都職員のデジタル力を高める「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」~デジタルスキルマップを活用した人材育成・採用環境~
東京都では、2022年2月に「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」を策定し、デジタルサービスを支える「ひと」の確保と育成、および最大限の能力を発揮できる組織づくりの一環として、Udemy Business(以下、Udemy)を活用しています。
今回は、デジタル人材の採用はもちろん、方針に沿った職員の研修・配置・スキル把握などの新たな取り組みについて、星埜さんと長岡さんに詳しくお伺いしました。
「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」の背景
星埜:DXやデジタルという言葉を耳にしない日はありませんが、その背景には世界に比べて日本のデジタル競争力が低迷しているという事実があります。
また、行政のデジタル化も、海外主要都市と比較するとデジタル手続きの利用率・満足度ともに低い数値となっています。
東京都庁でもDXを進めるにあたり、デジタルのわかる人材が庁内に不足しているという課題があります。
こうした課題を解決するために、今回「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」を策定しました。
DXでは「どんなデジタルツールを入れるか」が着目されがちですが、ツールを使うのはあくまで「ひと」です。
私たちはDX推進という命題に対して、「ひと」の観点からどのようにアプローチしていけばよいかということを考えながら、取り組みを開始することにしました。
大事なのは「ひと」を育てること~デジタル人材の位置づけを明確化~
星埜:「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」で最も重視しているのは、「ひと」を育てることです。
組織としての共通認識を持ち、どこをめざすのかを明確にするために、まず「デジタル人材とはどういう人を指すのか」を定義づけしました。
というのは、一口にデジタル人材といっても、ネットワークやセキュリティ、アプリ開発に詳しいなど、さまざまな専門分野に分化しているからです。
どういった人材を採用・育成する必要があるのか、解像度を上げていかなければ人材の確保も育成もうまく進まないと考えました。
今回定めた「組織が求めるデジタル人材像」では、以下の3つを掲げています。
ICT職:都政とICTをつなぎ、課題解決を図る人材
高度専門人材:民間から登用する、豊富なデジタル知識と経験を有する人材
リスキリング人材:ICT職以外の職員で、デジタルスキルを身につけた人材
DXを進める際によくある例として、外から来た詳しい人に任せきりになるという課題があります。DXで組織変革をするには、職員自身のデジタルスキルを上げていかなければ行政サービスの質向上は叶いません。
そこで、職員のリスキリングを進めながら、ICT職についてはより専門性を上げる研修を実施し、組織全体のデジタルスキル向上に取り組んでいます。
東京都では、こうしたデジタル人材育成の取り組みを「東京デジタルアカデミー」として全庁的に、また区市町村との連携も図りながら進めたいと考えています。
デジタルスキルマップで職員のスキルを見える化
長岡:デジタル人材の戦略的な確保・育成策を検討するうえで、まずは一人ひとりの職員と組織全体がどのようなスキルを保有しているのかという「現在地」を把握することが重要だと考え、スキルの可視化に取り組んでいます。
「デジタルスキルマップ」と呼ぶこの取り組みでは、ICT職のデジタルスキルを、データ・デザイン・インフラ・アプリ・セキュリティなどの22項目に分類しています。
またスキル項目ごとにレベル感を可視化することも重要だと考えます。例えば、アプリ開発において細かい指示があればコーディング「できる」人と、設計から「できる」人では、大きな差があります。その差を表現できるように、4段階のレベルを設定しました。
スキルレベルの判定にあたっては、スキル項目ごとに各分野で経験したプロジェクトの複雑性・役割・件数、資格の保有状況、組織内外でのセミナー講師経験などをフォームに入力してもらい、総合的に判定しています。
また、職員がさらなるスキルアップをめざすモチベーションを引き出し、具体的な行動をおこすところまで促進したいと考え、1on1を組み込んだことも大きなポイントです。
1on1の実施にあたっては、ガイドブックの展開やコーチングの研修など、メンター向けのサポートも行っています。
デジタルスキルマップを活用した人材育成と採用活動
長岡:デジタルスキルマップは、22のスキル項目すべてを最高レベルへ引き上げることをめざすものではありません。
一人ひとりの職員が自身のキャリア志向や組織から求められる役割などに照らして、優先度の高いものから集中的にスキルアップを図るのが狙いです。
また、たいていの業務で複数のスキルが求められるため、どの役割にどんなスキルが必要なのかを整理する必要もあると考えました。
そこで、10種類の役割ごとに求めるスキル項目とレベルを整理したものが「ジョブタイプ」です。
デジタルスキルマップの取り組みは、ICTやデジタルに関する「共通言語」を作ることも狙いの一つです。
都庁内で表現を統一することはもちろん、今後はスタートアップや民間企業との協働機会の増加が見込まれます。
また人材の流動性が高い状況も踏まえ、行政内だけでなく広く一般的に通用する表現を用いることも意識しています。
都庁が掲げるデジタル人材育成のゴール
星埜:私たちはデジタル人材の育成を通して、行政サービスの質を向上させ、それにより都民の生活の質をも向上させていきたいと考えます。そのため「東京デジタルアカデミー」では、次の3本の柱で職員のデジタル力の向上をめざしています。
1.人材育成
2.先進事例の調査・分析
3.区市町村連携
先述したとおり、この「東京デジタルアカデミー」では、区市町村との連携を重視しています。都民の皆さんは、都庁だけでなくお住まいの区市町村のサービスも受けながら生活されています。したがって、都職員だけでなく区市町村職員のデジタル力の向上も視野に入れ、連携を深めながら私たちの提供する行政サービスの質を上げていきたいと考えます。
また、一つ目の柱である「人材育成」では、全職員のデジタルリテラシー向上については年間4万人、リスキリングによるデジタル人材育成については5年で5千人を目標としています。
Udemyは管理職・管理職候補者向けとICT職向けの研修で活用しています。職員が様々な知識を幅広く勉強できる環境を整えたいと考える中で、時間と場所の制約なくどこでも学べるUdemyには大きなメリットがあると感じました。研修で必須としている講座だけでなく、職員の自己啓発として自主的に受講できるので、モチベーションの高い職員のニーズにも応えられるサービスだと思います。
都民に求められるサービスを創る組織をめざして
星埜:デジタルテクノロジーはどんどん変化し、進化しています。
それに伴い、行政への要望も多様化しつつあります。
行政自身も常に変化が求められ、そのスピードも速くなっていく現代において、デジタル人材の確保と育成は不可欠です。
都民の要望の変化に柔軟に対応し、より質の高い行政サービスを提供し続けられる組織になるために、ICT職や高度専門人材といったデジタルに強みを持つ人材を確保するだけでなく、都職員自身のデジタル力をこれまで以上にアップグレードさせていきたいと考えます。
長岡:デジタルスキルマップによるスキル可視化を足掛かりに、デジタル人材の戦略的な確保・育成を進めるとともに、個人と組織のパフォーマンス最大化を図る、いわゆるタレントマネジメントの取り組みにもつなげていきたいと考えています。
情勢や都民のニーズの変化に対応し、QoS(サービス提供の質)の高いサービスを提供するため、自律的かつ継続的にアップデートし続けられる組織づくりをめざします。
※こちらの記事は2022年12月に発刊した「行政DX通信vol.5」に掲載された記事より、紙面スペースの都合でご紹介しきれなかった内容を追加してお届けしています。