IFRS17、時価測定の複雑性
IFRS17保険契約の研究を進めているので、そこでのこぼれ話をこちらに書いておきます。
研究を進めていて感じることは、複雑である、という一点に尽きます。
というのも市場の価格がない保険契約の負債を見積もるためには多くの要素を考慮しながら測定を行う必要があります。
かつ単に見積もるだけ、であれば単純です。
つまり、保有している保険契約の経済価値の合計値を測定し、それを開示するということは時価による管理が一般化しつつある保険会社にとってそれほど難しいことではないでしょう。
日本生命を除く主要各社が開示しているEVもその一つです。
保有契約から生じる将来の税引後利益(法定の責任準備金積立を前提とし、一定水準の資本を維持する費用を控除した後の利益)の現在価値である保有契約価値」を合計したものがEVになります。
すででに保険契約の価値を見積もることについては多くの企業が行っています。自主的に開示しているものとは別に、実質的に経済価値ベースの規制はすでに試行的に取り入れられています。
金融庁では、平成30年6月から12月にかけて、全保険会社を対象とした「経済価値ベースの評価・監督手法の検討に関するフィールドテスト」を実施しています。
企業によってはEVだけでなく、経済価値ベースの健全性指標としてESR(Economic Solvency Ratio)を開示している企業もあります。
このように時価、経済価値ベースの評価は取り入れられており、IFRS17の適用はそれほど難しいことではない、と思えます。
しかし、そう単純ではありません。
財務諸表の中にこれらの情報を落とし込むためには、出来る限り細部の情報が求められます。保険契約の集約レベルをどこに設定するか、ということは非常に難しい問題です。
IFRS17では、なるべく最小の単位で契約を集約することが求められていますが、ことは簡単な作業ではありません。また集約レベルを細かくすればするほど開示の情報が細かくなってしまいます。
また収益や費用の認識のタイミングもあります。再測定部分をOCI(その他の包括利益)で行う部分もあるとしても、収益・費用をどのタイミングで認識・測定すべきかどうか。
保有する契約との兼ね合いで考えなければなりません。
ソルベンシー規制やEV、ESRとは異なり、財務諸表においてはこうした細部に関する情報、ならびにP/L、OCIに計上する情報を分類する作業が必要になります。
さらにその計算根拠も示し、開示する必要があります。
こうしたことが、財務諸表上の時価測定の難しさ、困難性、複雑性なのでしょう。
時価を内訳とか気にせずに出しておけばいいじゃん!では済まされないのが、企業会計における時価の測定だな、とつくづく感じます。
市場価格で測定できるもの以外は、こうした複雑性をどのように解きほぐしてながら認識、測定、表示、開示していき、理解可能性を高めていくのか。
これからの企業会計に求められている課題は重たいです。
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