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パーフェクトデイズを観に。

過去に映画館へ行ったのはいつだったか
ジブリは何度か観たと思う。
慢性の腰痛を持ってることもあって、
2時間程度座席に固定されるのが
ハードルになるという事情もある。

近くに座った客が声を立てて笑うので辟易したのが
一番最後だったような気もする。
没入したいので一人で行きたい。
反省会のように感想を絞り出したくもない。
総括はずっと先でも良い。
掴めない気持ち悪い時間を、鳩尾のあたりに
持ち続けたい。
解けない謎があると思ったら、
日常がいくらかキツくても簡単には投げ出せない。

パーフェクトデイズは居心地の良い映画だった。
他所の日常の空気、
気配に馴染み漂うようなものが好きで。
が、
久しぶりのスクリーンと真っ暗な座席を
中途半端な開始時間を5分ほど勘違いし
遅れて入った数年ぶりの入場は
青いライトが両端に灯る階段の縁と
背後の広告が動くスクリーン
異様に響く音声しか判別がつかなかった。

買ったばかりのカフェラテを片手に
行く手も見えない暗闇との勝ち目のない格闘に
こんなゲームは初めてだと
立ち止まったまま数秒呆れた。

青いライトに挟まれた段を、それこそ
そろりそろり。な感じで辿々しく上がる。
ライトも途切れる真の暗闇に辿り着く。
異空間が口を開けるかと思うほどの黒だった。
後に退けずに一歩進むと壁だった。
本当に、作り話でなく鼻が触った。
映画館で、自分が映画みたいな展開になっておる。

予約したのは確か
最後尾から二つほど前だった気がするが、
壁の近辺をまさぐると折りたたみの座席に触り
補助席かと思うくらい小さいそれに何とか座る。
画面が明るくなる時に目を凝らすと
左右端から端まで誰もいない。

ここでいいわ、と座席に埋まり込んで安堵する。
場の一員に紛れ込んだ一体感だろうか。

竹箒の音が響き、日常の音が複数混じる。
青い朝の始まりの眺めが流れ始める。

ただ見入ってたので詳細は忘れた。
その時、細々した事なんてどうでも良くて
ただ気に入ったのは
平山という公園のトイレ掃除を仕事にする
中年男性が
ただただ木漏れ日を撮るフィルムカメラの現像を
カメラ屋さん任せで自身で拘った現像だとかを
どうこうしようとしない事。
公園で見つけた苗木の豆盆栽を
やはりどうこう細工せずにシンプルに
真っ直ぐ育てて幸せそうな事。

周囲の人々の言動も、
自分なりに思う所はあっても
本人の選択に任せ執着しない感じがした。
枝を捻じ曲げたり、
格好良く加工したりしない人。

他の登場人物については
それぞれの手探りと映っただけで響かなかったが
主人公は彼らの選択も生活そのものも
それぞれの作り上げた作品として
あっさり受け止めてる気がした。

車で流す曲も
カセットに自分好みの順番で編集しないし
作品をそのまま大事に受け入れる。
最後のシーンはそんな共感の
純度の高い涙だったのかなと勝手に想像した。

自身も自分なりに思い悩みながら暮らしてる中で
あの気分の良さそうでもあり
寂しげでもある涙には、もらい泣きをした。

ドリンクホルダーが右側の肘掛けの先
すぐ手のそばにある事に、終わりがけに気づいた。
チビチビ啜りながらずっとずっと右手に持っていた。
それくらい真っ暗だった。

この数日後にも有休消化でジブリ観に行ったけど
左の一番後ろの席が
どの映画館でも定番になりつつあります。

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