ウエダシンペイ

東京のバンドGroup2でベースを弾いたり曲を作ったりしています。普段は都内の美術館で…

ウエダシンペイ

東京のバンドGroup2でベースを弾いたり曲を作ったりしています。普段は都内の美術館で展示技術者として働いてます。 猫2匹と人1人と暮らしてます。 詩を書いています。

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最近の記事

【詩】瞼

広がって繋がって 広がるのをやめようと願えば止まり ある一隅は それが初めからそこにあったかのように佇んでいて 油断をすれば他と結合し また離散する おれは昨日間違ってなかっただろうか おれは明日間違わないだろうか 目を閉じて 念ずれば浮かびあがる像を見ている 光を閉ざした瞼の裏側を見ている 先週の仕事の疲れが抜けない 春の前のざわめき 台風のような 月曜日のような 長いトンネルのような 痛みを伴う寒さの 早朝の 新宿駅の 高熱の 胃腸炎の 輝き…粘膜… ここで行き詰

    • 【詩】健忘症

      東京の動脈 そこから逃れることができない生活 無防備な曲線を眼差すわたし自身に気づき こんな思い二度となりたくないと思う 昨日の、あるいは今日の自涜 年老いたコンビニ店員の こぼれていく声が私を安心させた 人には忘れる力があるのだと 帰り道に見えたベランダの洗濯物をぼーっと見ていると どこかの家の風呂場からシャンプーの匂いが鼻腔を刺した すると私の脇をパトカーが走り去った

      • 【詩】それは

        それはインターネットの出来事 それは政治家という恥知らずたちの悪戯 それは複製された声や肌 それは任意の信号の配列あるいはインクのしみ それはハッシュタグ殺すな それはサボってしまう掃除や洗濯 それは居酒屋の酒に消えていく給与 それはAIによって生成された写真のような画像 それは流れる血 それは友人の結婚の報告 それは洗ったままキッチンに放置した空の瓶 それは突然現れた4m高の壁 それは昔読んだホラー漫画 それは隣の妻の寝息 それは上下運動 それは「私は詩を書かなければなら

        • 【詩】家路

          疲れ果てて駅につくと バスに乗ろうと思う 風が顔にあたると歩ける気がして (なぜか とぼとぼという音が相応しいような歩き方で 坂を登り 振り返ると 今朝は藍色が橙色に溶けた暁の空が 今や遠くのビルの (それはどこに在るのか) 放つ光の点群を 底なしの闇に浮かべるだけで それにカメラを向けようとして 後ろを歩く女の視線が気になった 妻は夕飯の支度をしていた といってもすでに21時30分だ その後ろでコンロの青い火を見つめていると 何か大きな間違いを犯して 取り返しのつかないこ

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        • 19本
        • にっき
          33本
        • プレイリスト日記
          7本

        記事

          もういなくなった人たち

          人間はちょっとのことでは死なないと思っていたけれど 突然死んでしまうということもまたある (透明になったAが自分の亡骸を眺め 試合結果に納得のいかない格闘家よろしく 首を傾げている) 大地があのときみたいにまた大きく揺れて 日本海から大きな波が起ち 強い季節風もまたそっちの方から吹いてきて(それは私の体をつよく硬らせ) 市井の無垢な人々が殺され続けている現在の 私の喉の炎える反応と 無関心 さっき飲んだ酒 暗い部屋で明かりを放つ小さな窓が 顔面を照らすまでの距離に 無数の言

          もういなくなった人たち

          くじら山

          思ったよりも 美しかった 人の少ない平日の 失われても(失われたからこそ 鮮やかな 枯草に 落ちる Googleでは確認し得ない ランダムな 光、奥行き 遠くの整備士がこちらを見ていて この斜面 のぼっても良いのだろうか ひとっこひとりいない その塚に立ち 見渡せば 名前を知らない列車 ステレオで通り過ぎた 川面にぬらぬらと 光ってはみ出す 背中? 石だ ススキの茂み 蠢いたのは スズメの集団 高い空に轟く 飛行音 オスプレイだろう と 隣の老夫婦 まごつく太陽に 突然日

          同じ血

          22年前に死んだ祖父 日本酒好きの酒乱で 飲んで帰ると乱暴した そうせずにいられなかったのは 終戦後のシベリアで 体液と汚泥にまみれ 零下に痛みで閉ざされた腐りそうな手足で 一つまた一つと煉瓦を運び 兵器の艶やかな肌理の制度を呪いつづけて 故国へと帰れたからなのでしょうか 抑留体験記の中に記された 消したい記憶と残したい記憶の行間に 苛烈な爆薬と腐肉の匂いがする 生きていたら今年100歳のおじいちゃん おじいちゃん と呼んだ記憶 半島系の目を光らせた 初めて見る死んだ人

          水平移動

          国分寺から富士宮に向かう110kmの水平移動 鋼板の殻に守られたシートに尻を埋めて ペダルを踏む 1秒で変化する地球上の位置 運転に集中するぼくは そのことに驚いている 文京区大塚のスポーツセンター 午後の日が水面を差し プールの底を眺めて 宙に浮いたカラダ 息を止めたぼくは そのことに驚いている あの日やあの日のことを思いながら これらをスマホに入力する 通勤電車 点滅する縦の棒の ここから字が生起しますよという デジタル表現 そこからポツポツと字が現れ 今打った字と

          見知らぬ土地にて

          戻らなくなった2023年10月27日の 見知らぬ土地の見知らぬ生活を覗き 明日の仕事と今日やるべきこと 帰って夕飯の支度 左上の時間表示に右上のバッテリー残量に 迷うことも遅れることもできなくなった 公園を占拠した父母の愛 その叫び 走り出す背中たちが手足を伸ばせる限り伸ばし それでも持て余す広大な芝に 顔をうずめ 土とか草の匂いを嗅いでしまうほどに 遠いところ 雨雲が押し寄せほんの少し頭痛 母親の実家の匂いの畦道に出くわし 排他的な街灯が輪郭を露わす頃 かなこに二度と会

          見知らぬ土地にて

          三人組

          濁った春が地下の川を流れる不潔な通りで 最も純粋な三人組 その薄暗い放課後の日 「雨が降らない曇り空が好きだ」とKが言い放ち 変わったヤツだなとわたしは思ったけど口には出さなかった 引き伸ばされた時間の中 各々の眼差しはどこを向いていたのか そしてMが死んだ 物言わぬ体に跳ね返る言葉は 恥じらう余地を残さず 剥き出されたKを惨めに思う 無為の歳月で社会的にも空間的にも拡張されたKと 本能を信じるふりをして小径を巡った わたしたちは放課後の答え合わせで

          exercice de poetry

          全ての言葉が詩ではないのに 熱くなっていくスマホの上で 高速に明滅している「雨嫌だな」という文字が 驚愕に満ちている 全ての詩が言葉ではないのに ある配列が語りかけてきて 霊を浮かび上がらせる 「言葉にできない感情を音楽にしました」と 音楽家が言い それはあまりにフツウのことなので 私は遠慮がちに詩を書き始めた 全ての言葉が詩ではないのに 全ての詩が言葉ではないのに

          初秋

          今日も誰かの血を踏んで ぶつかり擦れ合う白い曲線の隙間 連続する似た名前の駅を通り過ぎる日もあれば過ぎない日もあり 今日は過ぎる方の日で 早さとは俸給のことだと考える 晩夏の雨が全てを洗い流した後の冷たい朝が 今朝までクローゼットの奥にいたカーディガンの縫い目をすり抜けて 乾いた私の肌に触れた あるいは 湿度を纏わなくなった光が遠くの山並みをはっきりと見せた 私は閉じ込められた残酷な奪い合いの最中で その軽快な空と憂鬱な秋の気配を 感じ取るべきなのだ

          日記20230913

          寝る支度をしてベッドに行くと、猫2匹と人1人が既にそこで寝ている。2匹の猫が長方形のベッドの角と角の対角上に各々の仕方で丸くなってそこにいて、その間を縫うように人が斜めに横たわっている。ちょうどパーセント記号が四角の中に収まっているようなかたちで。 私の入る余地をほとんど残していないベッドを見て、つい先日我が家に遊びに来た兄がベッドを見るなり、「小さくない?」と心配していたことを思い出した。 大きなマットレスを気安く買えるほどの貯金はないし、買えたとてそれを任意に配置できる

          通過する人

          目の前の大きな穴 私はその穴の周りに集まった人々のうちの1人で 集まった集団の中の勇敢な者から順に 穴の中へ降りていく。 穴の入り口は光と闇の鏡面のようになっていて 光の側にいる私は わずかな光をも通さないその闇の奥に 何が広がっているかを知る由もない。 一人また一人と穴へ降りていき すっかり闇に飲まれていったその姿たちを 私は二度と見ることはないだろう。 そうして闇へ消えていった者たちの残像が 絶頂さえも拒絶して呆然と立ち続ける私を 嘲笑っているようだ 窓の外から聞こ

          日記20230816

          なんの予定もないが中央線に乗り吉祥寺に行った。 これまた何の気なしに入った古書防波堤という古本屋で、深沢七郎の『人間滅亡的人生案内』という文庫を取って立ち読みしていたら、「胃カイヨウでもいいから酒を飲みつづけたほうがいい (中略) おそらく酒が美味く飲めることと確信します」とあり、自分はまだまだだと思った。 先日、仕事中に頭を強めにぶつけた。たちまち頭部から血がダラダラと垂れてきて、あっという間に顔面半分が血まみれになった。 仕事を早退して病院へ行き、CT検査をした。CTの

          狭山

          鉛が水平に広がって固まってしまったような 静穏で粘液質の水面に 丸屋根の取水塔の背に浮かぶ 肥大した太陽が沈んでゆく 水の下では少女たちが駆けていて 私達はその中間に位置する 窓辺から大気圏までつづく分厚い雨に覆われた 午に起きた私たちは 今日はどこにも行くことができないと思ったので この景色の中に存在する日の終わりを 予想だにしなかった 肌にいやらしく張り付き 偏在する異常な量の水蒸気が この幻想から現実に引き戻す