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量子力学の哲学(森田邦久)【書評#167】

量子力学の解釈問題の入門書。

前からこの本の存在は知っていて、興味があった。しかし、物理学者からの評判はあまりよくなく、これまで読むのを躊躇していた。しかし、実際に自分で中身を読んで判断してみようと思い読んでみた。

この本では、一見、不可解な量子力学をどのように解釈すればうまくいくかをを説明しようとしている。しかし、正直、変えなければならないのは人間の直感の方で、量子力学の性質はそのまま受け入れるほうがいいのではと読んでいて感じた。私たちが直感としてもっている局所実在性を持った世界は幻想で、この世界は非局所実在性があるものとして受け入れた方がいい。

量子力学の解釈問題は以下の4つ課題に分けられる。

量子力学の哲学における四つの課題
1.測定前の物理量は確定した値をもつか(実在するか)
2.非局所相関はあるのか(空間的に遠く離れたものどうしが一瞬で影響を与え合うのか)
3.射影公理をどう扱うのか(状態の収縮をどう扱うのか)
4.粒子と波の二重性をどう考えるか

p.69

この課題は標準的な解釈では以下のように考えられている。

標準的な解釈(コペンハーゲン解釈)
1.測定前の物理量は存在しない、もしくは測定前の物理量について議論することは無意味である
2.非局所相関はある
3.射影公理を認める
4.粒子と波の二重性を認める
5.ある物理量がある測定値を得る確率は、「ボルンの規則」と呼ばれる規則によって計算される

p.69,71

この本では、標準的なコペンハーゲン解釈以外にもGRW理論、デコヒーレンス理論、軌跡解釈などが紹介されている。話としては面白いがそれぞれ課題があるらしい。

「コッヘン-スペッカーの定理」はあらゆる隠れた変数がありえないと言っているわけではない。かれらが証明したのは、
(KS1)量子力学的系における物理量は測定していない時でも明確な値をもっている
(KS2)もし量子力学的系における物理量が明確な値がをもっているならば、測定状況とは独立に明確な値をもっている
(KS3)量子力学は経験的に正しい(実験と整合的である)
の三つが同時に満たされることがないということである。
(…)
コッヘン-スペッカーの定理は、「量子力学はじつはまちがっていて(…)、物理量は状況から独立にいつでも測定前に明確な値をもちますよ(…)という理論も論理的にはありうるということも言っていることになる。だが、量子力学の経験的な成功はかつてないほどなので、ふつうは(まともな理論として扱われる限りにおいて)そのようなもの(KS3を否定するようなもの)はない。

pp.118-119

ベルの定理は
(B1)量子力学的系における物理量はいつでも明確な値をもっている
(B2)量子力学的系においては局所的な相関しかない
(B3)量子力学は経験的に正しい
の三つが同時に満たされることがないことを主張している。

p.120

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