事業モデルの変化と性質を読み解くカギは、セグメントとキャッシュ・フロー情報にあり(Appleの事例を通じて)
1.事業モデルの構造は標準化された指標では掴みにくい
仮説思考×事業モデルの企業分析において、第一段階において必要なのは、企業がどういった事業モデルでキャッシュを得ているのか、そのことを知ることです。
おおよその事業モデルのイメージがついてきたとしても、それをより具体的な形にして書き出していく必要があります。どのようにして把握していけばよいのでしょうか?
経営成績を測定する数値としては、損益計算書(P/L)に計上されている売上高(売上収益)、利益、費用の各項目があります。
財政状態を測定する数値としては、貸借対照表(B/S)に計上されている資産、負債、純資産の各項目があります。
そして財務諸表分析では、P/L、B/Sを組み合わせた各指標が存在し、その指標に基づいて企業の経営成績、財政状態の詳細を分析していきます。こうした分析指標は有用である一方で、事業モデルをディテール(詳細)を作り込んでイメージするためには一定の限界があります。
なぜならば、これらの指標は『標準化』されているから、です。
例えば、ROAによって、分母に資産をおくことで、企業間における規模の差を標準化しています。
その他の指標も同様であるように、これは企業間比較を行いやすくする指標であり、事業モデルを考えていく際には逆にイメージしにくくなることがありえます。
そのため、B/S,P/Lの各項目の構成要素などをみていき事業モデルの特質を掴んでいくということが重要になってきます。
大手町さんが行っている会計クイズは、各企業の事業モデルをイメージする上で極めて有用なやり方であると感じています。
私も大手町さんのファイナンスラボで勉強させていただいています。事業モデルを読み解いていくためにはB/S、P/Lの構造のパターンを頭にいれつつ、自分なりに整理していく訓練が必要です。
会計クイズがビジネス構造を読み解く上でいかに役立つか!という点は大手町さんに委ねたいと思います笑
嫌…本当に敵いませんよ笑 圧倒的なスピードと情報量!ですから。
2. 遠回りに見えてと近道なセグメントとキャッシュフロー情報の読み取り:Appleの事例を用いて
とはいえ、実際に事業モデル構造を読み解いていくために長い訓練が必要である、とすれば、ややハードルが高く感じられるかもしれません。
そこでおススメの方法は、まず、セグメントとキャッシュ・フローの情報をみてみることです。
セグメント情報からは、各国や各事業における収益構造を読み解くことが出来ます。
キャッシュ・フロー情報からは、営業活動から得られるキャッシュ生成能力、事業投資、資金調達の情報を読み解くことが出来ます。
この二つから、事業モデルの構造と変化を捉えることが可能になります。
例として、Apple(2020年9月期決算)をみてみましょう。
世界的に売れている!といわれるApple製品ですが、やはりアメリカの売り上げが一番大きいことが分かります。もちろん日本も大きいですが、6分の1程度ですね。
注目すべきは製品別の売上の数値です。iPhoneの占める割合が2018⇒2019⇒2020で、
164,888⇒142,381⇒137,781
と徐々に落ちています。
ですが、トータルの売上高は
265,595⇒260,174⇒274,515
となっています。2019年は不振であったものの、2020年には回復しています。
内訳をみてみると、Wearables, Home and Accessories、Servicies部門が2018⇒2020年でかなり伸びている約1.5倍になっていることが分かります。
つまり、iPhone一本足打法から抜け出しつつある、ということです。
ただし、これを高く評価するのは早計でしょう。
スマートウォッチでは一定の成果を上げつつあるとはいえ、配信系のサービスをどこまで伸ばすことが出来るか、疑問が残るからです。
映像系ではNetflix、音楽系ではSpotifyなどそれぞれの猛者がおり、Appleはディズニーのようにブランドのある独自コンテンツを持っているわけではありません。個人的にはサブスクではこれらの他社に対抗するのは難しいでしょう。となると思い切って買収するか!ということになりますが、これまでのAppleの経営戦略をみてみると積極的に大型M&Aを進めるとは考えにくいため、どうなるか。注目です。
車を作る!みたいな話もありますね。
いずれにしてもAppleは自社の収益源を複線化して、次の強みを見つけようとしていることが分かります。
そもそも、Appleはウルトラキャッシュリッチな企業として知られており、 『次の一手!』を打つためことが容易です。
キャッシュ・リッチな状況は、キャッシュ・フロー計算書から確認することが出来ます。
アップルのキャッシュフロー計算書(2020年9月期)をみると
営業活動CF 80,674
投資活動CF マイナス4,289
財務活動CF マイナス86,820
となっています。財務活動が大幅なマイナスで大丈夫?と思われがちですが、よく見てみると配当と自社株買いが8割以上を占めていることが分かります。つまり、キャッシュが余っているので積極的に株主還元を行っているという状況です。
投資活動CFが異常に少ないのも特徴的です。Appleのキャッシュフロー計算書は他の企業とは異なり、売買可能有価証券の売買もここで反映されていますので、よく見ないとミスリードな解釈をしそうになります。キャッシュ・フロー計算書だけでは掴めないところはB/Sで補完しましょう。
AppleのB/Sの特徴としてはMarketable securities100,887と総資産の3分の1を売買可能有価証券が占めていることにあります。
これは持ち合い株式、などではなく、現金が余っているので運用しているにすぎません。つまり、余ったお金が使い道を見いだせず、市場で有価証券を買って運用している、という状況です。
そして先に見た自社株買いの影響で資本は、
90,488⇒65,339
と減少しています。
自社株買いは資本のマイナスとして処理されるため、このような資本の減少が起きています。
思ったより難しい解説になってしまったかもしれませんが、Appleのセグメント情報から同社の売上の半分は本社を置くアメリカで稼いでいる事、徐々にiPhone一本足打法から抜け出そうとしていること、が読み取れます。
さらに、キャッシュ・フロー計算書から、Appleが積極投資を行うというよりは営業活動から得られるキャッシュに基づいて事業を行い、現段階において株主還元を積極的に行っている事、などが分かります。
Appleのこのキャッシュリッチな状況をみているともっと積極投資を行った方がよいように思いますが、意外に慎重な側面もあることが分かります。これは現在のCEOのティム・クックの方針によるところも大きそうです。Appleはなんだか日本的な企業だなぁ、と思ったりしますね。
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