雨のちブランチ

タイトルが最も難産でした。第三回笹井宏之賞の応募作です。


雨のちブランチ(50首)


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民衆にばれないように大股でよける九月の水の溜まり場

すなわちは幻でしょう焼き鯖の匂いが二日消えないような

くちづけのタイミングなんて知らないで賞味期限の近いかまぼこ

たっぷりと眠った朝に告げられるイーハトーヴの羊の祈り

もみの木よ燃やしてお前で暖をとるてっぺんにある星は残して

何が建つ空き地なのかを知らぬままぽつんと変わるあなたの名字

店先のクロワッサンを買いしめる女であろう強く生きよう

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