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会計実務の現場で活かせるインプットを提供する:これからの会計研究者に求められること

このところ、公認会計士の方々と勉強する機会を頂きまして、色々と思うところありましたので、書き記しておこうと思います。

これは会計士に限らず、会計実務担当者、つまり、財務諸表作成者として携わる方々も含んだ話です。

現代の企業会計においては、裁量の余地は確実に大きくなっています。ただ、その裁量の余地のほとんどは会計選択ではなく『どのように認識、測定するか』という価値測定そのものに対するものです、

価値測定においては、割引率の設定や、モデルの選択などで大きく値が変わります。金融商品のレベル2と3に該当するもの、資産除去債務、退職給付、資産の評価(減損含む)など、が含まれます。

こうした余地はない方がいい、とする考え方もあるかもしれません。それも一つの考え方かもしれません。『誰かが』やり方をすべて決めて、そのやり方に従い財務諸表を作成してもらう方が、実務の関係者も安心できますよね。そうして欲しい、という声もきっとあると思います。

それでも・・・いいはずなのですが、そうしないのはなぜでしょうか?

その理由は、形式的に決められた情報は利用価値がない、ということが分かっているからでしょう。

各企業が最適な会計選択を行う。

取得原価主義を中心とした会計観においてもそれは存在しました。ただし、結果的に、税法基準に依拠することが多かった日本基準においてはそのことに関して考える余地が少なかった、とも言えます。例えば、退職給与引当金の積み立てにおいては税法基準が強く影響したことが知られています。

現代の企業会計においても、税法基準も多少影響しているとはいえ、分離した会計観が確立されてきたというべきでしょう。確定決算主義の中で、企業会計と税法が分離したままでいいのか。そのこともまた別途考えなければならないことですね。

ともあれ、自社が、情報利用者、すなわちステークホルダーを意識して財務諸表を作成する時代が来たといえます。

ただ、測定モデルに依拠して資産、負債を見積もる際に、単一の値を見つけることは難しいといえます。となると、正しい答えよりは、正しそうな答え(値)を探ることに意義を見出すことになります。重要なのは測定における仮定であったり、用いたインプット情報を開示することになるでしょう。例えば、色々と物議を醸しだすことの多いソフトバンクグループですが、自社の見積もりに関する情報はかなり豊富に提供しています。このことは自社の考え方を投資家に伝える、という点では誠実な対応と言えるでしょう。

「真の答え」よりは自社が『正しいとする答え」を「どのような考え方」に基づいて導いたのか?そのプロセスが問われるようになってきています。もちろん、そのプロセスに結果として出されたも問われます。

提供された情報は情報利用者にとって有用なものでなければなりません。情報作成者が利用者に役に立つ情報を提供する『気持ち』が大事になってきます。

漫然と情報発信するのではなく、自社の情報をどのような形で伝えるのか。どのように分かってもらうようにするのか。その工夫が問われています。さらに、財務情報全体を整合的なものにする必要があります。

情報作成過程で、利益を調整したいから、といって、場当たり的な調整行動をとってしまう企業は、「そうしたメッセージ」を市場に提供することに他なりません。

今後の会計研究、特に財務会計研究で必要なのは、実務に携わる人たちに、適正な会計判断を行うためのインプットを行うことにあると考えています。

ハウツーを教えるわけではなく、会計の根源的なものを伝える。そして現場での判断に活かしてもらう。

そのことが出来ないと駄目なのではないか、と感じる日々です。

2021年4月から適用が始まる収益認識基準は、財務報告の考え方に少なからぬ影響を与えるでしょう。同基準では、これまで曖昧にされていた自社の収益認識形態を把握することが求められています。

企業が自社のビジネス形態をどのようなものであるのかを伝える工夫が問われていると考えると、企業の財務情報の作成能力が一層問われていくことになりそうです。

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