青空文庫と著作権法に考える


青空文庫という、無料で読める電子書籍がある。ご存じの方も多いことだろう。
これは、著作権が切れた古い書籍をボランティアの方々が入力作業および校正作業をしてアップロードされているものである。なので、過去の膨大な名著が無料で読めるという、とても素晴らしいITの恩恵なのだ。

現在の日本国の著作権法によると、その規定は「作者の死後70年後に失効」となっている。
これは、TPP協定締結に関連する著作権法改正に基づき、2016年から期間延長されることになった。1967年に前々回の法改正があり、そこから2016年までは死後50年で失効とされていた。法律は基本的に遡ることはないのだけれど、条文改正であれば、遡って効力を持つ。つまり、1968年没以降の作家に関しては、すべて死後70年間に統一された。

今年は、三島事件からちょうど50年である。旧規定のままであれば、来年1月1日に三島由紀夫の著作権が失効し、彼の作品群も青空文庫入りしたであったろうことが予想できる。有志たちにより、すでに作業も進められてきたそうだ。

だが、TPPに加盟したことによって、彼の作品は2041年まで失効しないこととなった。残念ではあるが、仕方がない。ただ、別に三島の作品が安価に読みたければ、古本屋にいって文庫本を買い求めればいいことである。AmazonやBOOKOFFで通販で買い求めてもいい。

SNSやネットニュースの隆盛は、すばらしいことである反面、日本語に対するさまざまな言葉の応用やスラングが増えたことと、校閲のろくにされていない不確かで幼稚ともいえる言説が多く出回ってしまった弊害もある。言葉は変わっていくものなので、これも時代の流れかも知れない。

ただ、フェイクが出回ることは、まったく違う。近年よく使われるリテラシーという言葉は、ネット以前のメディア・リテラシーから広まった。つまり、放送や新聞、ドキュメンタリー作品といったマス・メディアによる偏向性や編集のきりとりによる誘導、プロパガンダを疑えという考え方だ。代表作としては1997年に出版された野沢尚の「破線のマリス」が有名だ。この作品は2000年に黒木瞳の主演で映画化され、それなりに話題になった。

SNS、とくにツイッターが流行したことによって、短文が好まれ、長文はネットに向かないというイメージが構築されたように思う。ただし、そういう人は、もともと書籍などは読まない層だったわけで、そこにおもねる必要はないのである。読み手としては、リテラシーをもった選別ができるのであれば、有用なものもあるし、すべてが悪いわけではない。それは匿名掲示板にもいえる。すべては、受け手次第なのだ。

私は、元編集者の物書きなので、できるだけ正しく、また受け手に伝わりやすいように文章を書こうと心掛けている。しかし、SNSに投稿することに慣れすぎると、私自身、誤字脱字をしたまま、また一次ソースを確認しないままに、さらに皮肉をまじえ、言い回しをわざと間違えて投稿してしまう実情に気づいた。

これではいけないと感じ、たまに青空文庫の過去の名作を読むことで、文章の浄化をしているのである。べつに青空文庫でなくても、有料の電子を含む書籍でもかまわないのだけれど、歴史を経て、いまなお読み継がれる本には、それなりの意味があるものだと考えているからだ。


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