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11月29日 夢

 深夜1時くらい、「明日は早起きだから流石にそろそろ寝なくちゃなあ」と思い、床に就く。眠くはない。

 なかなか眠れない。口を開けて寝るせいで喉が渇く。ペットボトルを手に取り、残った水を全部飲む。
 枕元、小さい音でYouTubeから「匿名ラジオ」を流す。
 下半身のジャージ、腹の部分が少し窮屈に感じる。少しムカついてパンイチになる。もうじゅうぶんに寒い時期だが布団は厚いから大丈夫。

・・・

【夢】

 高校生の「僕」は陰キャで、根暗で、スクールカーストの何処にも属していなく、友達はただの一人もいない、そういう人間だった。

 この夢における「僕」はどうやら「おれ(自分)」とは別の人間らしい。ロールプレイタイプの夢だった。もっとも、夢だと認識したのは起きてからだが。
 こういった夢は知らない場所や知らない人が出てくることが多い。が、大抵は「ここはどこどこだなあ」「こいつは誰々だなあ」となんとなく自分の感覚として認識できる。

 そこは例に違わず「おれ」の知らない場所だった。「僕」にゆかりのある場所らしい。
 きっとここは「僕」の高校なのだろう。三人称的な書き方をしたが、先程も書いた通りこれは自分の感覚としてある。
 今思えばその校舎にゆかりのない「おれ」の目線から見ても「学校である」ことの認識はできる。内履きを擦ればキュッキュと鳴る床の質感、少しひらけた椅子のないホールのような空間、少しざらざらとした壁。

 夜だった。ひんやりとした空気の中、非常誘導灯の緑の光だけが薄らと足元を照らしている。
 僕は学校の昇降口(生徒入口)にいた。内履きを履いていて、下駄箱に背を向けながら廊下を見やる。
 近くは見える。夜目が効くのか、あるいは夢だからなのか。
 遠くは暗くて見えない。ただ浮島のようにぽつぽつと非常誘導灯だけが見える。

 誰もいない。

◇◇◇

 走っていた。逃げていたのか、追いかけていたのかも夢から覚めた今となってはよく覚えていない。が、追いかけていたような気がする。
 内履きをキュッキュと鳴らしながら、走る。
 止まる。視線の先には女の子がいた。どうやら僕の他にも人がいたようだ。
 どうやら「僕」の知り合いらしい。夢はダイジェストのような形式で送られているらしく、自分が知らない時間に「僕」は彼女にこの夜の学校で会っていたらしい、という感覚がある。

 彼女に何か言われる。僕はそれに少し悪意を含ませたような返事をした記憶がある。
 彼女は怯えたような顔を見せるが、逃げる素振りはない。どうやらここが行き止まりのようだ。「よく覚えていない」と書いたが、状況から考えるにきっと先程走っていたのは「追いかけていた」で、今は「追いつめた」なのだろう。そして多分「僕」が悪者だ。
 きっと今は彼女にとって非常に都合の悪い状況なのだろう。歯をカチカチと鳴らし、嫌悪と恐怖が混ざったような顔をして、目には涙を浮かばせている。
 その時、後ろから声がした。

「そこまで」

 声の方向に目を向ける。人がいた。声がしたのだから当たり前か。
 細身の女性で、スマホゲームのような髪色をしていて、スマホゲームのような服装をしていて、足を組んだ姿勢で宙に浮いていた。
 スマホゲーム女が口を開く。

「ゲームオーバーだ」

 僕の身体がふわりと浮かんで、真っ暗な空間に飛ばされた。

◇◇◇

 僕は、夢の最初にいた昇降口にいた。

 視界の端には、ゲームのマップのようなものが表示されている。たった今まで気付かなかった。
 今いる位置に、まるで小学生が自由帳に描いた迷路のように、「スタート」と書かれている。

 僕は「またか」と思った。
 きっと何度も何度もあの女の子に嫌われて、スマホゲーム女にスタートに飛ばされているのだろう。そういう感覚。

 ただ「あの女の子に嫌われたくない」という感覚は「僕」にはなかった。
 「僕」は大変に卑屈な少年で、誰しもが自分を嫌っていると思っていた。実際はそんなこともないだろうし、ほとんど誰にも興味すら持たれていなかったであろうが。
 夜の校舎内であの女の子に会う度に「彼女は僕のことが嫌いに違いない、嫌いでなくてはならない」という感覚に襲われる。
 僕はニヤニヤと笑いながら彼女に嫌なことを言い、追いかけたり、大きい音を出したり、理由もない嫌がらせを続ける。
 しかし、嫌がらせが大詰めになると、スマホゲーム女が現れて生徒入口に戻される。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もゲームオーバーをくらい、何度繰り返しただろうか、僕はとうとうスタート地点の昇降口で膝をついた。
 賽の河原だった。大詰めでリセットされる。何も成せない。ゲームオーバーのトリガーもわからない。
 いや、「石を積む」にあたる行為が「夜の校舎で女の子に嫌がらせをしてめいっぱい嫌われる」だった分、賽の河原よりも心臓を締め付ける感覚があった。賽の河原を経験したことはないが、きっとこれほどまでに「おれ」の心を痛めることはないと思う。
 ゲームオーバーになった理由もきっとない。僕が女の子に嫌がらせをしているように、きっと僕もスマホゲーム女に嫌がらせをされている。
 嫌がらせのベクトルは違うが、僕とスマホゲーム女は等しく最悪であった。
 きっとこの夢には最悪な人間しか出てきていない。僕に嫌がらせをされていた女の子も最悪なのだろう。誰かを虐めたりしているのだろう。もしかしたら普段は昼間の学校で「僕」が虐められていたのかもしれない。

 スマホゲーム女の嫌がらせなら、僕はどうやってもゲームクリアはできない。僕は諦めて、スタート地点から学校の外に出た。

◇◇◇

 気が付くと僕は、昇降口にいた。

・・・

 起きる。汗をかいている。喉が渇いている。
 スマホをつけると画面には3時の表記。
 最悪な気分だ。なんでこんなに気分の悪い夢を見たのに2時間しか寝れていないんだ。
 もう寝る気分でもない。
 おれはこの夢を記録しておくためにnoteアプリを起動した。きっとこの記事を書き終わる頃には朝になっているんだろうな。

2020年 11月 29日 6時19分

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