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会計学は実務から発展してきた:会計学の定義をまず考えてみる(2)

*昨日は福岡で研究会でした。会計の定義をここでは改めて考えていきたいと思います。
前回、会計の定義が今ひとつ明確でないということを指摘しました。


1. 会計学は何を探求する学問か?

明確ではない、というのはどういうことか、というと、
『何を目的に探求する学問かが不明確』、言い換えれば、学問の目的に関する定義が様々にあり得るということです。比較の上で、経済学を対象にして考えてみましょう。

経済学→「経済システムを分析し、より効果的な経済政策を研究する学問」

「何をもって効果的」とするのか、については経済の学派(新古典派、マルクス経済学、行動経済学、ケインズ派の経済学)によって変わってきます。さらにマクロでみるか、ミクロでみるかによって変わってきます。ただ、経済学者が、分析対象が経済であること、効果的な経済政策を研究している点では異論はないでしょう。

一方で、会計学はどうでしょうか?

「企業などの会計に関する学問。簿記技術、固定資産・流動資産の評価並びに経営分析、原価計算、予算統制などを研究の対象とする。」

シンプルですが、これが全て網羅している定義とはいえそうにはないです。非営利とか入ってませんし。

「広く経済学の一分野として、会計という形式を通じて社会の動態的経済秩序を研究する科学 中略 企業会計はさらに企業の期間損益計算を研究する財務会計論と経営管理のための会計を研究する管理会計論に分かれる。伝統的に会計学は財務諸表論が主流であったが、最近会計の本質を情報システムと解する会計情報論の立場が台頭し、意思決定のための会計情報の研究を中心に従来の管理会計論の分野の発達が著しい。」

おおよそ網羅されている気はしますが、税務会計、監査、非営利などの分野は含まれていません。

「意思決定のための会計情報の研究を中心に従来の管理会計論の分野の発達が著しい。」のところは財務会計論においても同じでしょうね。

2.会計学は現実と向き合う学問 

会計は、実務上のツールとして発達してきました。簿記の誕生から学問が始まったとすれば、記録が会計の始まりです。なので、まずは「現実の実務をどうするか?」という観点が先行している学問です。会計システムが問題視されるのは粉飾会計(不正会計:例えば、エンロン事件)があったときや、先の金融危機のように会計の測定が金融危機の一要因になったのではないか、と疑われたとき、です。

会計情報論的立場(こうした言い方を会計研究者でする人は少なくなりましたが)で、意思決定有用性(情報が役立つかどうか)が研究のメジャーになっているものの、何らかの結果が示されたとしても、それが即座に基準設定に与える影響はないといえます(もちろん、基準設定者が行うリサーチペーパーでは実証分析による結果に基づいて検討が進められていますが)。つまり、会計学の有用性に関する研究によって、「〇〇が有用だと分かったから、それをすぐに取り入れよう」という議論は聞いたことはありません。

経済学者が示したインプリケーションが取り入れられるということは日本では少ないですが、海外ではエビデンスベースで政策を決めよう、という動きはあります。*日本でも動きありますね(そうとは思い難い政策決定をしているときが多々ありますが)。

会計の測定方法やシステムがおおきく変わるのは金融危機や不正会計が起こった時です。そうでない時に先行して「エビデンスベース」で大幅に変える、ということは歴史的にみてもなかったと思います(私の記憶が正しければ)。

つまり、会計はどこまで行っても、「現実と向き合いながら」が前提となる学問であって、経済学とは一線を画する学問である、と言えそうです。

つまり、特定の経済事象を読み解き、よりよい政策を提案することを目指してきた経済学とは明らかに出発点が異なる、といえるでしょう。社会そのものを研究対象にしている社会学も、そうした意味では経済学と似ているかもしれません。ただし、社会学は社会そのものを良くする、ということを経済学のように直接的に提示する学問ではないでしょう。

では、「会計学を学ぶ意義はどこにあるのか?」ということについて次回は考えてみたいと思います。

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