セーラー服が似合わない

25年間のあれやこれや。第一回笹井宏之賞応募作です。


セーラー服が似合わない(50首)


教室は制服手紙いとをかしパードゥン?だけで成り立つ世界

ハチ公は今でも待っているのにさ必ずそこで会おうだなんて

アディダスを試し履きしている私ほんとはガラスの靴が似合うよ

午後三時パンケーキ飾るブルーベリー毒にも愛にも似てる紫

遮断機が下りてるあいだにキスしよう渡るかどうかはそのあと決めよう

まっピンクのセーラー服があったなら脱がすのももっと楽なんだろう

親展の文字だけ赤い茶封筒すべてを曝した次の日の朝

雨の日はおうちデートと決まってて今は梅雨ですそういうことです

やさしい目やさしい仕草やさしい声  龍を背中に宿していても

その鼓動ビスケット砕く音みたい君も簡単に壊れちゃうのね

歩道橋おどるひるがえるペチコートとまるふりかえる明日も会える

天気予報太陽はいつもより赤いそれでも君は私を抱くの

薄闇で「やだ、恥ずかしい」と言ったとき少しだけ上がる君の口角

石鹸はとろとろとろりとろとろり抗えなさのごとく抱かれる

注射器でさされるように目をつむる君を受け入れるときはいつでも

ノラネコの写真を送ってくれるけど満たされるのは容量ばかり

受けとめてしまえば君は逃げていく夏のビル街にこぼれるミスト

この恋の薄さに気付けカラオケのメロンソーダとおんなじくらい

脱ぎにくいブーツを履いているときはそういう気分じゃないということ

ひとりでは行かないとこのカードでしょもっと上手に隠しなさいよ

くちづけを最初にしない男にはなんにもやらぬ水も煙草も

知っているどこをどうして欲しいのかするもしないも私の勝手

気にするないのちはどんどん消費しろ最後は私がころしてあげる

てらてらとひかるくつずれ痛いでしょほんのすこしだけ舐めていいかな

今日もほら空っぽの恋に気付くけど椎名林檎を聴いて生きてる

カラオケにたどりつく前の交差点いますぐここでキスしてほしい

坂道を下る私の目を見てて死を知っている口ぶりの目を

浴槽にゆっくり溜める40℃視線の意味は知らないままで

かたすぎる回転ベッドは超満員まわってようがまわってまいが

この下着お気に入りなの素敵でしょ  さて何人に褒められたでしょう

「またね」って「また」が来ないのは知っていた気持ちにそっとさよならをした

振られた日きいちごのジャムを作ってた嘘も涙もぜんぶ溶かした

最後だしお前のために言っとくがシャンプーボトルに水を入れるな

文学部出身なのに厳かな別れの言葉も見つからなくて

私たち知らずに終わっていくんだねお互いどんな字を書くのかも

夕方の再放送なら結ばれるだって何度も抱き合ったじゃない

メモ帳に愛を綴っているのです原稿用紙に清書するため

百均のマスキングテープ貼りつけてこんなもんかよ私らしさは

かくれんぼ見つけたあとはどうしよう鬼さんこちら手の鳴るほうへ

作っては奪われていく砂の城いったい何を守りたいのか

姉さんは正規の手順で嫁にいく信号さえも無視できぬ人

二十五になっても愛する人はなく火曜10時のドラマを観てる

あたたかいプールでゆらり息をする私、ぬるま湯につかる天使だ

コーギーをいっぱい並べて眺めたい気づけばみんなで寝ちゃっていたい

試し書きされた相合傘にいるタクミ・コウスケしあわせであれ

お昼には売り切れているメロンパン私たちだって満たされるべき

けしごむで色えんぴつは消せなくて君の思い出もそんな感じで

もういっかいやりなおしたいしたいしたいあんなこととかこんなこととか

十六で終わった恋を二十五の私は今日も捨てられぬまま

致命的セーラー服が似合わないあの日に還る術はもうない

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?