葵短歌 2016

2016年に詠んだ短歌たちです。初期の方が自由。


来年は隣にいない君がため蕾をちぎれば何か変わると 〈お題:桜〉

踊ろうか!壊れた舞台の片隅で、アナクロニズムなリズムに乗って。

6才でめだかを殺したことだって君ならきっと許してくれる

君からの連絡がない昼下がり中華ポテトは甘ったるいね

ぬるま湯のような愛情に溺れてる角砂糖さえも溶けない温度

「幸せ」と言ってたはずの君は今 誰かのものになろうとしてる

ねぇ先生、教えて、愛のはかりかた メジャー 天秤 落下の速度

夢の中わたしの名前を呼ぶ君が抱きしめているその子はだぁれ

やじろべえ ゆらりゆらりと 傾けど 落ちる落ちない 君と同じで

【横恋慕】辞書の活字はただ黒い 友よ私を裁きにかけろ

1日中ゆれているだけの中吊りの広告のように首を吊らせて

眼鏡ずらし新聞めくる祖母の手よ悲しいニュースはぼやけたままで

今日だけは血中濃度を下げるのだ路地裏の猫に馴染めるように

ベランダの隅でいけないことをしよう てるてるぼうずと肩を並べて

君だって他の奴らとおんなじだ首を絞めたらどうせ死んじゃう

スキ、キライ、ちぎり取られた花びらの分だけ私の飴玉あげる

飄々とした死んでいるような君 耳を噛んだら痛がるかしら

一輪のエクレールミカに込められた幼い僕は実を結ばずに

そういえば壊れかけてた換気扇 からから回る君の匂いが

からっぽの試験管から溢れ出す恋と悪魔とシアン化水素

水玉の君のスカートが揺れていて カルピスはたしか初恋の味

影だけが順調に伸びてフラジャイル 冬眠すれば大人の僕に

海開き拭いそこねた首筋の雫はボクを挑発してる

君がもう戻らないことは知ってても逆走するのエスカレーター

あのね、まま ゆうえんちにいる おうまさん いつまで回れば 楽になれるの

いつだってあなたが「帰る場所」と呼ぶホームベースは憎い白さだ

そうだよね。言葉じゃ信じられないね。ちょっと待ってね。小指あげるね。

恋人に淹れたことのないコーヒーを触れたことのない誰かに淹れる

どうしても思い出せない声がある リロード…リロード… あれ?今、何時?

風船をぱちんと割っていざ今宵 猫のステップでショーは始まる

葉脈を指でなぞってあみだくじ 当たりが出るまで春を待とうか

「本当にこんな男で良かったの?」聞くぐらいなら抱きしめないで

運命にやたらとこだわる君なんて来世は人にならなければいい

打ち上げた君への想い恋花火 儚く散った夏の夜の夢

唇がかすかに伝えるぬくもりは川面をなでる風のやさしさ

方程式 何度も何度も同じ解 まるであなたの返事のように 〈愛と数学の短歌コンテスト応募作〉

仮定です。 僕がx、君がy。 等号で繋ぐ証明をせよ。 〈愛と数学の短歌コンテスト応募作〉

どうしても君を嫌いにはなれないしケーキの上のいちごをあげる

幼き日 僕に優しくしてくれた うさぎに金魚に欠けた貝がら

失恋をした夜は庭に抜け出すのアロエをなめて「きっと治るよ」

君はすぐ嘘をつくけど大丈夫やさしいナイフじゃ血なんて出ない

ひらがなは やさしくみえる そうでしょう? "わたしはあなたをゆるさないから"

まっしろに君をふちどる色鉛筆 クレヨンだったらはみ出ちゃうんだ

別れたい?じゃあ仕方ない止めないよ どうして泣くの何が不満なの

パティシエを 目指してみるね 君のこと 生クリームで 包みたいから

雨音がぽろぽろ部屋にこぼれてる不確かな愛は君の旋律 〈お題:雨音と君の旋律〉

マニキュアが上手く塗れない夜でした明日の予定は塗りつぶせたのに 〈お題:夜〉

「もう行くね」君は紅茶を飲み干して置き去りの僕とカップと指輪

生きるからあなたも生きてねノラ猫さん明日の10時にまた公園で

浴槽の隅に残った入浴剤 私もそんな存在であった

シンデレラ ガラスの靴を脱ぎ捨ててこんな夜中に誰と踊るの

週末の終末に立って見下ろした線路の果てで手を振るのは誰?

手をとって空中散歩に連れ出して もう帰らないよアスファルトの街

いつもならパックのリプトン 本日は溢れんばかりのアールグレイを 〈お題:「紅茶」で夫婦または恋人の仲直り〉

そういえば紅茶の淹れ方知らないや僕にはやっぱり君が必要

「さっきから時計ばっかり見てるよね?」こっそり予約をしたレストラン 〈お題:「時計」で初めてのデート〉

絶対に成功させたい僕がいる3つ用意した目覚まし時計

フェルマーの最終定理を説く君の膝の上にて、あたしは眠る。 〈愛と数学の短歌コンテスト応募作〉

君を待ち季節は幾度も過ぎ去って今年も花がぽとりと落ちた

三日月を捕まえそこねた君になら捕まえられてもいい気がしたの 〈お題:「月」で恋〉

満月が欠けはじめたらベランダの下で両手を広げて待ってて

肺にまで想いが溢れてしまうからエラで呼吸をするしかなかった 〈お題:「魚」で片想い〉

ねぇ私あなたを想うと苦しいの陸に上がった魚みたいに

知っていた?君はイソギンチャクだって。私はクマノミ、近くにいたい。

酔っていた勢いでキスしたのならそのまま夢も醒めないでいて

1番に幸せになってほしいのに悲しむ顔が好きだなんてね

もしかして恋かな なんて言っている君の右手のファジーネーブル

ねぇ君の好きなものだけを集めたらもう一度ぼくに笑ってくれる?

16才、恋を知らないくせしてさ真っ赤なルージュをたしなんでいる

君からの歪んだ愛を詰め込んだタブレット錠はじわりと甘い

恋をしているからとても素直です 手を引かれたら川にも落ちる

靴下の左右の色を変えるのが最後に見せた強がりでした

夕顔が閉じきる頃の静けさは何故だか僕にひどく優しい

サンダルに滑り込む砂は痛いけど夏の恋なんてそういうものだ

薬局で作られたような偽りも君が可愛いと思うのならば

私たち なんて悲しい恋なのか 0.02の壁に阻まれ

炎熱の0時を迎える寝言にて「めい」と呼ばれた 世界が冷えた

愛なんてどうせ信じてないんでしょ それならいっそ、それならいっそ、

そういうの ほんとにほんとに君らしい 傷つけておいて撫でたり舐めたり

何故きみは想いを隠してしまえるの 泡立つだけのフラスコの青

今はまだ愛を知らずにいたいから片道切符に行き先はなく

少しだけ短くなったスカートが僕の初恋をひらりとかわす

星に手を合わせるだけの恋ばかり少しも許せるはずはなくって

雑音が群がる深夜のコンビニでヒロインは今日も銃を片手に

僕たちが小さい頃にせいくらべした木は去年切られたんだよ

バスを待つ予測変換にちらついたあなたの「好き」は誰のものなの

サンダルの紐がぷつりと切れていて わたしの夏は今年も死んだ

「もういいよ」ゆらりとアイスが溶けていく ほんとの気持ちは知りたくないの

波音と重なる君の「愛してる」 なぜか「さよなら」に聞こえた夕べ

だいじょうぶ今日も夕焼けはきれいだし明日には僕もきえてるんだし

12月 君からのキスが減ったのはきっと唇が乾いてるから

「また明日」あなたが愛する人なんて知りもしないで手を振ってるの

初恋の人が赤子を抱いていて ふるさと寒く心うつなり


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