―ひなた坂― 過去を前向きに捉えること

日向坂46  11thシングル『君はハニーデュー』よりグループ史上初となる選抜制度が導入。
そして2024年4月5日、横浜スタジアムにて開催された日向坂46のデビュー5周年ライブ「5回目ひな誕祭」のアンコールにて、アンダーグループの名称を「ひなた坂46」とする発表が打ち出された。

―「ひなた坂46」― この呼称がひらがなけやきの類比であることは明白だが、その事実に歓喜したおひさまもいれば、反面憤りに近い感情を抱いたおひさまも散見された。


【負の歴史】
反対意見の根拠も種々雑多ではあったが、なかでも多く見受けられたのは「不遇の過去を再演するつもりか?」といったものだった。

ひらがなけやきには、「欅坂46(漢字欅)」のアンダーグループ、なかなか目立った活動ができなかった「不遇の時代」としての過去がある。
だからこそ、これまでのライブにおいてもひらがな時代の楽曲を披露することに慎重な判断を要してきた筈で、その楽曲数の割に披露の機会は制限されていたように思われる。
ひらがな時代の楽曲ながらもライブには欠かせない『誰跳べ』や『NOWAR』に関しては、語尾に2020を付する形でリテイクされ、「日向坂46」の楽曲として再定義された。
それほどに、ひらがなの歴史はデリケートなものだったように思う。

それゆえ、この不遇の過去を強く受け止める者にとって、「ひなた坂46」という呼称はアンダーメンバーの存在意義を貶める冒涜行為であるとも解釈できてしまうだろう。


【歴史の再解釈】
しかし、ひな誕祭初日のパフォーマンスやMCを通して、「けやき坂46」を単なる負の歴史のままに終わらせまいとする、日向坂46の覚悟を感じた。

・アンコールのMC、複数のメンバーから発せられた「日向坂の層の厚さを見せつけたい」という決意。

・『JOYFUL LOVE』のMC、金村美玖が提示した「過去を大事に前へ進んでいく」という意志。

・また、今回のライブでは、『ひらがなで恋したい』や『こんな整列を誰がさせるのか?』といったひらがな時代の楽曲がセトリに自然なかたちで採用されていた。(そこに懐古的な意味合いを付随させる演出はせず、ひとつの"持ち歌"として披露された)


心が震えた。彼女達―日向坂46―は、我々が暗黙裡に抑圧し続けていた「ひらがなの歴史」に前向きに向き合っているではないか。
過去に蓋をして目を背けるのではなく、「あの頃もよかった」「あの頃があるから今がある」といった具合に過去を好意的に捉える。彼女達の発言やセットリストの構成からは、そんな意図が感じられた。

また、センター齋藤京子の卒業後も4期生へ継承する形式で披露された『月と星が踊るMidnight』…
過ぎ去った歴史として幕を下ろすのではなく、次代へと繋ぐ。語り継ぐ。過去に対する前向きなマインドの提示の仕方として、4期生がこの楽曲を披露することに強い覚悟を感じた。


【立ち止まって振り返ること】
過去を顧みず、前へ前へと走り続ける物語には強い求心力がある。しかし、それは長期化すればするほど脆くなってしまう、持続性のないものだと思う。内省する時間なしに、自らの存在意義を認識することは難しい。だからこそ、ときに後ろを振り返り、歩んできた足跡、ルーツを見つめ直す。

過去に向き合うことは、場合によっては痛みを伴うことかもしれない。しかし、過去とは確定した出来事であるが故に、立ち止まって吟味することができる。何度でも何度でも解釈し直せる。
そして、彼女達は葛藤しながら、涙を流しながら、今まさにその超克を果たしつつあるんじゃないか。


【いつだって、未来は味方だ。】
僕個人としては「ひなた坂46」という新体制に非常にワクワクしています。
2023年、大きな壁にぶち当たり、自らのルーツを見つめ直した日向坂46。歩んできた道のりを前向きに捉え直し、再び高く跳ぶための力を蓄えた1年間。
その布石を打つかの如く、この約半年間においては、「新参者」や齋藤京子さんの卒業関連の制作を通して、過去を ― けやき坂時代を ― 顧みる機会が適時的に提供され続けていました。
彼女達がこれから作り出す物語が、僕は楽しみで仕方がないです。

「いつだって、未来は味方だ。」
1stアルバム「ひなたざか」の頃のキャッチコピーですが、今になってその味わい深さを噛み締めています。
過去さえも味方につけた日向坂は、きっと最強のグループになると思います。



さて、彼女達が「けやき坂46」という過去に真摯に向き合ったように、今おひさま一人ひとりが日向坂の歴史に向き合い見つめ直す必要があるんじゃないかな~と、殺伐としたタイムラインを見ていて感じた次第です。

加えて言っておくと、「ひなた坂」に対して様々な意見が飛び交っているのを眺めていると、否定的意見の方が明確な根拠のもとに提示されている傾向にあるのに対して、肯定的意見の方にはふわっとした(根拠を持たない)見解が多いような印象を受けました。

「何があっても応援する」そのようなスタンスはとても聞こえが良いですが、同時に彼女達が悩み抜いた末に打ち出した決意を埋没させてしまうことにも繋がります。

彼女達の決意を尊重するのであれば、無条件な肯定は差し控え、その意味・根拠を明確に捉えて考えてみるとよいのかな、と思いました。

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