大気微生物の世界

偏西風に乗ってタクラマカン砂漠やゴビ砂漠から、黄砂が日本に飛んでくるが、黄砂には微生物もくっついて飛んできていた。

大気中の細菌や真菌などの観測や分析をしてきた著者、牧輝弥氏の研究生活と成果を紹介したオリジナリティの高い本です。

私は菌類や地衣類など微少な生き物に関心を持っているので、空の微生物の世界に興味をそそられました、しかも上空を遥か彼方の大陸から飛んできている黄砂が、細菌や真菌をノアの箱船よろしく、日本にお連れしていた。その中には納豆菌もあって、石川県では空を飛んできた菌で作った『そらなっとう』が販売されている。これだけで魅力的な話です。

近年、特にコロナ禍で悪者扱いされてきた菌(コロナはウイルスですがまとめて除菌されますので)が、植物と共生している菌根菌や人間の免疫にも有用な働きをしている腸内細菌など、菌といえばバイ菌とか病原菌とか悪者扱いされていたのが、善玉として見直されています。特に私は地衣類ハンターになっているので、何でも除菌の世界には反対せずにいられないのです。

本に戻ると、著者のバイオエアロゾル研究への出会いやタクラマカン砂漠や空中の微生物を採集する工夫や苦労が語られます。また拠点としていた能登半島は日本海のアンテナとして、風向によって変わるバイオエアロゾルや、立山連峰で積雪の中に含まれる微生物を穴を掘ってサンプリングする話など、興味深い話ばかりです。

仕事柄興味をもっている、雲を作る氷晶核としての微生物は面白いです。よく、旱魃対策として、人工降雨の種としてヨウ化銀を撒きますが、冷たい雨の元になる砂などの鉱物が氷晶核として凍るのは-15度以下で、-5度程度で凍らせるのは細菌などの微生物という研究結果は、非常に面白いですね。

他にも、黄砂が太平洋のプランクトンの増殖に関係しているのではという研究や、中国、韓国、日本の国際協力によるバイオエアロゾル観測なども面白く読めました。

本の作り方としては、文系の読者も対象にしているので、理系の私からは冗長なところもありますが、オリジナリティが高い研究の紹介ですので、断然お勧めします。

雨もキノコも鼻クソも大気微生物の世界―気候・健康・発酵とバイオエアロゾル https://amzn.asia/d/72gSiac

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