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"SASと糖尿病の関係"について呼吸器内科専門医が思うこと

現在上西内科では、生活習慣病としての糖尿病や睡眠時無呼吸症候群の方に多くご来院いただいております。
今回は、その関連についてまとめてみました。

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閉塞型無呼吸症候群(OSA)と糖尿病に関してのレビューになります。
海外のデータになりますが糖尿病とOSAについてまとめられていますので、箇条書きでまとめを列挙します。

・中年以上の男女での重症OSAの有病率は、男性で9~14%、女性で4~7%であるが、最新の診断技術を使用するとさらに有病率は増える可能性が高い。

・OSAによる間欠的な低酸素や睡眠の断片化は、代謝異常の誘因になると考えられている。具体的には糖尿病のないOSA患者とそのインスリン抵抗性には相関はあるとされる。特に睡眠の後半に多く出現するREM睡眠時間中のAHIがより関連するという報告もある。

・レム睡眠の障害はA1cの上昇に関与するがノンレム睡眠はあまり関与しない。CGMでの観察でもレム睡眠時のグルコースレベルは38%上昇あり。OSAが無い人のレム睡眠時は、むしろグルコースレベルは低下傾向あり。

・糖尿病とOSA自体の関連については、以前には否定的な論文があったが最近の研究論文では少なくとも重症のOSAは明らかに糖尿病の発症と相関があるというものが多い。

・OSA患者にとって2型糖尿病合併率は15~30%と高い。しかし、BMIなどで調整するとその合併率は減衰する。

・重症のOSAが未治療の場合、中等症以下のOSAもしくはOSAを持たない2型糖尿病患者に比べてHba1cは0.5~0.8%ほど高くなる。

・2型糖尿病患者に関してはOSAのスクリーニングをすることが推奨されるが、質問紙法では感度・特異度とも不十分であり高リスク群には在宅でのポリグラフィーが望ましい。

・2型糖尿病患者のOSAに対しCPAPを使用した場合、血糖コントロールは変化しない報告と0.4%程度改善するという報告が混在している。

・2型糖尿病及びOSAを合併している患者の減量に関しては、血糖コントロールの著名な改善及び無呼吸指数の改善を認める。薬物療法としてはGLP1作動薬を用いた治療によって減量に成功した場合、HbA1c及び無呼吸指数は改善を認める。ただし、減量手術の方が効果は高い。

【考察】
糖尿病そのものとOSA自体の治療の関連性に関しては議論がありますが、今回の論文を見るにあたり、少なくとも肥満患者への介入は重要と考えます。
幸い糖尿病患者であればGLP1作動薬は保険適応でありますし、糖尿病と睡眠時無呼吸症候群の両方の専門クリニックである当院としては、積極的に減量に介入していきたいと考えています。
また、糖尿病の合併症がそれなりに厳しい状況では、その進行抑制のために積極的にOSAのスクリーニング・介入も進めていきたいところです。

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続いては、糖尿病腎症とOSAとの関連を示した論文です。
他施設での観察研究で、214名の糖尿病腎症の方を調査しています。

睡眠検査後にアルブミンクレアチニン比(UACR)と、推算糸球体濾過量(eGFR)などを測定しています。
・重症OSAでは、UACRの増加を認めました。(920±1053 mg/g)(中等症195±232 mg/g)(軽症もしくはOSAなし119±186 mg/g)

・eGFRも同様に比較すると低下を認めました。(48±23 VS 59±21 VS 73±19)

・無呼吸低呼吸指数そのものがUACRとeGFRの独立した危険因子でした。

【考察】
やはりOSA自体は糖尿病の腎症を悪化させる可能性が高いと考えます。
あくまで観察研究なので重症OSAに対してCPAPでの介入をした場合にUACRとeGFRが改善するか、というのが今後の課題になってくると思われます。
少なくとも、当院としては高血圧の管理が困難な糖尿病腎症の方には積極的に無呼吸検査をお勧めしていく方針です。

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こちらはOSAと網膜症に関する論文です。
前向きの観察研究となっており、OSAのある網膜症合併の糖尿病患者とOSAのない網膜症患者を43ヶ月追跡してその進行の差を比較しています。
介入初期の段階で視力を脅かす網膜症(STDR)の有病率は36.1%で、OSAの有病率は63.9%でした。
STDRの有病率はOSAの合併群で高い傾向にありました。
中央値43ヶ月の経過観察後の比較でもOSA合併群で網膜症の進行が早い傾向にありました。またCPAPの使用にて網膜症の進行も抑えることになりましたが、STDRに関しては有意差はつかなかったようです。

【解説】
網膜症でもやはりOSAの合併は進行に関与するという報告でした。
そしてわずかですがCPAP使用にて網膜症の進行が抑えられている可能性も示されています。

【全体まとめ】
糖尿病、特に肥満合併の方のOSAに関しては、徐々にエビデンスが蓄積しつつある印象です。
様々な論文を読んでみると、肥満、内臓脂肪蓄積をメインターゲットとして診療していくことがやはり重要と感じました。
OSAの方ですとCPAPを漫然と継続になることも多いですが(実際減量しても離脱できない人が日本人ではかなり多い)、当院としては減量に関してもうまくアプローチを続けていきたいと改めて感じました。
二つの領域にまたがる論文は、掲載雑誌も呼吸器専門雑誌と糖尿病専門雑誌に分断されていることが多いです。なかなか呼吸器だけの検索では重要な論文を見落とす可能性があるなと感じました。

当院は、糖尿病内分泌の専門医である院長と呼吸器専門医である私が常に相談しながら診療のみならず論文を評価していくことで、幅広く診療に役立てていく方針です。
今後もnoteの投稿内容は、呼吸器の専門的内容だけでなく、他の疾患との関連など横断的な内容を絡めて継続予定です。

愛知県小牧市
糖尿病・甲状腺 上西内科
副院長 中畑征史
https://uenishi-naika.com/

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