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[番外編]紫川で発見! 地球を釣る仕掛け

地球を釣った。それは、釣りをしていて、岩や海底に釣り針を引っ掛けてしまったときの定型句である。いわゆる根掛かりを、「あれれー、地球が釣れちゃったぁ!」と言ってごまかすのである。ごまかせないが

(番外編は短い内容で構成しています)

護岸にあるとある金具

それはそうと、シン・ウエッダー博士のトンデモ理論を反証するために紫川沿いを歩いていると、護岸に点々と植え付けられている「とある金具」が増えていることに気づいた。

20200512_紫川の謎_金具_16WLL

これが問題の金具だ。下の写真は本稿のトップに使ったものと同じだが、このようなボルトが護岸に点々と打ち込まれている。数は分からないが、錆びているものもあれば、上のように新しい感じのものもある。

20200512_紫川の謎_金具_1

正体は調べてみればすぐに分かる。これはアイボルトと呼ばれるもの。頭の部分が輪っかになっていて、埋まっている部分を含めた全体像は記号の「♀」のような形をしている。二つ上の写真に刻印されている「16」は型番、「WLL/0.45T」は使用荷重。WLLは「Working Load Limit」(=使用荷重)を指し、特定条件でのリミットが0.45トン(450キロ)であることを意味している。

※型番はそのままネジの長さを指すらしいが、説明がややこしくなるので省略する。もし興味があればメーカーのカタログなどで確認を。アイボルト全体の構造も分かる。ここ(静香産業)とか、ここ(コンドーテック)とか。

20200512_紫川の謎_金具_タグ付き

中にはタグが付いたままのものもあり、いくつもあるメーカーのうち、紫川護岸ではどうやら大洋製器工業製のアイボルトが多いようだ。

これは何に使うのだろうか。まさか、このボルトに紐をくくりつけ、地球を外から引っ張り上げるなどという訳の分からない用途で用意しているわけではなかろう。

20200512_紫川の謎_google検索

一応、その可能性も考えて「紫川 地球 引っ張る」などというどうしようもない検索ワードでネットを調べてみても、Google様はいきなり「含まれない:紫川」と、肝心のキーワードを除外しなさる。(深い別府湾ってちょっと気になるけど)

もやもやしていると、ちょうどシン・ウエッダー博士からこの前の記事に関する苦情のLINEが来たので、「こんなものを見つけたのだが、何に使うのか」と冗談半分で返信してみると、

「『地球を釣るために火星人が用意した』っていう返信を期待しているんでしょ?

見透かしたような返事が1分とたたないうちに戻ってきた。さすがに「地球を釣る」という仮説は博士にとってもトンデモすぎるか…。

筆者がしょぼくれていると、しばらくしてから博士は宇宙人のスタンプをよこして、さらに独自の理論を打ち立てた。

「これは、宇宙船を係留するために設置しているボルトですよ。本来は着陸したあと陸上にそのまま置いておくべきですが、最近の宇宙船は川や湖の上でも保存できるようになりました。昼間は使っていませんが夜になると宇宙船を着水させて、火星人たちが地球人の調査を行っています」

【トンデモ】宇宙船を係留するため?

そうそう、そういうトンデモ理論を待っていたのだ。相変わらずウエッダー博士の理論は矛盾していておもしろい。小倉台地の回では火星人は海水に弱いと言っていたのに、もしそうなら汽水域(海水と淡水が混じり合う区域)の広い紫川に着水するわけがないだろうに。それに、宇宙船が450キロの荷重制限があるボルトで係留できるはずもない。

……。

…。

待てよ。係留? もしかして、重たい船でなくとも、たとえば艀(はしけ)やフロート(浮きのこと)を引っ掛けるために設置している可能性はあるのではないか。450キロという制限を考えると、フロートくらいは十分に引っ掛けておけるはずだ。

20200512_紫川の謎_金具_網場

確かめるべく、翌朝、フロート(浮き)を常時設置している北九州市立水環境館のそばに行ってみた。水環境館には地下に巨大な河川観察窓があり、ちょうどその外側に窓を保護するように網場(あば,浮きにネットを付けて流木などの動きを制限する仕掛け)を張っている。

20200512_紫川の謎_金具_ボルト

そして、発見した。活躍中のアイボルトを。こうやって網やフロートを固定しているのだ。決して地球を釣るためでも、宇宙船を係留するためでもない!

新しいボルトが多い理由は航空写真から推察できた。

紫川では浚渫(しゅんせつ)工事をたびたび行っていて、次に示す地理院地図やGoogleマップの写真からも分かる通り、仮設のフェンスがあちこちに設置されている。

20200512_紫川の謎_航空地図

20200512_紫川の謎_航空地図_Google

地理院地図はリバーウォーク北九州と小倉井筒屋の間あたりで浚渫していた時期を、Googleマップは鉄の橋(紫川橋)と風の橋(中島橋)の付近で作業している時期を写している。船の周囲や写真の上の方向へかなり広範囲にフロート(浮き)が連なっているのも分かるだろう。工事の安全確保や汚濁防止などの点で網やフェンスを設置していると思われる。

(浚渫時に用いるものはシルトフェンスと思われる。シルトとは細かな泥のことで、川底の泥が浮き上がるような工事にはフェンスが必要だ。前田工繊社のサイトに詳しい

要は紫川で工事が行われるたびに必要となるボルトが増設され、今やたくさんのアイボルトが護岸に残っているというわけだ。ウエッダー博士の「係留」がヒントになったとはいえ、人類の英知だけで疑問は解決した。

なお、普段はあまり使われていないので、ボルトは「映える」写真を撮るための小道具にしてみるのも良さそう。

20200512_紫川の謎_フォトジェニック_1

20200512_紫川の謎_フォトジェニック_2

こうやってアイボルト越しに小倉城を眺めるのもいい。……。おっと、また博士からLINEだ。

「火星人たちは、こうやってマーズタグラムにマーズ映えする写真を撮っ…

(了)

水環境館の開館状況については公式サイトをご覧ください。

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