【美術展感想】ロンドン・ナショナル・ギャラリー展(国立西洋美術館)
あまり公にしていませんが、私は美術展に行くのが好きです。
図画工作や美術の授業が苦手だったのもあり、成人する頃まであまりアートには興味が向くことはありませんでした。
時は2014年、東京に遊びに行った時に上野の国立西洋美術館に行ったのがアートに興味を示すきっかけとなりました。
この時、丁度西洋美術館は「FAN DAY」というイベントをやっており無料で入館が出来たのです。
ここで所蔵作品に触れて以降、徐々にアートに接していく機会を増やしていきました。
参考記事はこちら
昨年はコロナ禍の中ということもあり、春以降どの美術館もチケットは時間枠指定入場の前売り券発売で統一されていました。
昨年行けた美術展は少なく
・ゴッホ展(上野の森美術館)
・バンクシー展 天才か反逆者か(横浜アソビル)
・鴻池朋子 ちゅうがえり&ヴェネチア・ビエンナーレ展(アーティゾン美術館)
・MANGA都市TOKYO展(国立新美術館)
・日本三大浮世絵コレクション(東京都美術館)
上記に加え今回紹介するロンドンナショナルギャラリー展の6美術展でした。
行ってからかなり日が空いてしまいましたが、このまま忘れていくのも勿体ないなあと思ったので今回記事という形をとりました。
公式HP
チケット売り場
https://l-tike.com/event/mevent/?mid=511004
この西洋美術館におけるロンドンナショナルギャラリーは2019年の頃から結構話題でして、当時吉祥寺でデートしていた美術好きの女性もしきりに気にしていたのを覚えています。
その方は留学経験者で「ヨーロッパの方だと美術館とかは無料で入れるんだよ~」と言われ、欧米におけるアートの扱い方のある意味での別格さを思い知ると共に「ああ、この方を来年ナショナルギャラリー展に誘ってもなんか盛り上がらなさそうだな」というゲスい感情を抱いていた事をつい昨日のように思い出します。
なおその後その女性とは疎遠になったため、変に気を遣うことなくナショナルギャラリー展を楽しめる環境が出来たのは幸か不幸か。
入館までの過ごし方
鑑賞日は2020年9月18日(金)の15時入場枠。
丁度西洋美術館近くの東京都美術館にて日本三大浮世絵コレクション展をやっており、午前中はそちらを鑑賞(こちらの展示については9時台の枠で入場)。
お昼は上野精養軒でハヤシライスとビール、ソーセージをペロリと完食。
ベタと言われがちですが、ここのハヤシライスにセットでついてくるセロリの漬物を併せて食べるとまた美味しいんですわ。
その後、食後の休憩がてら国立科学博物館で恐竜の骨をまじまじと見ていたら指定されていた15時が来ましたのでいざ入場です。
この時点でかなり体力を使っていたわけですが、メインイベントでくたばるわけにもいかないので自販機でエナジードリンクを補給しました。
入館後
さて、西洋美術館の中に入って驚いたのはいきなりの長蛇の列。
平日の15時にこんなに人来るの!?と驚くくらいの人数が列を成していました。
改めてこのナショナルギャラリー展の注目度の高さを思い知ります。
中にはバッチリとドレスアップした紳士淑女も見かけました。
9月のまだ暑い中だったので熱中症にならないかなと思わず心配に。
ちなみに、こういう中世近代の洋画展では結構そのような衣装で来場される方は少なくありません。
西洋美術館の特別展は地下一階で行われてることが多く、そこにつながる階段の前で職員が仕切りのフェンスを設置していました。
15時になるとフェンスを撤去、さあ入場だ!・・・・とはいかずコロナ禍ですっかりお馴染みの光景になった額への体温計測及びアルコールによる消毒を一人ずつ行います。
ゆっくりと列が進み始めたと思ったらすぐに足取りが止みました。
どうも密にならないように10人くらいで区切って、少し間を開けてから次の10人が階段で地下に降りていくといった段取りを踏んでいるようです。
コロナウイルスは日常の光景を多く変えましたが、個人的に美術展のあり方を一番大きく変えたと思いました。
今年はじめにゴッホ展を見に上野の森美術館にいった時は館内はごった返しており、ざわざわとした中で鑑賞しておりました。
もう少しなんとかならんかなあと思っていましたが、まさか半年後にはこういう形での美術鑑賞をやらざるをえなくなるとは夢にも思わず。
何事も極端はよくありませんが、今の形の方が真にアートが好きな人は楽しめる反面、広く門戸を広げるという意味ではちょっと残念な状況だなと思いました。
さて、西洋美術館を出たのは18時前。
私の場合美術展における平均滞在時間は1時間30分ぐらいなので、ナショナルギャラリー展は非常に当たりでした。
待ちに待った(開催期間はコロナの影響で一回延期していました)だけの価値はありましたし、期待以上の面白さもありました。
それでは今回のロンドンナショナルギャラリー展において自分が面白いと思ったところをまとめます。
ちなみに館内は写真撮影禁止で肝心の絵がブログに載せられないなあ、と残念に思っていたら良心的なブロガーの方が絵入りで紹介しているブログを発見しましたので、展示されていた絵が見たい方はこちらをご参照ください。
私がいいと思った絵は大体載っていたので皆が注目する絵ってのは大体同じなんだなあと痛感した次第です。
ナショナルギャラリーの概要
さて、そもそもこのナショナルギャラリーっていうのはなんであるのか。
まあ簡単に言うと英国政府が作った美術館です。英国国立美術館。
なにせナショナルとついているのですから、ナショナルセンター(国立高度専門医療センター)みたいな意味合いなんだろうと。
日本の国立博物館が現在文化庁所管である国立文化財機構の一機関となっているように、ナショナルギャラリーも英国文化省(DCMS)の非政府公共機構の一つとして位置づけられております。
ただし、日本の国立博物館が独立採算制でチケット代がかかる一方で、ナショナルギャラリーは建物維持費を募金で賄う以外無料で大衆に公開をしています。
前述した吉祥寺の女性が言っていたことですね。
設立の由来に関しては色々ありますが、まとめると「イギリス絵画が大陸国に比べてあまりに発展していないから美術館を作った方がいいよ」と国内の美術家が請願したのが発端だとか。
丁度他のヨーロッパ諸国も国による美術品集積というのが進んでいた時代背景もありナショナルギャラリーは1824年に設立されました。
ただし、最初の建物は蒸し暑い上に周辺が地盤沈下を起こして移転せざるをえなくなるという幸先の悪すぎるスタート。
現在のナショナルギャラリーの建物は三代目で増改築を経て今の形になったそうですが、その三代目もプロトタイプの時はギャラリーの展示スペースの設計に失敗し「狭苦しい穴ぐら」などとボッコボコに言われていたそうです。
ちなみにそれを言ったのは当時の国王ウィリアム4世。
なお、建設者のウィリアム・ウィルキンスさんは決してどうしようもねえアーキテクチャだったわけでなく、極度の資金不足でにっちもさっちもいかなかったという事情があったそうです。
あれ?半分国が悪くねえか?
絵が大きい
美術館側が悪いわけではありませんが、特にこのような大きな規模の美術展が開催される場合は人がごった返しており、その割に肝心の絵が小さく鑑賞しづらいというパターンがよく見られました。
「一列になってじっくり絵を鑑賞しましょう」とは言われますが実際そうしている人ばかりではなく、どうしても人気の絵の前はごった返してしまいます。
私はそこそこ背があるので後ろのほうでも絵は見えたりしますが、小さい人とかだと人ごみを掻き分けて前の方に進まなければなりません。
コロナ禍によるチケットの事前予約制により人数の規制がかかったためか、一昨年よりは西洋美術館の館内の混雑具合は緩和されていました。
ただそれでも人気展だったので絵を間近で鑑賞するには人を掻き分けなければならなかったのですが、今回サイズが大きい絵の展示割合が高かったこともあり、多少遠方からでも十分鑑賞を楽しむことが出来ました。
目玉といわれていた作品のサイズもご覧の通り(タテ×ヨコ)
・聖エミディウスを伴う受胎告知 207×146cm
・34歳の自画像 91×75cm
・レディエリザベスシンベビーとアンドーヴァ子爵夫人 132×149cm
・レディコーバーンと3人の息子 141×113cm
・ヴェネツィア大運河のレガッタ 117×186cm
・アンティオキアの聖マルガリータ 163×105cm
・海港 103×131cm
・ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス 132×203cm
・ひまわり 92×73cm
大体50~60cm四方だと後方から見るのがややきついので、それより大きいサイズの作品が多数ある今回の展示は混雑度合いが鑑賞に影響を及ぼす効果は低い素晴らしいものであると個人的に思いました。
中世画と試される教養
大体の美術展は絵画や作品を時系列順に配置させています。
ナショナルギャラリー展もそれと同じプログラムが組まれており、最初の方は中世ルネサンスの絵画で固められていました。
初代ナショナルギャラリー館長となったイーストレイク氏から三代目のバートン氏までの30年間で美術館はルネサンス絵画をはじめとした作品をガンガンに買いまくりました。
そのペースのためかバートン氏在職中の数年間絵画が全く買えなくなるというチョンボをかますほど。
ただそのおかげも一つの要因となってナショナルギャラリーはその名に恥じぬ美術品所蔵品数を実現することができたのでした。
さて、ルネサンス絵画含め中世画において主題となるのは大体キリスト教にまつわる伝説です。
東方の三博士がイエスのいる馬小屋を訪ねてくる場面やゴルゴダの丘で十字架に貼りつけられるキリストといった場面はメジャーなのでわかりますが、それ以外の場面となると知っているか知っていないかで楽しみ方が変わってきます。
説明がついていたら助かりますが、ついていなかった場合は一体この絵画のテーマはなにが面白いのだろうかと悩んでしまうこともしばしば。
美術展にある音声ガイドも全ての作品を解説してくれるわけではありません。
こういう時のために必要なのは己の知識、キリスト教への理解、そして日経大人のOFF等を用いた入念な予習(カンニング)です。
しかし勉強していると面白くなってきます。
ルネサンスゾーンで最初に心を惹かれた作品というのが「聖ゲオルギウスと竜」という絵画作品です。
あのドラゴンクエストはじめ数限りなく模倣されてきた勇敢な者による邪竜退治の原型となった有名な神話をテーマに描かれています。
面白いのがその構図。
洞窟があり、お姫様が竜の後ろにいて、竜は四足歩行、そして勇者たる聖ゲオルギウスは竜の頭に問答無用で武器をぶっ刺しています。
まさにドラゴンクエスト。
そして聖ゲオルギウスの後方には草原が見え山々が見え・・・とRPGのあの場面をルネサンス風に再現しましたと言わんばかりです(もちろんこちらの絵画が先)。
youtubeでやったら10万再生くらいはいきそうですね。
そしてカルロ・クリヴェッリの「聖エミディウスを伴う受胎告知」。
でかい、というより長い。
一枚の扉というよりむしろ壁に直接絵が描かれてるのか?という印象を受けました。
そしてこの絵のテーマは受胎告知と書いていますが、実は描かれている町アスコリ・ピチェーノが一定の自治権を得たというのが主題なのです。
そのため上空からの精霊(光線で表されている)がマリアに対し受胎した時、本来それを告知する任務にあるガブリエルと聖エミディウスはマリア宅の分厚い壁に阻まれてそれを告知できずにいるという構図になっているのです。
つまり大天使(教皇の力)がマリアを始めとした町の民に接触できずにいる場面を通してこの町の自治を現しているというのです。
分かりにくい!
ただこの絵は縦に長いのもあってマリア宅の荘厳さ、精霊がまさに天界より降り注ぐダイナミズム、絵の奥の方で自治権獲得の手紙に驚く人というサイドストーリーをも目立たせるまさに秀作となっています。
レンブラント 34歳の自画像
あまり注目されていないのですが、展示を回ってみて「おお、これが本物か」と思ったのがレンブラントの「34歳の自画像」。
レンブラントは自画像を数多く書いているそうなので、モネの睡蓮みたいな位置づけみたいなカテゴリだと思いますが、wikipediaのサムネイルにもなっている角度の絵だったので感動しました。
他の人たちがまったくこの絵の前で立ちどまらず、次のフェルメールの絵に群がっていたので寂しかったですが。
フェルメール ヴァージナルの前に座る若い女性
日本人が大好きなフェルメール。
「真珠の耳飾りの少女」や「牛乳を注ぐ女」といった絵が有名ですが、今回来たのがタイトルにある絵です。
ヴァージナルとはチェンバロに似た鍵盤楽器の一種です。
フェルメールの作品は窓からの日光で部屋が照らされて明るいタッチで描かれているのが多いそうですが、この作品はカーテンが閉ざされ暗い印象を受けます。
フェルメールの他の作品に「ヴァージナルの前に立つ女」という作品がありますが人物の向きや配置、カーテンが開かれている点も含めて比較が面白いです。
フェルメールの絵は人気な上に他の絵に比べてこじんまりとしていたため、一番見るのに苦労しました。
クロードロラン 海港
クロード・ロランのこの絵がこの展覧会で特に気に入ったものになりました。
元々こういう港町系の絵は好きだったのですが、この時代らしい帆船と石造りの建築様式が大海にマッチしてて当時のロマンを感じます。
実際見たら色使いも日の光も美しい上に絵の大きさもあり、実際見てみないとこの衝撃を味わえない、まさに展覧会で見るだけの価値がある作品と言えますでしょう。
ターナー ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス
ウィリアム・ターナーが遺言により自らの作品をナショナルギャラリーに寄贈したのが、美術館拡大のきっかけとなったと言います。
幻想的でダイナミズムのある風景画でかくも高名なターナーですが、この作品も見てて飽きません。
ただ自分の眼が悪いのか、オデュッセウスを見るポリュフェモスの姿がイマイチわかりません。
煙の中からなんとなくパーマな頭をした謎の人影のようなものが見られますがこれなのでしょうか。
しかしこれが山肌だと見るならそれに見えたりもします。
これが巨人に見えるか山肌に見えるか煙による幻覚なのか、実際鑑賞して確かめてみてください。
ゴッホ ひまわり
今回の展覧会最大の目玉、それがこのゴッホのひまわり。
日本に存在するひまわりというとSOMPO美術館(旧東郷青児記念美術館)にあるものを見たことはありますが、このナショナルギャラリーのひまわりはゴッホのサイン入りです。
目玉作品なだけあり、流石の人だかりでした。
しかし展示コーナーは広めに確保されており、傍らにはゴッホとひまわりに関するストーリーが飾られ、より絵画を知れるような空間の作り方をしていました。
そして意外と絵が大きかったため、人が多い中でもしっかりと鑑賞ができました。
炎の画家ゴッホと言われるだけありますが、この絵を見てその意味がよくわかった気がします。
迸るほどの黄色、そして近づいてみると油絵らしく厚塗りに次ぐ厚塗りでモリモリとひまわりの花が盛り上がっていました。
画面や図絵で見るだけではこの凄みはなかなか伝わらなかったので、本当に直に見られてよかったです。
この溢れる生のエネルギーと情熱の伝わる作品を生み出した人が、それからわずか2年後に自ら命を絶ってしまうとはなんとも儚い気持ちになってしまいます。
鑑賞後
2年分の期待を抱えて鑑賞したナショナルギャラリーは本当に最高でした。
そしてこの展覧会が終わると同時に、国立西洋美術館は2022年春まで1年半に渡る改修工事に入りました。
このコロナ禍による開館短縮や企画展中止を期に長期休館や改修に入るミュージアムもポツポツあると思います。
いつか行きたいなあと思っていた品川の原美術館は群馬へ活動拠点が移るに伴い閉館してしまいました。
いつかくるその日まで耐える日々が国内で続いていますが、待ってくれない現実というのも存在します。
感染対策をし、密を避けながら、行ける機会があったらミュージアムにちょくちょくとこれからも通おうかなと思っている次第です。
そしていつかは本当のナショナルギャラリーに行こうと密かに計画しています。
明日を生きる活力を貰えるという点でも、行ってよかったです。