心に沁みるサイエンス:人工飼育したオオカバマダラ蝶には大陸移動する習性を失う懸念が

確かちょうど今くらいの季節だったかと思うが、カナダにいた頃にやたらとこの蝶を目にしたことがある。メキシコで越冬するために集団で3,000 kmを越える大移動を行うことで有名なオオカバマダラ(monarch)という種だということを後で知り大いに感銘を受けた(参考: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9395/ )。味のある配色とそんな大胆な生態のせいかカナダの"国虫"とまで謳われている人気者だが、御多分に漏れず数を減らし絶滅を危惧されている(同: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/122700113/ )。

一方で、理科の教材として家庭や学校で飼育されることも多く、また結婚式や式典などで鳩の代わりに放たれることまであるらしい。そのために”ブリーダー"まで存在するのだが、そうやって人工飼育された個体は、長年にわたる”閉じた”交配の影響で遺伝的背景が変化し、どうやら"南”を目指す性質やそれに応じた産卵のリズムを失っていることが報告された。

実に哀しい事実だが、それにも増して恐ろしいのが、「個体群の維持のためによかれと思って」放たれるこうした人工飼育された蝶が、野生種と交配することにより"南へ行くことを忘れた遺伝子"が自然界に広まってしまう可能性があることだ。

人間の積極的介入で種の保全が成功している例もあるにはあるので、こういった活動を全く否定するものでもないが、「繁殖できる環境を壊さない」ことが最も効果的で本質的な対策であることをこの研究は我々に静かに突きつけている。

https://www.nature.com/articles/d41586-019-02644-y?fbclid=IwAR1i4Q8BHctXX2rkD5KFaEWlZrDzCMO0bTs68zzVao6Bu7_ua4U-VOdKjEM

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