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[hiphop] BADHOP 驚異的なYZERRというリーダー


2020年3月1日。人気HipHopグループのBADHOPは、予定していた横浜アリーナでの単独ライブを新型コロナウィルスの影響を受けて無観客ライブとして実施した。そして、その様子をYouTubeにて無料で生放送した。

平均年齢24歳でレコード会社にも大手事務所にも属さず、すべて自前で音楽ビジネスを展開する彼らが2019年の武道館ライブ成功に続き、横浜アリーナ単独公演の開催を決定したこと(しかもスポンサーなし)。そして、チケットも完売させていたことも驚きだけどコロナウィルスの影響を受けての対応も実に見事だった。

目標の一つとして準備してきた横浜アリーナのライブだったが、無理に開催せずチケットを全額払い戻しことを決定。さらに、そのまま照明やステージなどを組み、無観客でライブを実施し、YouTubeでの無料生放送を決定したのだ。彼らが言うには、そのままキャンセルすれば損失は4000万円。ステージを組んでライブをすれば1億円もの負債になるとのこと。ライブの代わりに生放送するなら、巨大な横浜アリーナではなく、どこか小さな会場で行う方法もあったそうだ。

優れたリーダーは自分たちの組織や、支持してくれるファン層、そのほかの傍観者たちにストーリーを提供することができる。BADHOPのリーダーYZERRは、今回の決定でそれができることを証明した。

新型コロナウィルスの影響で、ライブなどの実際に観客を集めるビジネスは軒並み大きなダメージを受けた。多くの組織は観客の安全を守るために苦渋の決断として、ライブやイベントなどを中止を決定した。しかし、YZERRは、新型コロナウィルスによって目標としていたライブを中止にしなくてはならくなった可哀そうな自分たちではなく、困難に立ち向かいポジティブなメッセージを送る自分たちというストーリーを提供した。ライブ中止と巨大な金銭面の損失というマイナスを、自分たちへのポジティブな評価というプラスに変えてしまったリーダーはYZERRだけだろう。

クラウドファンディングによって1億円の大部分も回収できそうな勢いだけど、仮にそれがなかったとしても十分に満足できる評価を得たのではないだろうか?きっと今回の出来事はBADHOPの伝説的な逸話として語り継がれるだろう。伝説は1億円では買えない。伝説には驚きと共感が必要だ。それらを可能にしたのが、1億の負債という分かりやすい驚きと、新型コロナの逆境にあってもポジティブな発信することへの共感だった。

興味深かったのでYZERRについて知ったことをまとめることにする。

BAD HOPは川崎のかなり治安の悪い地区で育った幼馴染の仲間から誕生したグループだ。YZERRの双子の兄弟のT-Pablowは人気テレビ番組「フリースタイルダンジョン」の初代モンスターだったので知っている人も多いのではないだろうか?また、放送中止してしまった「クレイジージャーニー」という人気番組で最後のゲストが彼らだった(彼らの放送のあと、別の特集でのヤラセが発覚して放送中止となった)。刺青だらけの身体にも関わらず礼儀正しく理論整然と夢を語るYZERRを覚えている人も多いのではないだろうか?

母子家庭で育ち、周りの友達も同じような環境だった彼らは、小さいころから盗みなどの犯罪を重ねる。小学校2年生で金髪でスカジャンでタバコを吸っているような同級生がいる環境だった。テレビで見るちびまる子ちゃんのような家庭は、相当な金持ちの家庭だと感じていたそうだ。でも、それが当たり前だったので、自分たちが特殊な環境にいる自覚はなかったそうだ。

少年院へ送られ、そこでも問題を起こし、少年院で手に負えなくなった者たちが送られる医療少年院というところで自分が特殊な環境にいたことを初めて知ったという。そして、そこで大量の本を読み、重要なところをメモし、まとめるという作業を繰り返した。最終的に30個くらいになったものを自分のルールとして決めた。

少年院に入ったときにも考え方が大きく変わりました。何もすることがないので、ずっと本を読んでいたんですよ。年間200冊くらい読んだかな。いろいろ読んで、大事だと思ったことはメモして。そしたら徐々に同じような内容のメモが増えてきた。まとめたら最終的に30個くらいになって、それが生きる上で絶対に守るべきルールになりました。
例えば、「他人の意見を聞く」こと。BAD HOPはメンバー同士で何でも言い合える関係にしています。リーダーでも間違うことはあるし、俺は常に批判を受け入れます。絶対に人のせいにしない。それが不当な批判だとしても、どこか自分にも非があるはずだと思うようにしてる。そういう人生の基本となるルールが30個くらいあります。それらをざっくりまとめると、最終的に人として愛される存在にならないとダメってことですね(笑)。


育ち方も、性格も、見た目も全く違うのに、任天堂の岩田さんと同じことを言っているのが興味深い。

少年院から出た後にラップを本格的に始めるのだけど、ビジネスについて学んでいた時期もあるそうだ。アーティストマインドとビジネスマインドに狭間で悩むこともあったそうだけど、今は両立しているとのこと。

僕、ラップから離れてた時期にそういうこと(ビジネス展開)をすごく勉強してたんですよ。ビジネスのセミナーに行ったりとか。ラップ以外のビジネスで、僕が考えてやったことが当たってお金が入るようになったこともあって


YZERR の ビジネスセンスはBAD HOPの躍進を生む。

2016年、はじめてのCD 「BAD HOP ALL DAY」無料配布したのだ。オンラインのデジタルデータを無料で配布というのはよくある話だけど、CDの無料配布はあまりきかない。最初は2000枚くらいをレコード屋やアパレルなどでゲリラ的に配布し、大反響になったあと、さらに無料で1万枚追加した。

更に、川崎CLUB CITTAと大阪の心斎橋 SUNHALLで無料ライブを開催する。

無料にした理由は、(当時の自分たちに)お金を取れるクオリティに自信が無かったと謙虚に語る反面、

僕たちは音楽を『売ろう』とは思ってないんです。音楽を通して知名度を上げていけば、それに付随する商売がお金になるというのが分かってるんで

とも語る。また、ライブが楽曲面での足りてないクオリティに気付くことができたとも語っている。足りていないクオリティは全国流通で販売した次のアルバムできっちり仕上げた。自分1人ではなく8人のメンバー全員を上げるのには優れたマネジメント能力が必要である。

YZERRの計画は行き当たりばったりではなく、

立てた計画は全部、日にちまで決めてるし、向こう3年ぐらいの計画は全部見えてますね

ということだ。2019年の武道館も今回の横浜アリーナも計画していたことだ。

YZERRはスピード感を大切にする

今日出来た曲を数日後にミュージックビデオを撮ってリリースするくらいのスピード感を求めています。

楽曲制作から、レコーディング、ライブの運営、グッズの販売まですべてセルフプロデュースする理由もそこにあるという。

(目の前にあるペットボトルを目的地にたとえ、)「たとえばペットボトルを手にするのに、一直線に伸ばせば最短で届く。なのに、みんな右や左から腕をまわして取ったりする。一直線に手を伸ばせば簡単じゃないですか。それと一緒で、まずは目標を決めれば、そこへ最短でたどり着く道筋は誰でもわかること。まず目標をしっかり決めていないから、右往左往する。日本の音楽会社等も含め、もっとシンプルに物事を捉えることが出来れば成功には早くたどり着くと思います」

スピード感はアメリカのIT企業と日本企業の一番の差だと言われている。YZERRのスピード感、判断の速さ、計画性はどれも24歳のミュージシャンという括りでは語れないレベルだ。

YZERRの今回の横浜アリーナの決断は、ファン層だけではなく多くのクリエイターやIT業界の人々の共感を得た。彼らは動画配信やクラウドファンディングの企画・手続きなどに協力した。

クラウドファンディングへの彼らの支援は 3/7 18:00時点で 5000万円を超えた。最終的にどれだけいくかは分からないが、この金額は額面通り以上の価値がある、彼らへの期待値なのだから。 

日本のHIP HOP界はアーティストの実力も、ファン層の熱狂もあるのに、なかなかビジネスへ転換することができる人がいなかった。YZERRが率いるBAD HOPの躍進には楽しみだ。

追記 [2020/4/2] クラウドファンディングでの支援は2020/3/1 から 2020/3/30 の期間で 78,846,522円 6835人とのことでした。 僕も微力ながら支援しました。

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