家は生態系

家は生態系ーあなたは20万種の生き物と暮らしている(ロブ・ダン著、白揚社)読みました。
非常に面白くて、みんなに読んでほしいですね

副題が示すとおり、家の中には細菌、真菌、節足動物など多くの生き物が住み着いている。今まで当然調べられているだろうと思っていた身近な生き物や目に見えない生き物、生物学者は熱帯の密林とか森には出かけるが、実は家は調べていなかった。

最近は腸内細菌や菌根菌など、病原菌ではない共生している微生物の重要性がわかってきています。著者らは世界中の人に協力を求めて、家の中の埃やドア、シャワーヘッド、冷蔵庫などから綿棒で微生物を採集してもらい、遺伝子解析(PCR法です)して、知られていない細菌など家の中は微生物で溢れていることを示します。完全な除菌なんてできないんです。宇宙ステーションにも人の皮膚などから常在菌が落ちて、住み着いているそうです。
また温泉などに住む摂氏70度以上でしか生存できない細菌が、家の給湯器などに住み着いているのは驚きですね。どこから来た?

現在、アレルギーなど慢性疾患が増えたのは、細菌などに触れることがなくなったためという衛生仮説がありますが、この本も生物多様性仮説、つまり多くの種の微生物や動植物に触れることで、過剰な免疫を抑制する機構が働くという説を説いています。腸に健康な人の便を移植する治療もありますね。

コロナ禍の時が特にそうでしたが、病原菌を殺すための消毒はいいのですが、過剰な抗菌や殺虫剤が生き物たちにどういう影響を与えるのか?普通の病気を起こさない微生物が減る、つまり生物多様性が減ると、逆に病原菌が増えやすくなり、また容易に耐性菌に進化して、治療ができなくなることも現実になっています。実験では細菌はわずか数日(11時間だったか?)で進化して薬剤耐性になった。

この本は家の中の節足動物も調査しています。蜘蛛やゴキブリ、バッタのようなカマドウマ(元は洞窟に住んでいて、家では地下室などに住む)など、200から300の種が見つかります。
家の害虫でも、耐性菌と同じでゴキブリを毒を混ぜたグルコースで駆除したら、何と脳のグルコースの甘みに反応するニューロンが、グルコースを苦いと感じるように、遺伝子が変化した個体が生き残って、毒を避けるようになった。

病原菌や害虫は人間の生活の場で、最も進化が早い。今のような薬剤で戦うのは、イタチごっこになり、スーパー耐性菌やスーパーゴキブリと戦う羽目になりかねません。それより菌など生物多様性を増やしたり、害虫の捕食者を増やす方に舵を切らないと、と強く思います。

では、手術の前に医者が手洗いする事で院内感染を減らした現代医学と菌との共生はどうバランスをとるのかと疑問がでます。手洗いはするべきなのか?
その答えもありました。通常の石鹸手洗いでは皮膚に住む安全な常在菌は取れなくて、皮膚についたばかりで定着していない菌は除去できる。
抗菌は最小限にして手洗いで十分なのです。

ペットについても詳しく調査しています。犬や猫に触れるとアレルギーが減るとかいう説もあり、生物多様性にも良さそうですが、たぶん猫好きなら知っているトキソプラズマ原虫(割と詳しく書かれています)や犬の寄生虫など、別の危険な側面もあり一概には断定できません。精神的な癒しもあり、うまく付き合うことが大事なんでしょうね。

著者の研究に対して、家のつまらない生き物を調べるのに何の意味があるのか?何の役に立つのかという失礼な物言いをする人がいるらしいのですが、生き物を人間の役に立つという見方で見るのは本来おかしいという、もっともな反論は置いておいて、一歩下がって、家の小さな虫の腸内から、植物のリグニンを分解できる細菌(細菌で知られているのが1万5千種、多くの培養できない種は天文学的。そのうち、6種しかリグニンを分解できる種は知られていない)を見つけだして、パルプ工場の廃液処理に使う研究をするなど有用さを証明してみせるのはすごいですね。

以上、長くなりましたが、とても大切なことが書かれています。

個人的には私は地衣類を1年前に知って、人間は身近な生き物でも、知識や関心がないと目に入らないことに愕然としました。この本では家の中に住む生き物を誰も調べていない、近くの生き物を調べずアマゾンに出かける生態学者の遠視眼と説明していますが、似た感覚で共感しました。

そうそう大事なこと忘れていました。水道です。塩素消毒しているから日本の水道水は安全でお腹を壊さないと、日本は自慢していますが、なんと、外国の例ですが、消毒しても酸に強い抗酸菌がいるんですよ。なので、水道の消毒もバランスが必要かもしれません。
他にも、紹介し切れない面白い話が書かれていますよ。

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