に数値化して、かつその達成度を開示しています。

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連結と家具・インテリア販売事業の両方で目標の指標を掲げ、それがどの程度達成されたかを評価成績もつけています。

これは投資家にとっても有用な情報であるだけではなく、内部で働いている従業員にとっても定量的な数値で達成度が測れますので、有用な指標として機能しているのではないかと推察されます。

ともあれ、全体の成績としては19勝3敗と、総資本回転率、商品回転率、従業員1人当たりの売買面積の指標を除いて達成されています。これらの指標は効率性を図る指標です。

つまりニトリとしては効率性についてはまだ改善の余地があり、そこを改善の目標としていることがうかがえます。

この他にもOnline to Offline事業、つまりオンランンでの会員数を増やして、それをリアル店舗での売り上げに結び付ける施策についても2021年2月時点で908万人に達しています。通販事業についても、純売上高前期比159.3%を達成しており、オンラインも巧みに駆使しながら順調に売り上げを伸ばしていることも分かります。

②今年度以降の事業計画

今後はオンラインの強化に加えて、海外事業展開も加速させて、さらなる飛躍を狙っています。

そんなニトリですが、家具・ホームセンター島忠との経営統合を昨年度は実現させました。

この買収は、DCMホールディングが島忠を買収するために株式公開買付(市場にある株式を決められた価格で買い上げること)の準備をしていたのですが、DCMよりも高い買い付け価格を提示したニトリが買収を成功させました。

先ほどの連結キャッシュフローの状況では、投資活動によるキャッシュフロー△195,985百万円(1959億8千5百万円)と、前年度の△44,486百万円(444億8千6百万円)を上回る数値になっているのは、この買収の影響が出ています。

財務活動によるキャッシュフローをみても追加的な資金調達をしていることが分かりますので、この買収を成立させるために思い切った支出をしたことが分かります。

ニトリは決算発表において、島忠との経営統合による早期シナジー実現に向けて、住まいに関する包括的なサービスを提供し、様々なライフスタイルに対応した事業展開の実現に向けて動いてくことを表明しています。

この経営統合では、5年で2倍の利益計画を策定し、経常利益率12%!という意欲的な数値を掲げています。

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2022年2月の通期業績予想では、経営統合により売上高は増加するものの、営業利益、経常利益、当期純利益などは減少の予想をしています。経営統合を行ったとしても統合先にニトリ流のやり方を浸透させて、収益性を向上させるにはある程度の時間は要すると考えられますので、これは妥当な予想でしょう。

③株価(市場)の反応

そんな積極展開をみせるニトリについて市場はどのように評価しているでしょうか。実はあまり評価されていません。

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コロナ禍においても巣ごもり需要を上手く掴み、業績を伸ばし続けたニトリに対して市場は2002年高く評価していました。

2002年の3月から8月の5か月間で急激に株価が上昇していることが分かります。緊急事態宣言下で自粛を余儀なくされている中、ニトリは勝ち組企業として評価されていましたし、業績も順調に伸ばしていました。ところが島忠の買収を表明した11月ごろから株価は下落傾向に転じています。

島忠の買収に対して多額の支出を行ったということ、経営統合でシナジーを発揮できるかどうか、という二点を不安視していると推察されます。つまり、不確実性が高まっているとして、市場はニトリの行方を注視している状況です。

事業戦略を読み取る上で一番難しいのは、M&Aです。

というのも不確実性が高く、上手く行くか行かないか、外部の情報だけでは分からないからです。となると、分からないものに対して積極的に投資しない、という市場の心理が働いているとも言えます。

一方で、これは投資家にとってチャンスでもあります。経営統合による相乗(シナジー)効果を上手く発揮できれば、ニトリはさらに業績を伸ばすことが出来、株価はさらに上昇していくことが予想されます。

となると、今、ニトリを買っておこうという判断もアリだと言えます。もちろんリスクのあるものには手を出さないという判断もまた正解です。

とはいえ、業績が好調の中で、かつ積極的な事業展開の計画を示している中で、市場がディスカウントして評価するというニトリの事例は、市場の心理を考える上で良い材料ですね。

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