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左右非対称ビルドアップは救世主になれるのか

皆さんこんにちは。上原力也を信じろです。
リバプール対ブライトンで生じた仮説が先日のフラム対リバプールによって立証されたので、左右非対称ビルドアップが新時代を築く可能性について検討していきたいと思います。

【目次】
■ブライトン式非対称ビルドアップについてのおさらい
■フラム対リバプールの衝撃
■ゲーゲンプレス対策としての可能性
■まとめ

【ブライトン式非対称ビルドアップについてのおさらい】

以下前回記事「現代のオーバーロード戦術の最新系」より引用

ブライトンの方針はビルドアップにおけるオーバーロード戦術である。HVの選手がWBを押し上げて左右非対称の戦型にすることで、ジリジリとオーバーロード状態を作りアイソレーションを活かす。左右への揺さぶりとブロックのギャップ作成という一般的なビルドアップと異なり、一方を密に密にして十分な縦深を逆サイドに作り出すという斬新なものだ。

ゾーン1〜ゾーン2までの間で時間をかけて模様を良くし、準備が整えば一気に前進できる。ボールを保持し落ち着かせさえ出来れば作戦勝ちできるのでシステムとして非常に合理的で優秀だと私は評価する。

長所は再現性が高くゾーン3侵入が可能という点で、ブライトンとリバプールの引き分けというのも私としては十分納得出来る結果である。

一方短所はゾーン3侵入後の精度が必須であるという事とゴールキーパーを含めた最終ラインの能力の高さが必要であるという事。つまり、シティ程ではないにしろ、ある程度の個の質が求められるという点だ。

本戦術を考察する上で注視したい特徴は以下2点である。

・非対称であるから部分的にオーバーロード状態を作ることができる

・非対称にするのは、あくまでもアイソレーションの作成が目的である

この2つの特性が極めて重要で、後述するハイプレッシャー型ゲーゲンプレスの対策に効いてくるので頭に入れておいて貰いたい。

【フラム対リバプールの衝撃】

先日行われたプレミアリーグ第12節においてフラム対リバプールの試合内容は衝撃的なものであり、非対称ビルドアップの可能性を大いに広げたものとなった。
ハイプレッシャー型とパスカット型を併用したゲーゲンプレスを行うリバプールに対しての非対称ビルドアップの有用性はブライトンが既に示していたのだが、それを他クラブが再現性をもって実施できるのか?という部分には疑問があった。そんな中、リーグ戦下位に位置するフラムが本戦術を実施し、リバプールのハイプレスを空転させ、狙いであるアイソレーションからのバックドアに何度も成功していたのは非常に興味深い実戦例となった。
まだ試合を見ていない方は是非ともブライトン対リバプールも併せて見て考えてみて欲しいと思う。

【ゲーゲンプレス対策としての可能性】

まずゲーゲンプレスの戦術としての主張をおさらいしよう。

・奪われた後、相手がポジティブトランジションになる瞬間にプレッシャーをかけ、ボールの即時奪回をして相手のネガティブトランジションが間に合う前にショートカウンターを狙う

・奪えなくとも相手のカウンター攻撃を遅らせ、狭いエリアに誘導し、人数をかけ囲いこんで奪取を狙う

攻勢時のポジショニングから綿密に準備された、「カウンターに対するカウンター」という側面のあるゲーゲンプレスは、ハイプレスとの融合によりビルドアップそのものを阻止することもできる戦術となっている。相手が縦に速い短手数の攻撃を仕掛けてこないならばハイプレスを、短手数で仕掛けてくるならばゲーゲンプレスを、というのが近年流行の守備方針である。
これらが実施でき、アスリート色の強い選手が揃うクラブが軒並み結果を出した為、ある種の定跡形として多くのクラブで採用される事になった。

特筆すべき強みは、バランス良く人を配置した3142型ポゼッションとの相性の良さである。幅を使い前線に人数をかけ、奪われてもその瞬間にゲーゲンプレスを仕掛けられるようになっている。ハーフコートゲームで相手を圧倒する事ができる為、多くの中位〜下位クラブが半ばサンドバッグ状態となってしまっていた。

従来はこれらの対策が短手数で無理に仕掛けないこと、となっており、かといってバランスをとってボールを保持しようものならハイプレスでパスコースが誘導されて奪われてしまうため、低い陣形で守り、数少ないチャンスをものにする事が求められていた。


こうした苦しい状況も非対称ビルドアップを採用することで覆すことが出来るのだ。

・非対称ビルドアップの概要
①ボールを奪取できた時、無理に短手数で仕掛けず保持をする。(最初のゲーゲンプレスを躱しハイプレスに移行させる。)
②相手のハイプレスに対して注文通りのコースにボールを回す。
③最終ラインをスライドさせボールサイドが部分的にオーバーロード状態になる状況をつくる(3バックならHVがWBを押し上げ、4バックならスライドして3バック化)。
→この状況に対して相手がゲーゲンプレスをした場合

・逆サイドのアイソレーションを活用しサイドチェンジ、一気にゾーン3への侵入を図る。
・ゲーゲンプレスで奪われた場合オーバーロード状態を活かしてゲーゲンプレスを仕掛ける。
→相手がゲーゲンプレスをしないでバランス良く守ろうとした場合

・部分的に数的優位が出来ている事を活かし、そのまま縦への突破を図る。

これをタレント力で圧倒的に差があるブライトンやフラムがリバプールに対して実施し、ボールを保持できた時はゾーン3侵入を繰り返し行うことが出来ていた。
非対称ビルドアップは、ハイプレスを空転させ、ゲーゲンプレスを誘いアイソレーションを活かし、奪われたとしても部分的な数的優位、数的同数を活かしてゲーゲンプレスを行い、ゲーゲンプレス最大の主張であるショートカウンターを頓挫させることが可能と私は評価する。

まとめ】

非対称ビルドアップ、いかがでしたでしょうか。非対称の戦型そのものは以前からあったとは思いますが、ゲーゲンプレス対策として活用されて結果に結びつき始めたのは私が知る限りでは今季初じゃないかなと思います。
着想自体はボール保持者を中心に考えた狭いエリアで、トランジションで優位に立ち数的優位を作ろうとする相手に対して、ならばせめて数的同数に、可能ならば数的優位に……といった部分からでしょうし、工夫に工夫を積み重ねた末できたものかとおもいます。

フラムやブライトンとの引き分けは、怪我人が多いリバプールの不調というのも一因であると思いますが、信じろとしてはハイプレッシャー型ゲーゲンプレスの"一強時代"の終焉が近いのでは無いかと、有力な戦術に変わりはないとは思いますが、今まで程万能なものではなくなったのでは無いかなと、そう思わずには居られませんでした。

まだまだ実戦例が足らないのでハイプレッシャー型ゲーゲンプレスを終わらす画期的な対策が出たぞ!とまでは言えません。「非対称ビルドアップは有力である」といった評価が適切かなと思います。前記事でも言いましたが、ブライトン式はこれから流行すると私は思っていますので、皆さんにも注目し、考察して頂けたらなと思います。

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