#伊藤詩織 さんの性被害裁判を巡って「 #令和電子瓦版 」の疑惑記事に非難殺到、木村陽子さんと主幹の #松田隆 記者に話を聞いた。
米TIME誌による「世界で最も影響力のある100人」の一人に選ばれた伊藤詩織さん。2015年に元TBS記者から性暴力を受けた、と告発してから目覚ましい活躍を遂げ、多くのキャリアを手に入れた。そんな彼女に「性被害者と名乗るなら、フェアに戦ってください」と声を上げた女性がいる。木村陽子(仮名)さんだ。
木村さんはフリージャーナリストである松田隆さんが主幹するインターネット・ニュースサイト『令和電子瓦版』にその疑惑を告発した。この記事は多くの反響を呼び、この記事を非難する人と擁護する人々でSNSは騒然となった。<詳しくは拙稿「令和瓦電子版を批判する人へ」をお読みください。>
今回、『令和電子瓦版』の問題提起にSNSで激しい非難、擁護の応酬があった。
その発火点はなんなのか、渦中のお二人に話を聞くことができた。
まず、「伊藤詩織さんはフェアじゃない」と声をあげた木村陽子さんの声をお届けする。
木村さんのTwitterはこちら
木村陽子さんに聞く
__木村さん、今日はお忙しいところ、ありがとうございます。告発の動機はなんでしょうか?
木村「私は友人のジャーナリストに事件を手記することを強く勧められ、書き始めた 2カ月後に『ブラックボックス』が出版され、そのジャーナリストに参考になるから読めと言われ、読んでその内容に唖然としました。最初は伊藤氏に共感できると思って読んでい たので」
__実刑判決の出た性暴力の被害者である木村さんが『ブラックボックス』に共感できなかった部分はど んなところですか。
木村「伊藤氏は『ブラックボックス』を公的に認められたと記者会見で言ってました が、私にはまったくそうは思いません。被害者を迷走させています。性被害ホットラインや警察も病院も全て自分の思い通りに忖度しないことを「性犯罪被害者 に理解の無い冷たい社会」と強調し、もし被害者が辛い扱いをされても何が正解かを全く示していません。性犯罪被害は被害が可視化出来ず、見え辛い難しい現場ですが、それでも 関わる 全ての人(機関)だって必死に対応しています。これは怒りを込めて言 いたいです。」
__一方的な暴力と性被害、今も体に残る傷。女性だからこそ、起こり得る理不尽な犯罪。事件後の状況はどうでしたか?
木村「私は事件よりも、事件によって周囲の環境が変わったことが最大のショックでした。事件を知る当時の関係者は、私を腫物のように扱い、当事者である私よりも「傷 ついた」と態度に示され、瞬時にもう二度と今までの日常に戻れないことに愕然 としました。」
量刑が軽いから偽者だ
__量刑が軽いということで、木村さんの実在を疑っている人たちがいます。
木村「今回、伊藤詩織さん擁護派の方で、「強姦致傷でそれだけの被害を受けて、そんな 刑期が短いわけない」と言われ、「ああ、そうなんだ、短いのか」と思いました。確かに、被告人の代理人は判決に満足そうだったから控訴しないだろうと言われました。被害者弁償金がありましたのでその関係で量刑が軽くなったのだと思います。受け取りは 担当弁護士と話し合い裁判前々日まで悩みました。」
__木村さんが一番悔しかったことはなんですか。
木村「裁判では被告人側の弁護士ができるだけ刑期を軽減しようと、情状酌量を訴えるため家族など証人を4名(一名は却下されました)出してきました。犯行に使われた刃物も、私の証言とは違いました。私はDNA鑑定を二度警察で行い、刑事から事情聴取を5回以上受けましたが、刃先のDNA鑑定もなされず、被告人には有利な凶器が提出されそれが認められました。」
__検察が押された裁判だったんですね。
木村「私はそのことは裁判後に知りました。凶器については何度も話しましたし、第一発見者の証言もあり、あれほどたくさんの事情聴取を受けたのに、それは何の意味も無かったんだ、と司法への不信感を募らせました。」
__今も事件の精神的な後遺症(PTSD)に苦しんでいますか。
木村「私はPTSD等の疾患は自覚していません。ただ加害者の特徴に似ている人物 を 街で見た時は身体が硬直したりしました。自分の判決の報道で、ニュースや 引用記事を見た時は摂食障害を発症しました。でもこれは自分を事件のショック から守るための浄化作用と思い、決して後遺症ではないと自分に言い聞かせてま す。」
__伊藤詩織さんの事件でPTSDは有名になりました。
木村「PTSDでなくても、伊藤詩織さんのように、被害当時の衣服を着て、私はこの 服を着て被害に遭いましたと、世間やカメラの前で言うことは、絶対できませ ん。どんなに神経が図太い私でも、大勢の前で当時の衣服を着せられたら失神していると思います。」
__性被害者の声を上げやすくする社会。その為に必要なことはなんだと思いますか。
木村「私は警察学校で被害者として講座の担当をしたり、被害者支援センターの冊子に寄稿をお願いされたり、匿名で地域テレビの取材も受けました。きっとだれかの為になると思って。私は被害者が自身の力で立ち上がっていただきたいと思ってい るからです。」
被害者が声を上げるためには正しく伝える義務と事件をなぞる辛いコストが発生する
__自分と同じような目に遭う事件が起こらないことを願う犯罪被害者が、積極的に世論に出ることは大事ですし、被害者に立ち直る勇気を与えたいと行動する木村さんの公益心を尊敬します。そして、犯人にも人権がある。だからこそ、事件を語る時、自分が被害者で相手が加害者だという証明をきちんとしなくてはならない。厳正な事実の提示が必要だと、木村さんが仰 りたいのはそういうことでしょうか。
木村「性犯罪被害者だけでなく、被害者全て共通することだと思いますが、誰かの為に声を上げるには、何度も何度も辛い事件をなぞる事が求められます。これは大変な作業だと経験を持って痛感しました。でも、それは受けた被害を正しく世に伝えるには必要な義務であり、誰もが持つ人権の上での欠かす事の出来ない コストだと思っています。」
__当初のメールに致傷行為の訴えがないのも不自然ですね。時間が経つほど痛 みが薄れて行って、怪我が治癒して被害感情が軽く変化していくものなのに、詩織さんの場合は逆に当日から時間が経つにつれて重くなって行って、BBによると ついには仕事にも支障を来していますね。
木村「私はBBを全く疑いも無く読んだので、伊藤さんは私と同じ強姦致傷でない か と思いました。読み進めると「準強姦に遭ったかも」と友人に話していて、 とても不思 議に思いました。」
__どうしてでしょうか。
木村「何故、事件後の医療従事者の女性友人とのランチで、「(出血した胸の傷や痣 など)見てもらえる?」等言わなかったのか、と思いました。友人は妊娠や感染症、怪我なりを心配して、医療にまずは行くことを勧めるるべきでは、と思いました。正しく対応 しないと伊藤さんが苦言を呈しているホットラ イン医療警察より、その友人に怒りが向くべきではと思います。性犯罪被害の教育を受けてこなかったとして も、犯罪者が怖かったとしても、医療従事者でなくても、殺されるような被害を 受けた友人の身体をまず第一に心配するのではないでしょうか。」
__確かに精神的なPTSDも心配ですが、詩織さんの場合は怪我をさせられていると書いてありますから、友人はまず、詩織さんに迅速かつ適切な医療を受けさせるべきでしたね。
木村「2015年4月にジャーナリストになりたいと伊藤さんは志願していて、BBを発売する2017年10月にはジャーナリストとして60か国を周っています。その2年間で いつジャーナリストと意識して、PTSDや足の痛みを抱えながら各国を回ったので しょうか。それは性被害に遭った人に対して意地悪な質問になるのでしょうか。」
__いえ、率直な疑問だと思います。木村さんは友人は医療関係のプロならではの適切なアドバイスができてなかった、というお考えですね。詩織さんの被害を警察が強姦致傷ではなく、準強姦で告訴状を受理したのはなぜだと思われますか。
DRDなら計画性があり悪質
木村「私は事件に遭うまで強姦致傷の定義も判らなかったです。私は刑事 に、未遂 でも怪我をしていると強姦致傷という事件名になると言われました。BB にある 伊藤さんに起こった内容は強姦致傷の何物でもないと思います。何故 「準強姦」とご自身が認識しているのかを問いたいです。
意識が無く犯される「準強姦」に遭い、その後伊藤さんは覚醒し、更に性行為を力ずくで強要されています。「殺される」と思ったほどに。私にはその無意識の間の準強姦行為はなく、刃物は使用されましたが、同じような経験をしています。それに加えて、伊藤さんに行われたことは、計画性があり、盗撮、ドラック使用 と、更に重い罪だと、なぜそう主張しないのか今でも不思議です。」
__そうですね、ドラッグを使用されたのなら、あらかじめ相手は計画性があり、より悪質だということになりますが、この事件ではドラッグは民事で主張しておらず、強姦致傷行為に関しては刑事事件では告訴はされてないようです。そこも不可解な疑問点ですね。
長い時間、ありがとうございました。これからも犯罪被害者が声を上げる運動を続けてください。弱き者の声も、やがて世の中を動かしていく大きな風になることを願って。このインタビューを終わらせます。
松田隆記者に聞く_「ある程度予想はしていました」
___伊藤詩織さんと山口敬之さんとの裁判について、性被害者の声を厳正な取材をもとにした報道ベースで書かれた記事でしたが、ヒステリックな反応が起こりました。これはなぜだと思いますか?
(以下、伊藤詩織さんを伊藤さん、山口敬之さんを山口さん、取材に応じた木村陽子さんを木村さんと表記します。)
世論っていうのは感情的ですから
松田「ある程度こういう反応があるだろうな、と思っていました。世論っていうのは感情的ですから。山口さんのバッシングについても感情的じゃないですか、すごく。だから僕がこういうことに対して書いたら、感情的なものが来るだろうな、と言うある程度の予想は持っていました。それがSNSの中の一つの特性ですから ね。だから正しいことを書いてるのに、間違ったことは書いてないのに、なんでこんなバッシング受けるんだろう、とか、不思議だな、とは思わなかったですね。」
__この議論で特徴的なのは反応が幼稚で刹那的のように見えます。
松田「SNSだからじゃないですか?」
__責任がない言論空間ということですかね。
松田「匿名で色々意見が言えるのがSNSですから、だからこそで、仮に有名な名前出してる人が、それ、おかしいだろうと言った時にああいう罵詈雑言は浴びせてこないですよね。論理的にこうだこうだと言って来るじゃないですか。だからSNSなんてそんなもんだろうと思ってますけどね。」
__調べると伊藤さんの言っていることに疑問を感じることもある、と思うのですが、その疑問に批判的な反響が来る のはどうしてでしょうか?
松田「木村さんは戦うならフェアに戦ってくれと、実はフェアに戦えないんじゃないかなと疑問を呈しているんですね。伊藤さんは性犯罪被害者としてありえないような反応してるんじゃないですか、それをちゃんと説明してください、そうしたら全力で応援できるのに、というところを言ってますよね。」
__木村さんは伊藤さんは性被害者としてありえない行動を取っていると疑問に感じたので「令和電子瓦版」に伊藤さんが自分の疑問に答えてくれたら応援できるという告発をした。この記事が伊藤さんへのセカンドレイプだ、と松田記者に批判が殺到しました。
山口さんに刑事責任はない
松田「セカンドレイプだっていう非難は当たらないでしょう。要は、(ファースト)レイプとされるところはないわけですから、山口さんは刑事責任は全くないということです。セカンドレイプというその批判は前提が明らかに間違っていると思います。」
__法律的に見て、詩織さんを批判したり批評したりはセカンドレイプではないという事ですね。
松田「詩織さんが山口さんに意に沿わないセックスを強要されたと言ってて、いや、それはおかしいんじゃないか?という議論が彼女の名誉を傷つけてる、という話ですよね。これはまさに、木村さんも言ってましたが、性被害者に何か言ったら「セカンドレイプだ」と言い返して、相手を黙らせられるわけじゃないですか、それはおかしいですよっていう話で、彼女を批判するのは許さないっていうことは山口さんは犯人 だと言ってるのと一緒ですよ。」
_セカンドレイプという言葉は相対的に山口さんが加害者として扱われることになりますね。
松田「なのでセカンドレイプというなら、じゃあ、なんで山口さんの人権をなんの根拠もなくあなた方は侵害してるんですか、という話になります。それはおかしいという話になります。明らかに現行犯で捕まった とか、そいういう案件じゃないわけです。山口さんは強制したということを否定しています。だから合理的にこの話はおかしい、という議論は言論の自由の範囲内だと思います。」
__民事裁判ですしね。
松田「そう、民事ですし、見解が対立している相手の一方の言い分はおかしいというのは、当然、論評の中であっていいわけであって、それがバッシングってよくわからないですね。倫理的にかわいそうじゃないか、感情的にかわいそうじゃないかというのはわかりますが、事件の論評、批評が許されない理由はないと 思いますがね。」
__性被害者の疑問の声を認めない、とする感情はなんなのでしょうか
松田「僕のことを批判してくるのは別に構わないですから。論理的に言ってくるのは聞く耳を持っていると 思うんです。そうした批判は思想の自由市場の中で淘汰されていく話で、ある程度耳を傾ける必要があるん だろうけど、そうでない、オウム真理教のような論理的な話をしても感情で押してくる人には何を言っても 無駄ですよ。だからそう言って来る人を別に恐れることはないし。」
__この感情的になる議論の問題点はなんでしょうか
松田「山口さんに対して誹謗中傷したり、僕に対して脅迫したり人権侵害はこれは困りますし、それなりに対処しますし。ただ気をつけなきゃいけないのは、彼女の誹謗中傷とか、人格攻撃とかレッテル貼りとか、そういう方に行ったらそれは違うんじゃないの、と思います。山口さんの人権も大事だし、また伊藤さんの人権も大事なんです。だから僕は彼女のことを誹謗中傷はしたことないですよ。僕らが受けたヒステリックな攻撃をじゃあ、僕らが伊藤さんにしていいか、というと、それは絶対しちゃいけないと思うんです。」
__人格攻撃や人権侵害はダメだけど、記者としてこの姿勢はどうなんだという追及は必要だということで すね。
松田「そうですね、正当な批評と罵詈雑言は違いますから」
__今回、バッシングされてどう感じましたか?
松田「正直、不気味だなとか怖いな、とか感じることはありますよ。ネット上とはいえ、オウム真理教のような白い服が押し寄せてくる怖さはありますよ。気持ち悪いですよね。怖いなぁとは思いますけど、じゃあ、書くのやめたら相手の思う壺ですから、正直、感想としてはある程度予想はしていたというのはありますが、絶 対にこんな奴らには負けないぞ、真実を伝えて黙らせてやれ、という気持ちですね。」
__ありがとうございました。圧倒的な取材力と歯に衣着せぬ鋭い切り口の記事をこれからも楽しみにしています。
編集後記_論争の根は人権無視
今回、まったく違う立場のお二人に話を聞くことができて、この事件を公平に冷静に見ることの難しさを改めて痛感した。
権力に性被害を握りつぶされた若い女性_これだけでも大衆の正義感に火がつきます。
しかし、伊藤詩織さんの主張の裏は取れてるのか?彼女のいうことは果たして本当か?彼女に同情するあまり、とんでもない人権侵害を、大衆リンチを、正義の名の下に行使していないだろうか、もう一度胸に手を当てて考えていただきたい。
立場も職業も全く異なるお二人に共通する言語は「人権」。
伊藤詩織さんの裁判で行われる議論において欠けている部分は、まさに、この漢字ふた文字なのだと改めて強く認識させられた。己の正義感を満足させるために片方の人権を踏みつけいていいはずがない。
常に人権擁護の視点を忘れないように努める事は、どんな事件の議論の時にも絶対に堅持すべきなのだ。
私は今もなお、胸に刃傷が残る性被害に遭っても、それでも常に加害者の人権を考える木村さんの言葉を聞いて、伊藤詩織さんの戦い方は本当に正義・真実があるのか、一から見直して行かなければならない時期が来ているのではないだろうかと思う。
しっかりと人権を袂において、性被害者の声を世の中に届けようとする木村さんの姿に普遍的な人間の尊さを感じることができるなら、伊藤詩織さんの戦い方に何故、厳しい目が向けられているのか、この記事を読んだ方ならきっと理解していただける事を願って、今夜は筆を置くことにする。
了