ウエダシンペイ

東京のバンドGroup2でベースを弾いたり曲を作ったりしています。普段は都内の美術館で…

ウエダシンペイ

東京のバンドGroup2でベースを弾いたり曲を作ったりしています。普段は都内の美術館で展示技術者として働いてます。 猫2匹と人1人と暮らしてます。 詩を書いています。

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最近の記事

【詩】猫を飼い始めてから

猫を飼い始めてから ハリボテの山 初めて見る大きな虫 橙色の動脈を断ち切れない生活の中で 断ち切ろうと苦しみながら 棒になった足で 登る坂道 その頂上で 町の後ろに広がる山並み 夏の間は全く見えないが 秋になればその輪郭をあらわすことだろう 闇雲に彷徨い何かを掴み取ろうと躍起になる 考えを止めることで達成される自衛もあるから たどり着いた無名の場所で 形式や賞賛がなくとも 立ったフリをして見栄をはってみる

    • 【詩】時間

      昨日と明日の間 であるところの今日 いま と言うとそれがいつのことなのかわからない 数時間後 の仕事も顧みず 酒を飲んだ お前が発したAというメッセージをBだと勘違いして受け取る 適切に迷い、選択する 眠りたい 起きたい 起きたその世界で 知らないことがあることを知ること わからないことのわからなさに思いを馳せて 信じること

      • 【詩】すべての寂しい人たちへ

        私の不調を世界の不調と同期させ まずは身だしなみから 新しいシャツに新しい靴 下着は良いものを 見えなかったら耳を使い 聞こえなかったら手を使う ついに何も感じられなくなり 肉や骨の答え合わせの都会で生活 解像度の日進月歩を恐れるな 熱を帯びていく手鏡を置き いま生まれたそのスピードで あるいは夜の散歩に出かけて 反復する建売 その境界に位置する人々に 祈り続けよ

        • 【詩】体験せよ

          首元にナイフを突きつけて現れた ある光 わたしはそれに救われました そしてわたしが今存在し、これを書くのです そう語る君は体験の外にいる あの絶望あの喪失が まるでこの世界とは別の約束事のように 宙を舞い その言葉は いったい誰のものなのだろうか 音も涙も 時間の上に転がる振動に過ぎないのだとしたら 体験の外側にいようとする自分に警戒しなければいけない 分別のない警報に叩き起こされても 次の瞬間に眠り 再び起きて食べて、クソをして労働へと出かける その間隙に現れる暴力

        【詩】猫を飼い始めてから

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        • 24本
        • にっき
          33本
        • プレイリスト日記
          7本

        記事

          【詩】肉から肉骨から骨

          詩が謎解きではない時 言葉が言葉自身である時 この仮の姿として皮膚や脳 この肉から肉、骨から骨 耐えられないと嘯きながら耐えらている 失敗する寒暖差 いっぱいの愛に出会い 新宿駅前の人だかり 赤い魂、頬を伝う 仮定された光学装置を向け 64ビットで記述された配列に落とす視線 黄昏れて断片化された注釈を叩く 全てを書き尽くそうとして書きこぼしてしまう 2024年5月17日 吉祥寺を通過

          【詩】肉から肉骨から骨

          【詩】瞼

          広がって繋がって 広がるのをやめようと願えば止まり ある一隅は それが初めからそこにあったかのように佇んでいて 油断をすれば他と結合し また離散する おれは昨日間違ってなかっただろうか おれは明日間違わないだろうか 目を閉じて 念ずれば浮かびあがる像を見ている 光を閉ざした瞼の裏側を見ている 先週の仕事の疲れが抜けない 春の前のざわめき 台風のような 月曜日のような 長いトンネルのような 痛みを伴う寒さの 早朝の 新宿駅の 高熱の 胃腸炎の 輝き…粘膜… ここで行き詰

          【詩】健忘症

          無防備な曲線を眼差すわたし こんな思い二度となりたくないと思う 昨日のあるいは今日の 年老いたコンビニ店員のこぼれていく声に 人には忘れる力があるのだと気付かされ 安心する帰り道 他人の家のベランダの物干しをぼーっと見ていると どこかの風呂場からのシャンプーの匂いが鼻腔を刺し、 私の脇をパトカーが走り去った

          【詩】それは

          それはインターネットの出来事 それは政治家という恥知らず それは複製された声や肌 それは任意の信号の配列あるいはインクのしみ それはハッシュタグ殺すな それはサボってしまう掃除や洗濯 それは居酒屋の酒に消えていく給与 それはAIによって生成された写真のような画像 それは流れる血 それは友人の結婚報告 それは洗ったままキッチンに放置した空の瓶 それは突然現れた4m高の壁 それは昔読んだホラー漫画 それは隣の妻の寝息 それは上下運動 それは「私は詩を書かなければならないだろうか」

          【詩】家路

          疲れ果てて駅につくと バスに乗ろうと思う 風が顔にあたると なぜか歩ける気がして とぼとぼという音が相応しいような歩き方で 坂を登り 振り返ると 今朝は藍色が橙色に溶けた暁の空が 今や遠くのビルの (それはどこに在るのか) 放つ光の点群を 底なしの闇に浮かべるだけで それにカメラを向けようとしたけど 後ろを歩く女の視線が気になってやめた 帰ると妻は夕飯の支度をしていた といってもすでに21時だ その後ろでコンロの青い火を見つめていると 何か大きな間違いを犯し 取り返しのつか

          【詩】もういなくなった人たち

          人間はちょっとのことでは死なないと思っていたけれど 突然死んでしまうということもまたある (透明になったAが自分の亡骸を眺め 試合結果に納得のいかない格闘家よろしく 首を傾げている) 大地があのときみたいにまた大きく揺れて 日本海から大きな波が起ち 強い季節風もまたそっちの方から吹いてきて(それは私の体をつよく硬らせ) 市井の無垢な人々が殺され続けている現在の 私の喉の炎える反応と 無関心 さっき飲んだ酒 暗い部屋で明かりを放つ小さな窓が 顔面を照らすまでの距離に 無数の言

          【詩】もういなくなった人たち

          くじら山

          思ったよりも 美しかった 人の少ない平日の 失われても(失われたからこそ 鮮やかな 枯草に 落ちる Googleでは確認し得ない ランダムな 光、奥行き 遠くの整備士がこちらを見ていて この斜面 のぼっても良いのだろうか ひとっこひとりいない その塚に立ち 見渡せば 名前を知らない列車 ステレオで通り過ぎた 川面にぬらぬらと 光ってはみ出す 背中? 石だ ススキの茂み 蠢いたのは スズメの集団 高い空に轟く 飛行音 オスプレイだろう と 隣の老夫婦 まごつく太陽に 突然日

          同じ血

          22年前に死んだ祖父 日本酒好きの酒乱で 飲んで帰ると乱暴した そうせずにいられなかったのは 終戦後のシベリアで 体液と汚泥にまみれ 零下に痛みで閉ざされた腐りそうな手足で 一つまた一つと煉瓦を運び 兵器の艶やかな肌理の制度を呪いつづけて 故国へと帰れたからなのでしょうか 抑留体験記の中に記された 消したい記憶と残したい記憶の行間に 苛烈な爆薬と腐肉の匂いがする 生きていたら今年100歳のおじいちゃん おじいちゃん と呼んだ記憶 半島系の目を光らせた 初めて見る死んだ人

          水平移動

          国分寺から富士宮に向かう110kmの水平移動 鋼板の殻に守られたシートに尻を埋めて ペダルを踏む 1秒で変化する地球上の位置 運転に集中するぼくは そのことに驚いている 文京区大塚のスポーツセンター 午後の日が水面を差し プールの底を眺めて 宙に浮いたカラダ 息を止めたぼくは そのことに驚いている あの日やあの日のことを思いながら これらをスマホに入力する 通勤電車 点滅する縦の棒の ここから字が生起しますよという デジタル表現 そこからポツポツと字が現れ 今打った字と

          見知らぬ土地にて

          戻らなくなった2023年10月27日の 見知らぬ土地の見知らぬ生活を覗き 明日の仕事と今日やるべきこと 帰って夕飯の支度 左上の時間表示に右上のバッテリー残量に 迷うことも遅れることもできなくなった 公園を占拠した父母の愛 その叫び 走り出す背中たちが手足を伸ばせる限り伸ばし それでも持て余す広大な芝に 顔をうずめ 土とか草の匂いを嗅いでしまうほどに 遠いところ 雨雲が押し寄せほんの少し頭痛 母親の実家の匂いの畦道に出くわし 排他的な街灯が輪郭を露わす頃 かなこに二度と会

          見知らぬ土地にて

          三人組

          濁った春が地下の川を流れる不潔な通りで 最も純粋な三人組 その薄暗い放課後の日 「雨が降らない曇り空が好きだ」とKが言い放ち 変わったヤツだなとわたしは思ったけど口には出さなかった 引き伸ばされた時間の中 各々の眼差しはどこを向いていたのか そしてMが死んだ 物言わぬ体に跳ね返る言葉は 恥じらう余地を残さず 剥き出されたKを惨めに思う 無為の歳月で社会的にも空間的にも拡張されたKと 本能を信じるふりをして小径を巡った わたしたちは放課後の答え合わせで

          exercice de poetry

          全ての言葉が詩ではないのに 熱くなっていくスマホの上で 高速に明滅している「雨嫌だな」という文字が 驚愕に満ちている 全ての詩が言葉ではないのに ある配列が語りかけてきて 霊を浮かび上がらせる 「言葉にできない感情を音楽にしました」と 音楽家が言い それはあまりにフツウのことなので 私は遠慮がちに詩を書き始めた 全ての言葉が詩ではないのに 全ての詩が言葉ではないのに