【日本経済】ものづくり白書で振り返る日本の製造業

 日本政府が発行している「ものづくり白書」は、日本の製造業をとりまく環境や課題、政策についてまとめて、毎年発行している白書です。ものづくり基盤技術振興基本法に基づき2001年より発行されています。

ものづくり基盤技術振興基本法
(年次報告)
第八条 政府は、毎年、国会に、政府がものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策に関する報告書を提出しなければならない。

 今回は、ものづくり白書に沿って、平成日本のものづくりの変遷を見てみたいと思います。(※ちょうど、ものづくり白書2019年版第一章で「平成の製造業とものづくり白書の変遷」と題された文章が公表されているので、これを参照しながら、本日のnoteを書き留めました。)

 なぜ平成日本のものづくりの変遷を見ようと思ったかというと、
  ・日本の製造業はどのように変化してきたのか
  ・いまの中国の製造業と比較すると何が異なるのか
が浮き上がってくるだろうと思ったからです。

1.平成日本のものづくりの変遷

 1999年、ものづくり白書の制定が宣言されたのは、就業構造の変化や若者のものづくり離れ、熟練技能者の高齢化や生産拠点の海外移転等による産業空洞化といった危機感の中でした。

①白書刊行開始からITバブル崩壊(2001―2002)

 環境:内需が低迷しデフレ が進行する厳しい時代だった。我が国製造業はコスト削減努力 などを通じて収益を改善させたが、利益の相当部分は財務体質改善のための債務返済に充てられた
 課題:就業構造の変化、海外地域における工業化の進展に伴う競争条件変化、若者のものづく り離れ、熟練技能者の高齢化


②小泉改革からリーマンショックまで(2003-2009)

 環境:小泉政権時代を通じて景気は回復に向かい、景気拡大の期間 は 73 か月を記録した。しかしながら、2008 年後半より米国の 金融危機に端を発した景気後退の影響により、幅広い業種において生産活動が大幅に低下する深刻な状況となった。
 課題:海外展開や国内拠点の強化、IT 投資による生産性向上


③リーマンショックからアベノミクスまで(2010―)

環境:東日本大震災が発生すると、その影響により自動車製造でのサプライチェーンの 途絶による長期にわたる生産停止や、電力供給の不安定化が生じ、特に輸送機械工業において記録的な落ち込みとなった。
 加えて、我が国製造業は欧州債務危機による市場悪化、タイの洪水など多くの危機に直面しながら、世界の製造業を取り巻く構造変化に対応することとなった。
 デジタル化・モジュール化領域の拡大や、自動車業界等における従来型のピラミッド構造からグローバル型の網の目構造への ビジネスモデル変革など、我が国のものづくりは大きな構造変化に直面。
課題:IT やデジタル技術を活用した自動化・省力化による国内拠点強化や、バリューチェーン全体を一貫した、全体最適でのビジネスモデル構築の重要性

2.思ったこと

(1)日本の製造業の振り返り

 普段、目の前のことに一所懸命になってしまって、「いまは緊急時だ」、「~~の時代だ」、と目先の物事に思考が影響されがちですが、

 こうやってものづくり白書を振り返ってみると、

①バブル崩壊以降(90年代以降)の大きなトレンドとして、

・数年に一度は必ず大きな危機があって、景気の波は必ずあること(※1)
・日本の内需は縮小し続けていること(※2)
・近隣に、ものづくりのライバルとなる国が成長した/していること(※3)

②その結果、日本の製造業に起きていることとして、

・組み立て工程を中心に海外への移転が生じたことなどにより、製造業の事業所は半減しており(※4)、
・日本のGDPや雇用における製造業の占める割合は減少している。

③この20年間、日本の製造業にとって長らく指摘されれいる課題は、

・生産性向上のためのIT化(その内容は、IT設備の導入→DXへと変化)
・サプライチェーンの最適化

④ものづくり白書が提唱しているアイデアとして、

 ・2001年以降、「国際分業論(※4)」を提唱し、すべての工程を国内にとどめるよりも、工程によっては海外に出ていくことを良しとしていること
 ・「部素材」においては引き続き日本の製造業が中核的位置を占めていることを指摘し、日本の行先として、この強みを生かした「部素材立国」となることを提唱していること

 は、ユニークで面白いなと思いました。

(2)中国の製造業との比較

 ここまで日本の製造業について変遷を見てきましたが、いまの中国の置かれた環境に照らしてみると、

①1990年代以降日本が直面してきたトレンドと異なるのは、

 ・「内需」の減少はしばらくないと思われる(人口減少するとしても平均所得は上がると思われる)
 ・「内需」が減少し始めたとしても、中国ほどの内需を超える国・地域はしばらく出てこないと思われる(成長が期待できる候補はインド、全体としてみたときのASEAN?)
 ・「競争相手」はしばらく出てこないと思われる(成長が期待できる候補はインド、全体としてみたときのASEAN?)

②中国の製造業に起きていることは、

 ・中国国内のGDPや雇用に占める割合は減少するものの(※6)、
 ・これは製造業の絶対数が減っていることよりも、サービス業の割合が増えていることに起因している可能性が大きい
 ・「製造大国」から「製造強国」を目指して、産業の高度化を邁進中(→日本の「部素材」の比較優位はいつまで維持できるのか)
 ・製造工程の自動化などのデジタル化による生産性向上や、電気自動車やIoT機器の開発など新しい産業の出現、といった点は、日本と比べて中国にアドバンテージがある。

3.まとめ

 20年分のものづくりを振り返ってみると、

・数年に一度は大きな「危機」が起こるので、常に備えが大切、

・そして、中国韓国台湾のものづくりが強くなるなかで、日本の強みは部素材と呼ばれるものになってきていて、

・20年間ずっとIT化を通じた生産性の向上や、サプライチェーンの最適化を課題としていること、

・そして、中国のものづくりにとっては、ここまではうまくやってきたものの、

・今後、中国国内市場の需要低下や、代替となる大きな市場が出てきた場合や、

・ものづくりのサプライチェーンが中国の外にもできる場合には、ゲームチェンジが起きる可能性がある(今はまだ見えていない可能性ですが。。)、

 ということが、ここまでの振り返りで見えてきたことでした。

 長くなりましたが、本日もここまでお付き合いいただきありがとうございました。

4.文中の(※)一覧

※1:1990年以降の経済危機
・1990年 バブル崩壊
・1997年 アジア金融危機
・2000年 ITバブル崩壊
・2007年 リーマンショック
・2011年 東日本震災
・2012年 欧州債務危機
・2016年 熊本地震
・2020年 新型コロナ感染症拡大

※2:「内需」を「①人口」×「②平均年収」で大まかに考えると、
①「人口」は2004年12月がピーク(参考:総務省https://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf)、
②「年収」は1997年の472.5万円がピークで、2008年に大きく下落して以降、2007年の基準に戻っていません。(参考:厚労省https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-08-02.html)

※3:韓国、台湾、中国 

※4:「国際分業論」
グローバル化の中で世界規模での競争に対応するた めには研究開発・生産・販売の各段階において、最適な立地環 境が整備されている地域へ拠点を展開し、事業や企業の再編を進め、経営効率を向上させる「国際機能分業」の必要性が指摘 されている。

※5:国内製造業の事業所数は 1989 年の 42.2 万から 2016 年の 19.1 万へ半減。(参考:ものづくり白書2019)

※6:政策投資銀行レポートhttps://www.dbj.jp/topics/report/2016/files/0000022419_file2.pdf


(参考)
・ものづくり白書2019 第一章
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2019/honbun_pdf/pdf/honbun_01_01.pdf


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